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厨二ズム

 今、俺の眼前には5人(人?)のモンスターというかゴーレムというか騎士というか侍というか天使がいる。



 筋骨隆々の八面六臂、阿修羅像をファンタジーちっくにしたらこんな感じだろうと言った風の大男


 獅子人間をそのままゴーレムにしたような、赤茶色の毛に金属質の素肌をした6mはあろうかという巨躯。


 日本人の思い描くナイト!然とした全身甲冑に身を包み、キラキラと光を反射する両手剣を腰に下げた騎士。


 騎士とは打って変わって、刃の付いていない柄だけの日本刀を2つ腰に結んだ着流し姿の侍。


 手に持った杖に比べ小柄の翼持つ少女。天使だ。

 目つきはキリッと引き締めているが、杖に重心が引っ張られて時折バランスを崩しそうになっている。とてもKAWAII。



 とまあ、5人目以外は全員俺よりデカイから圧迫感がスゴイ。

 本人達にその気はないのだろうけれど、5人とも揃って俺に意識を向けてるものだから萎縮してしまう。



「えー、と…楽にしていいぞ?」


主人(あるじ)からの御慈悲、恐悦至極でございます」

『しかしながら我ら被造物たる身であり』

「我らが創造主たる御身に今はまだ一つとして利する事が出来ておりません」

「よって、お言葉に従えぬことにご容赦の程を」


「あ、そう…」



 これである。

 なんというか、忠義が厚い。厚すぎる。


 こちとら魔王が文献に書かれている魔神の能力を説明して、言われるがままにアレコレしただけなのだ。


 訳の分からない忠誠心を誇示されても戦々恐々するだけで、俺としては【状態異常:困惑】といった感じだ。



「マスターの言葉の真意を読み取りなさい。困らせてしまっていることに気付かないのですか?」



 と、横から可愛らしい声で指示が飛ぶ。


 フワフワした金髪に隠れて見えないが、目元をキッと引き締めているのだろうと思ってしまうのは、小柄で動作の一つ一つに擬音が付きそうな雰囲気をしているからだろうか



「私たちがマスターに堅苦しく接することでマスターの心労となってしまう可能性も考えてください」


「であれば」

『我らも本意ではない』

「御身の気苦労となりたくはありませんな」

「然り」



 君たち仲良いデスネ



「ん〜…先ず何から話そうか」


「差し当たって、私たちに命ぜられる任務などは如何でしょう?」


「ああ、それなら暫くは俺の護衛をお願いしていい?」


「『「「「お任せください!」」」』」



 場所は魔王城の一角、大広間だったこの部屋……というか大広間を含むこの1塔が魔王から貰った俺の居住区という事になる。


 そんな場所で2人の巨漢を含む5人が大声を出せば



「魔神様、お時間よろしいでしょうか?」



 このように、構いたがりの魔王が顔を出してくる。



「偵察に出ております一部を除き、魔王軍全軍がこの魔王城とその近辺に集結いたしました。

 先日お話しました通り、魔神様のお言葉をかけていただければと…」



 ごめん、真面目な話だった。



「えっと、ぶっちゃけどうすればいい?魔王さん」


「魔人様のお力をお示しください。貴方様の強大なお力を目にすれば我ら魔王軍の士気は向上することでしょう」



 ああ、漫画とかでよくあるアレね、なんか雷とかビシャーンってして雑魚がウオオオオオ!ってなるヤツ。



「……できる?」



 目線を移し、命令はまだかまだかと跪いたまま雰囲気で語りかけてくる彼らに質問する。

 すごい、ウズウズという擬音が見えそうなぐらい分かりやすい背中をしている。



「容易いことでございます」

『御方に被造されし身としてご期待に応えてみましょう』

「我らの力、御身に示してみせます」

「どうか御命令を」


「私たちはマスターのモノでございます。例えどのような命令であれマスターの為に尽くします」


「…よし!じゃあみんなに命じる!魔王軍に力を示し、士気を上げる。地を割り空を裂き、山を切り崩し海を斬りひらいてみせろ!その身の全てを以て俺に尽くせ!!」


「『「「「ハッ!」」」』」



 ………むず痒い。

 絶対に日常では言わないような言葉を使っている。

 中二病とか言われる類のセリフばかりだしそれを言われるのも言うのも恥ずかしくて二重三重にむず痒い。


 今すぐにでも頭を抱えて叫びたいが、流石に人目につく場所でそれをするのは憚られる。


 ま、まあ、ちょっと…ほんのちょっとは?気持ちいいし?“こういうの”に憧れがないかと言われれば嘘になる。

 それに────



「?」



 チラリと横を見れば、自信満々といった風に笑顔を返してくる…こう、控えめに言って美少女がいる。


 こういう可愛い子に忠誠を誓われて嫌な気にはならない。

 いやまあ、造ったというか、彼女たちの創造主は俺なんだけどさ……














 魔王城のテラスが見えてきた。

 かなり高い位置にある筈だが、外に集まった魔王軍の数が数なのだろう、ザワザワと喧騒が俄かに聞こえてくる。


 魔王軍を纏めている魔王本人が「自分と同じかそれ以上に強い」と評したのだし、彼女たちの実力を疑う余地はないが、それでも少しだけ不安というのはある。



 もし思ったより士気が伸びなければ


 もし落胆でもされようものなら



 胸中に渦巻く不安が、無意識に呼吸を早める。

 ゴクリ、と知らず喉を鳴らす。



 ───外の景色が、視界いっぱいに広がる。



 どんよりと淀んだ空、黒雲の狭間を赤い雷が走っている。

 無知の現実に、異世界なのだという実感が深まる。


 次いで、大地を、空を、世界を震撼させるような錯覚を覚えるほどの大歓声があらゆる方向から響く。


 統率の取れていない群衆のような、思い思いの声と言葉がごった返したその声は、それでいて一つの意思で統一されていた。


 期待


 が知る言葉の中で1番近いだろうか、見るも恐ろしい魔王軍は、雑兵の一駒、スライムやゴブリンに至るまで輝きを宿した瞳をこちらに向けているのが分かる。



「うおお…」



 気圧される…とは少し違うのだろうか、ともすれば潰されそうなほどの数と、それに比例した期待を向けられて圧巻の一言を零していた。



「我が配下たる魔物たちよ!我らの目的はなんだ!!」



 魔王の問いかけに、いくつもの答えが返ってくる。

 一致しているのは人間に対しての害意で、それ以外は全てバラバラだ。


 生物であれば、生存本能や個体的な目的意識から、特定のものを憎悪することはあるだろうが、一つの種に対してここまでの敵意を持つというのは………人間にとってのゴキブリみたいなものか。



「そうだ!我ら魔物を地の底へと押し込んだ神々を!その信徒たる人間どもを支配する!!我らの力に恐れをなし、首を垂れる奴らの姿をこの目に焼き付けるのだ!!」



ワッと、歓声が上がる。

十二分に士気が向上しているように思えるほど、魔王のカリスマというヤツは高いのだろう。



「しかし!我が身に掛けられた呪いのせいで、我が魔法による魔王城の隠蔽は兎も角、人間どもを傷つける罠の設置や迷宮の創造さえ出来ていない!!忌まわしくも、数百年ずっと!我々は、辛酸を舐めさせられてきたのだ!!」



魔王の声に怒気が込められる。

後ろにいる俺も人間なんだけど……というかなんで魔王は俺が人間だって気付かないんだ?



「だが!それも今回で終わる!貴様らが噂していることは事実だ!私は遥かな太古に記された文献を頼りに、神々と同等以上の力を持つ魔神の召喚に成功した!!」



魔物たちの目がこちらへと移る。

というかかなり離れてるのによく俺が見えるな…魔王はデカイからともかく俺は170ちょいぐらいしかないぞ?



「刮目せよ!今日より我ら魔王軍はかつてない最強の軍となる!!称賛せよ!賛美せよ!ここより征服が始まるのだ!!!」



2度目の歓声。

だが、先ほどとは比較にならないほどの雄叫び。

大地が割れるのではないかと思えるほどビリビリと響いている。あまつさえ、視界が震えているように錯覚するほどだ。



「マスター、ご指示を」


「あっ、ああうん…それじゃ、順に地面を、空を、山を、海を、世界にその力を以って俺に示してみせろ!」



「『「「「お任せを!!」」」』」



口元の緩みや恥ずかしさで歪む頬、等々を合わせ“もにゃつく”表情を必死に堪えて、指示を出す。



テラスを越え、僅かな迷いもなく飛び降りる巨人。


体の各所を変形させ、宙を滑空するゴーレム。


豪奢な鎧に雷光を煌めかせながら、眩く光る剣を掲げる騎士。


揺らめくように姿を消し、幾つかの残像を残しながら城壁を駆け下りる侍。


背の翼を羽ばたかせもせず、フワリと浮き上がる天使。



東西混合、異色混沌とした異様なその景色は、もしゲームであったなら駄作と呼ばれただろう程に世界観にそぐわなかった。


だが、誰しもが二の句を告げないほどに、振るわれた力の何もかもが、現実味を帯びて目の前に広がっていた。



「見たか皆よ!これこそが魔神の力!その一端!!

我ら魔王軍を勝利へと導く5人の使徒である!!!」



いや違う。

魔王だけは納得のいった表情で演説を続けている。



切り立った崖や山嶺、立ち込める深い霧に隠されていた魔王城は、その姿を臆面もなく晒している。


遠くまで見渡せるこのテラスからは、荒れ果てた大地と、僅かに残る河川だけが写る。



山も、高低差も、崖も霧も雷雲さえも、消しとばされたように………いや、消しとばされたが故に、魔王城はただ一つポツンと建っている。



ごった返す魔王軍の数さえ、点に思えるほどに、破壊の爪痕が広がっていた。







「ええ…こっわ」


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