第六話「モンスター」
「ヴォエ! ヴォエエ! し、死ぬ! 助けて、ハルハル! 開けてくれ!」
俺の告白は空しく宙に消え、再度俺は地下に監禁されることとなった。
「わはは! ごめんごめん、ただ、エロエロがどうしても嫌だっていうんだから、しょーがない」
「そこをなんとか頼むよ、ハルハル! 俺が清廉潔白だってこと、君なら分かるだろ! さもないとここで死んじゃうぞ、俺!」
今回は、地下までエロエロちゃんは着いてきてくれず、地下は完全な刺激臭で覆いつくされている。
俺は懇願した。しかし自分が感じたことのない苦しみを共有させるのは難しく、ハルハルは取り付く島もない様子で、一階へ戻っていった。
「あーあ……。ここで死ぬのか、ヴォエ! こんなことなら、戦国時代風プランにしといたほうが、まだ良かったかもなあ……、ヴォエ」
自分の選択を嘆く。安物買いの銭失いもとい、命失い。代償は大きかった。
母さんが俺の臭死体に対面できるのは二週間後か。臭気にあてられて、跡形もないだろうなあ……。ああ、来世は大手だけを信じよう……。
なんてことを考えていると、ドタドタとあわただしい足音が鳴り、扉の鍵が開けられた。
「ごめん、やっぱ出てっていいよ。モンスターが攻めてきた」
…………。
「ヴォエ! モンスター? え、いるの?」
おかしい。確か、事前に確認したパンフレットによれば、危険度は地球レベルだったはずだ。モンスターが出てくるなんて、そんな……。
「そりゃあいるよ。ただ、ここに来ることなんて、今まで一度も無かったのに……」
さっきまで笑っていたハルハルだが、今は額に冷や汗をかき、深刻そうな表情をしている。
おい、何か対策のようなものはあるんだろうな。
「ごめん。この地域の対策は自治体に一任してるから、屋敷でのモンスター対策はしてないの。それに、この辺りはモンスターが滅多に出ないから、対策予算もあんまり出てなくて……。つまり、対策なんて実際はしてないようなもんなんだ」
「じゃあ、このままじゃ……」
「死んじゃう。君も私も、他のみんなも。……でも、君が退治してくれるなら」
え、俺が? なんで?
「もちろん、地下に閉じ込めたりしたくせに、なんて都合のいいことを言ってるんだっていうのは理解してる。でも、もう君しか頼れないの」
「え、いやあ、それはいいんだけどさ、俺、モンスターとかそういうのはあんまり……」
震える自分の足元を見ながらそう呟くと、ハルハルは少し笑って言った。
「キノープス出身でしょ? モンスターと共生してる唯一の民族って、学校で習ったよ」