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第二話「臭すぎる」

 転送後、俺は市場のど真ん中に突っ立っていた。

 いや、首都の公園じゃないんかい、と突っ込もうと軽く息を吸ったその瞬間だった。俺の身体に衝撃が走ったのは。


「くっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっさ!!!!!!!!!!!!!!」


 !?


「くううううううううううううううううああああああああああああああああああああああ!! くさくさくさくさくさうおおおおおおおおええええええええええええ!!!! し、死ぬ! あ、あああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 わずか一秒。俺の鼻腔を通った市場の空気は、素早く上鼻道へと流れ込み、嗅粘膜へと到着した。

 その瞬間、いったい何の臭いなんだろう。とにかくこれまでに嗅いだことのない刺激的な臭いが、電気信号に変えられ大脳皮質の嗅覚野へと送られたのだ!


「死ぬ! 死ぬ! 死んじゃう! あの野郎!! 騙しやがったな!! ああくせええええええええええええ! 誰か! 助けて……!」


 急に現れた見知らぬ男が急に騒ぎ出したものだから、周りの異世界人は驚きを隠せないでいる。同時に、臭いと言われても……。という困った表情で、可哀そうな人間を見るような目つきでただ遠巻きに立っているだけだった。そりゃそうだ。俺だって、こんな奴、が……。


「あ……。あ」


 ……ヤバイ、頭が回らなくなってきた……。

 視界がぼやける。わらわらと人が集まってきたのか、空色に見える景色が黒く染まっていく。

 ああ、転送される前の違和感の正体に気が付いた。臭いがとんでもなくきつかったら、そもそも七日どころじゃなく一日と耐えられなくなるんだから、それが十四日に伸びたところで苦痛でしかないんだ。

 誰に言うでもないが、二十四時間対応の一方的な帰還要求は裏転送サービス界には存在しない。サポート対応に割く人員の不足と、転送位置の不安定による、被転送者の場所の特定困難、そして高額な費用がかかることなど。そういった理由で、裏転送サービスでは転送期間満了時でないと、違約金として大変大きな金額を請求されてしまう。通信業者のように。

 ……当然、俺にそんな金銭的な余裕はない。


「…………」


 そろそろ臭いも感じなくなってきた。目もいつの間にか閉じ、身体はひんやりとした地面に横たわっている。

 このまま俺は死ぬんだろう。異世界災害保険に加入してないから、保険も降りない。そもそも裏転送界は無保険が当たり前だ。ああ、こんな親不孝者で、ごめん、母さん。


 ………………………。



「異世界が臭すぎる」 完


























 ……!


「……あぁ!? あ!」


 脳に衝撃が走った。

 良い匂いがした。ほんのわずかだが、この窮地で俺の鼻が反応した。


「あ!! あああああ!」


 俺は手足を無理やり動かし、必死に匂いの元を追った。犬のように四つん這いになりながら、くんくんと鼻を鳴らし必死に走った。

 市場の食べ物の匂いだろうか。地球では嗅いだことのない不思議な匂い。

 とにかく言えることは、とても良い匂いで、この匂いの元にいないと俺は臭死するだろうということだ。


「わんわんっ! わんっ! クーン! ハフハフ」


 ワンワン、ワワン。俺は犬だ! 警察犬だ! 異臭発生事件に立ち向かうため、今手掛かりに向かって疾走中だワン!


「ワワン!? バウバウ! もうすぐだワン!」


 確実に匂いは強くなっている! 視界はまだぼやけたままで使い物にならないが、分かる! はっ、はっ、はっ。よだれが口からこぼれていく。もうすぐだ、もうすぐで俺は――――。


「わんっ! ワワワワーン!」


 捕まえた! ここ掘れわんわんだ!

 俺はついに、匂いの発信源を捕まえることに成功した! サルスベリの木のような太さで、ほんのり温かい。ケバブ屋がこれ見よがしにくるくる回しているあの謎の肉塊だろうか。そんな形状をした物体を俺は掴んだ。


「わん! ぺろぺろ、ぺろぺろ」


 引っ付く俺に負け、バタン、とケバブ肉は倒れた。

 あとで片言で話すケバブ屋のお兄さんには謝ろう。地球から持ってきたお土産を渡して。

 とりあえず今は身体中をこの匂いで満たさなければ。


「お、ここが特にいい匂いだワン!? お宝だワン! ぺろぺろ」


 今掴んでいるケバブ肉の上方部から、特に強い匂いを感じ、俺はそこに顔面をうずめた。どうやら、これはケバブ肉では無いようで、この上方部の左右からはまた柔らかいゴムのようなものが伸びており、なんだかよく分からないが、これを抱きしめていると俺は安心した。

 その匂いの発信源を、ぺろぺろと嘗め回しつつ、全力で俺は匂いを吸い込んだ。


 数十秒後、ようやく視界が開けてきた。


「ああ、良い匂いだった……。助かった、危うく死ぬところだった、本当に……。なんだか分からないけど助かりました。ありがとう」


 俺は、ぼんやりと形を認識しつつあるその物体の持ち主がいるであろう方向に顔を向け、お礼を言った。

 そういえば、異世界ではスマホが珍しいんだっけ。あとで見せてやろう。


「……か」


 目の前から声が聞こえる。この物体の持ち主だろうか。いやどうもすみません。


「……なんじゃこのバカ!」


 俺は、そのよく分からない言葉と共に、何か硬いもので頭を強く打たれた。

 明瞭になりつつあった視界がまたぼやけ、俺は気を失った。

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