第十一話「疲れた」
「ここがヨルド石橋です。この街から唯一外へ繋がっている道です」
「へえ~……」
「ここがカヤノ製糸場です。一応、この街の名産ですね」
「ほうほう」
「で、こっちへ行くと……。カフェですね。マスターは粘土細工が趣味らしいです」
「なるほど?」
「えー……、ここは……。もやし栽培場です。暗所で栽培するんですね」
「もう帰ろっか」
後半に進むにつれ、観光名所のグレードが落ちていく。あと三ヶ所も回れば、道端の石ころでも見に行きかねない。予想以上に何もない土地だ。秩父旅行のほうがまだ見るところはあるぞ。
「すみません、私もあまり外には出るほうではなくて」
「いや、文化人類学的な観点から、異国の住民の生活が分かるだけでも楽しいよ、はは……」
気が付くと日も落ちてきており、俺達は元来た道を戻って、屋敷に帰ることにした。
「あ、おかえり! どこ行ってきたの? 人形劇場とか?」
屋敷に着くと、掃除中のハルハルが出迎えてくれた。
人形劇場? そんなものもあったのか。
「いえ、人混みと狭いところはあまり行きたくなかったので……。ドーナツ屋さんに行きました」
「あと、もやし栽培場」
「それだけ!? どこそこ!? ……ダメじゃんエロエロ、そんなんじゃ何も始まらないよ!」
「何も始める気はありません」
そうかい……。
ガタガタトントントンジュージューコトコトカチャカチャ
「ご飯できたよ!」
昨日に続き、ハルハルが料理を作ってくれた。
主人もおらず、ミサミサも不在だったため、俺たちは寝室で晩御飯を食べることとなった。
「このサラダに使った野菜ね、全部私が育てたんだよ! 凄いでしょ」
え、凄いな! レタスに大根、パプリカ、あとこのなんか丸いやつ。毎日忙しいのにハルハルは偉いなぁ。
まだ二日しか見ていないが、掃除に畑仕事に料理に、とハルハルは何でもソツなくこなしているようだ。 それでいて、疲れも見せないで楽しく笑う、こんな女の子と結婚したいものだ。
「ハルハルは可愛いなぁ」
「え、そう?やったー!エロエロ、ごめんね!」
「別にどうでも良いです」
「エロエロはエロエロで可愛いぞ。意外と子供っぽいところとかな。良い匂いもするし」
エロエロは無反応を装いながらスープをすするが、うまく飲めずにダラダラと口から零し始めた。そりゃあ、そんな口角上がってりゃあな。
「ふ、無駄ですよ。そんな軽々しく女性に媚びるような男に、私はこの純潔は捧げませんので」
いつものように、エロエロの早とちりギャグが炸裂する。天然じゃなく、本当にそういうボケなのか?
昨日は疲れすぎていつのまにか寝てしまっていたから知らなかったが、浴場は男女共用だそうだ。
俺は、エロエロの入浴中一人で待つ代わりに、脱いだ衣類を自由にして良いという条件を要求したが、あえなく却下されてしまったため、大人しく寝室で待機することとなった。
ついさっきまでエロエロがいたこともあり、臭いはあまり酷くない。草津温泉周辺程度かな。
ここに来て二日経つが、分からないことはたくさんある。
こんなだだっ広い屋敷に、たった四人しか住んでいないことや、その主人すらもほとんど家にいないこと、生活費の出所、この家の人たちの経歴など。
没落貴族か何かなのかな。
……まあ、家庭環境についてはあまり触れないでおいたほうが良いか。
ちょっと寝よ。




