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第七話「説得」

「ワオ~~~ン! 食べてやるでガオ~!」


 外に出ると、気の抜けるような鳴き声を上げるモンスターが、尖ったかぎ爪をぶん回しながら、辺りを荒らしつくしている光景が目に入った。

 既にエロエロちゃんと金髪メイドはそこにいた。こんな状況ながら、エロエロちゃんの体臭により久しぶりに息を整えることができ、落ち着いている自分がいる。


「エロエロ! ミサミサ! 大丈夫、サカキくん連れてきたよ! 彼、キノープス出身なの」

「……えっ! よ、良かった……」


 エロエロちゃんは緊張した顔をぐにゃりと緩め、助かったとでも言いたげな表情で俺を見る。金髪メイドもといミサミサも、ホッとした表情で薄い胸をなでおろしていた。

 どうしよう、今更地球のペット禁止のど田舎アパート出身とは言えなくなってきた。


「サカキバラ、これまでの非礼は後でいくらでもお詫びします。だから、どうか、あのモンスターを帰るよう説得してくれないでしょうか」

「サカキバラさん、私からもお願いします」

「サカキくん!」


 メイド達は涙を浮かべながら俺の前で頭を下げた。

 ……ここで立ち向かわないと、男が廃るか。

 どうせ死ぬなら、せめて一矢報いてからでもいいだろう。


「……しょーがないな! ちょっとここで待ってな、メイド達よ!」


 無策だけど。




「き、気を付けてくださいね、サカキバラ」

「おう、ちょっくら行ってくるわ! か~、久しぶりだから無理かもなぁ、久しぶりだから」


 メイド達を後に、俺はモンスターの元へ向かう。幸い、別れ際にエロエロと握手をしたときに手についた残り香を嗅ぐことで、俺は外を歩くことができた。


「ヒュー! 豪快だねえ!」

「……ワオ? 誰だワン?」


 モンスターのいる地点に着くと、あたりに生えた木々は荒らされ……ておらず、多少の枝は折られているものの、ひどく損傷された場所は無かった。現にこのモンスターは、目の前で通りづらそうに木と木の間を慎重にかき分けて移動している。

 こいつ口ではなんか大きなことを言っていたが、実際中身はそうでも無いんじゃないか? そう感じた俺は、なんとなーく、こういう口だけの野郎が好きそうなキャラを演じて話しかけてみた。

 幸いというか案の定、犬のような鳴き声から想像できるように、全長5mはゆうに超えるだろうこの大きな犬は、攻撃するでもなく話に応じてくれるようだった。モンスターが出たと言われたときはビビったけど、よく見るとただの巨大な犬だな、これ。


「あ、どうも、わたくしキノープスのほうからやってまいりました、榊原という愚息でして」

「キノープスだと? ああ、あの人間に飼われた負け組モンスター共の巣窟か」


 …………


 怪しい消火器販売業者のような言い回しで話を進めると、キノープス出身ということがこの犬の興味を引いたようで、犬の一方的な世間話もとい自分語りが始まった。

 そこからこの犬の主義主張が見えた。どうやら、キノープス付近に生息するモンスターは、遠い昔、人間による駆逐から逃れるため、人間にこびへつらい生き延びてきた文化があり、その名残で今も飼いならされているんだというのが、犬の持論らしい。

 そして、今回この地域にやってきた理由は、二十年前に人間とモンスター間で安全保障条約・不戦協定が結ばれたせいで、ひどく保守的に落ち着いてしまった現代社会情勢に渇を入れ、昔(原始時代)のモンスター第一主義時代を取り戻すため、だそうだ。

 年齢を聞いたら十四歳らしい。なるほど、思春期のガキが考えそうな話だ。そもそも原始時代はおろか、二十年前ですらお前生まれてないだろ。

 だが、おかげで突破口は見えた。


「……なるほどね。話は理解できた。でもね、君の軽率な行動一つで、モンスターと人間の間に、深刻な問題が生まれてしまうってこと、理解してる?」

「そんなん知るかワン! 俺はこの退屈な世界に飽き飽きしてるんだバウ! 人間が作った電柱にマーキングするだけの毎日はもううんざりだワン!」

「わかったわかった。……つまり、君は退屈な毎日を変えるきっかけが欲しいわけだ。それも、社会に影響を与えるような」


 ちょっと真面目そうに犬の主張を要約してやると、犬は静かにうなずく。

 主導権は握った。良い流れだ。


「……そこで、今回選んだのが、人間界を荒らすことだと」

「ワン」

「……残念だけど、それじゃあ、何も変わらないんだよなぁ。……いや、変わらなかった、か」


 やれやれ、といった様子で俺は悲しそうに呟き、思わず乾いた笑いがこぼれる(演技だが)。犬は俺の反応に少し驚いた様子で、食い気味に口を開いた。


「も、もしかして、お前も昔、何かしたワンか?」

「……さあな」


 犬は惹きつけられたような顔で俺を見る。

 俺は視線を右下にそらし、「ああ、昔は若かったなあ」とでも言いたげな感を滲ませてみる。犬は勝手に何かを察した。


「犬、お前は俺の二の舞になるな」

「……」

「お前がやるべきことは、ここにはないだろう?」

「……ワオン」


「こんなくだらない世界じゃ、毎日葛藤するよな。だけどさ、心のうちに隠したその本心に、正直に真っ向からぶつかってみろよ。そうすりゃ、道は開けるから。……それが、落ちちまった俺が言える唯一のアドバイスだ」

「……はい。わかりました、榊原さん」


 この犬バカだ。何が分かったんだ?

 犬は満足げに帰っていった。まあ頑張れよ。

 

 ……ヴォエ! そろそろ手に残った香りも消えかけてきた。早く戻ろう。


 ああ、確かにパンフレット通り、危険度は地球レベルだった。

 そんでこの後滅茶苦茶感謝された。

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