北新地超高級クラブママの流した涙の理由とは?
ここ日航ホテルの最上階にあるBarのドライマティーニは、ニューヨークにあるBarと比較しても遜色ないテイストだ。
恭子さんと数杯グラスを重ねる。僕は気が付いていた。いつもはそんなに呑むことがない恭子さんのピッチが早い。きっと大きな悩み事があり、一人で抱え込んでいるのだろうと…。
青年おやっさん
「恭子さん…?ストレス抱え込んでませんか?もし僕で良ければ、お聞かせください!」
恭子さん
「義君。ありがとう。そのつもりで、あなたに逢いにきたの…。他に相談する人がいなくって!」
その表情には、とてつもない哀しみが見え隠れしていた。きっと一人で苦しんでいたのだろう。
青年おやっさん
「恭子さん…。ひょっとして中島氏に関する事なのでしょうか?」
恭子さん
「そうなの…。彼からは誰にも言うな!と言われていたけど。私、とっても辛くて…」
青年おやっさん
「恭子さん!なにか僕でお役に立てることがあったら遠慮せずに仰ってください!」
すると恭子さんの、大きくて澄んだ瞳から涙が流れ落ちた。
恭子さん
「ごめんなさい…。義君にそう言って貰って…。実は中島は私の父親で、愛はお腹の違う妹なのよ」
うそぉ~ん……!
その展開は、まったくもって予想外っす!
恭子さんと愛ちゃんが姉妹?ほんでもって、中島氏が恭子さんの父上?そんな関係だったのですか!ほんで、あたしゃどうすれば?
こののっぴきならぬ情況で、引いたらあかんで!大きな心で受け止めんと!
青年おやっさん
「そうでしたか…。でも個人的な意見ですが、僕はホッとしています。中島氏と恭子さんと愛ちゃんに囲まれ、今までにない未知な経験させて貰っているので。で、中島さんになにかあったんでしょうか?」
恭子さんが再び大粒の涙を流す。そっと501のバックポケットにあるバンダナを差し出す。
恭子さん
「父が末期の肺癌なの!余命は長くて一年だと主治医から伝えられたわ…。愛には知らせるな!と父は言ってるのだけど、私どうすればいいのかしら?」
マジですか……?
となると、中島さんの最期の仕事が桜宮のラブホテルか!これは絶対に中途半端できないな!1分1秒でも、中島ファミリーと関わって行こうと決心する。
青年おやっさん
「恭子さん。愛ちゃんには、僕が伝えますから安心してください!今度、3人で逢いませんか?僕が一席設けますので…」
恭子さん
「ありがとう義君。でも、本当にあなたは不思議な人ね。初めてクラブで出逢ってから、まだ半年なのに…。あなたは人を惹き付ける、なにかを持っているわ。父も愛も同じように言ってるわ!」
青年おやっさん
「恭子さんに、そう言って貰えて光栄です。でも僕は、自ら人を惹き付けようと思ったことはないですよ。人は多かれ見た目で判断します。着ているモノや、身に付けている時計などで。でもそれが、その人物の本当の姿ではないと思います。見た目と本質に違和感があれば、ただのつまらない人になります。中島さんと初めてお逢いした時、僕は強烈に惹き付けられました。そして関わって行く度に、男の本質を教えて頂いています。そして恭子さんも見た目以上に、素敵な本質を持っていますよ!」
恭子さん
「やっばり義君に相談して良かった。他の男性では、そんな答え出してくれないわ!」
恭子さんに少し笑顔が戻る。追加でドライマティーニをオーダーする。馴染みのスタッフが、マティーニとともに頼んではいないブルゴーニュ産のブルーチーズをテーブルに置く。
青年おやっさん
「オーダーしてませんが…」
馴染みのBar Stuff
「大変失礼だと思われますが、お二人のお話しを少し聞いてしまいました。申し訳ございません。私は中島様に大変お世話になっております。そして中島様は、若いが骨のある男を送り込むから面倒見てやってくれ!と仰せられております。そんなご病気だったのですか。でも、さすが中島様の見込まれた方です。太中様は見た目以上に、私達を惹き付けます。失礼いたしました。よろしければ、お召し上がりくださいませ。また、なにかお困りでしたら何なりとお申し付けくださいませ!」
青年おやっさん
「本当にありがとうございます。よろしければ、お名前お聞かせください」
馴染みのBar stuff
「はい!私は三木真二と申します!」
青年おやっさん
「三木さんのお気持ちに感謝して、ありがたく頂戴します。恭子さんチアーズしましょう!」
三木さんは、深々とお辞儀をして席を後にした。きっと、これも中島さんの男気の成せる本質なんだろうと心に刻み込む…。
恭子さんをフロントまで見送りドアマンにタクシーを呼んでもらい、見えなくなるまで深々とお辞儀した。気が付けば、僕も一筋の涙を流していた。
深いお辞儀と共に流した一筋の涙…。人の一生とは一体なんなんだろう?誰と出逢い、どんな関係を持って、どのように時を過ごし、同じ飯喰って、盃を重ねる。そこに存在するのは一生という時間の中の、ほんの片時かもしれないが、人は人なしでは人から見た己の存在も、己から見た人の存在も幻のようなものになってしまうのだろう…。
肩越しに声がした!
Bar stuff三木さん
「太中様。三木です!もしお時間がありましたら、私にお付き合いいただけませんか?」
青年おやっさん
「三木さん。お恥ずかしところをお見せしました。もちろん三木さんの、お誘いを断る不粋な若造ではありません。喜んで、お付き合いいたします」
Bar stuff三木さん
「ありがとうございます。ここから歩いて数分ですが、二色という小さな一杯呑屋ですが、よろしいでしょうか?」
伝説の中野とともにミナミの飲ん兵衛から、絶大な人気を誇る呑屋。僕も中野と二色は、ミナミで遊ぶ時は必ず通っていた。二色の名物は、なんといってもイワシの天婦羅とちくわの天婦羅である。たっぷりの大根おろしに乾燥椎茸ベースの天つゆがかかっている。
そのお値段が、あっと驚くイワシ天一匹50円!他の肴も撃沈リーズナボー。そして、キリンの大瓶が380円。大将がご機嫌やと、5本呑んだら1本サービスもある。
青年おやっさん
「二色ですか。いいですね!お供いたします三木さん。仕事を離れていますので、敬語はしないでください。僕には先輩なので、普通に接してくださいませんか?」
Bar stuff三木さん
「そういうところが、人を惹き付けるのですよ!では、どう呼びます!」
青年おやっさん
「普通に太中で大丈夫です!僕は三木さんを兄貴と呼んでいいですか?」
Bar stuff三木さん
「兄貴は嬉しいです!でも太中と呼び捨ては、どうもいけません!」
青年おやっさん
「じぁ、兄貴!太中ちゃんで、どうですかね?」
Bar stuff三木さん
「いいですね!太中ちゃん!」
こうして呼び名も決定した二人は、二色の暖簾をくぐったのである。