第八話「おわび」
「あ、あの……。それで、お詫びのことなんだけど」
屋敷に戻り、広間に設置されたテーブルに着くと、ハルハルはもじもじしながら切り出してきた。そういえば、そんなこと言ったっけ。
「あんまり、この家にお金とか、無くて」
「ああ、別に大丈夫。身体で払ってもらえれば全然」
「か、身体……!?」
真っ先にエロエロちゃんが反応する。そりゃそうだ、身体で払うとすれば、対象は恐らく自分なのだから。
「だ、ダメです! 身体なんて、そんな不埒な……」
「あ、そっか……。あいて! いててて! さっきの戦いで痛めた首が、いて! ……まあ、ダメって言うなら仕方ない、か……いててて!」
「ぐ……!!」
エロエロちゃんは顔を青くし、俺の白々しい演技に若干引き気味だ。
いや別に、人の良心に漬け込んでいるわけじゃなく、本当に首が痛い。
出会ったときにこのメイドの中の誰かに後頭部からぶん殴られたからな。
「……な、なにをすれば、いいんですか」
お?
「そ、その、私、経験とか、無くて」
「え、なんの?」
「だ、だから!……エ、エッチな」
「なんの話?」
「えっ?」
「えっ?」
反応からなんとなく分かってたけど、エロエロちゃんはだいぶ早とちりな女の子だった。
「えー……ゴホン! さっきのことは忘れてください」
「いや、エロエロちゃんがいいんならそれでも良かったんだけどね」
「ダメです! あなたがやろうとしているのは、マラソンでスタート地点から一気にゴールまでワープして、ランナーズハイだけ味わおうとするような傲慢な行為です!」
動揺が残っているのか、いまいちピンとこない例えが飛んできた。
まあ、途中にある苦難をかき分けかき分け進んでいくほうが、勝利を手にしたときの喜びは大きいということには同意できる。でも、この場合なんかズレてない? 怒るとこそこ?
「あと、エロエロでいいです。……で、具体的に何をすれば」
「あ、そう? ……これから二週間、毎日二十四時間ずーーーっと半径1m以内にいて、君の匂いを嗅がせてくれ」
「ええ……」
なぜだろう、エロエロはエッチの件の時よりも引いている。え、こっちのほうがキモい?
「変態度が増しましたね」
金髪、じゃなかった、ミサミサは静かに言った。
そうか? まあ、さっきも同じようなことを言ったら地下に閉じ込められたけど。
「あ、あのね、言い方はキモいけど、サカキくんはこの地域の臭いが本当にダメみたい。でもね、エロエロの体臭を嗅いでる時だけは正常でいられるみたい」
ハルハルがフォローに入ってくれた。そう、それが言いたかったんだ。
「体臭って……。…………分かりました、ただ、さすがにお手洗いとお風呂の時は……」
「いや、さすがに一緒じゃないでしょ、常識的に考えて。説明しなくても分かると思ってたけど」
「なっ……!」
エロエロは顔を紅潮させ立ち上がり、うっすらと涙を浮かべながら後ろに二、三歩後ずさり、その場にしゃがみこんでしまった。ハルハルとミサミサが俺を睨んでいる。なんだなんだ、俺が悪いのか。
エロエロの脳内がエロエロなのが原因なのに。
って言おうとしたけどやめといた。