第十話「行きつけ」
「あら、いらっしゃい、エロエロさん。……お連れの方は、初めましてかしら? ふふ」
「こんにちは。この方は、カノープスからやって来た観光客です。私が案内役なので、渋々ですがこうして一緒に歩いています」
「……俺がモンスターから屋敷を守った英雄だってこと、覚えてる?」
「その後に入ってきた情報で、あなたの印象は変態に上書きされました」
こいつ、意外と喋るようになったと思ったら、割と言うやないか……。
店主さんは女性で、まだまだ若くて綺麗な、要約すると中世ヨーロッパ風の人だった。今はエロエロの話を聞いて、やや苦笑いでこっちを見ている。
「ふふ、仲が良いんですね。エロエロさんがそんなに喋っているのは珍しいです」
「なっ……。そんなことありません。被害者と加害者の関係でしかないんです、私たちは。……そんなことより、今日はドーナツを頂きに参りました」
エロエロは大きく深呼吸をしてから、いつもの調子で店主さんに話しかけた。なるほど、ここはドーナツ屋なのか。……じゃあさっきの白煙はなんだったんだ。中世ヨーロッパ風だから、で片付けていい?
そんなことは置いておいて、店主さんに気を取られ良く見ていなかったが、店主さんの目の前にはガラスのショーケースが立ち並んでおり、その中では様々な種類のドーナツが「俺に食ってくれ」と懇願している様子が見えた。
今でこそこんな人間になってしまったが、昔は将来ドーナツ屋さんになりたいなぁと卒業アルバムに載せる文集に書いたものだ。その後、夢は諦めたが、この色とりどりのドーナツを見ているとテンションが上がる。
「この、メープルシロップでコーティングしたドーナツでホイップクリームを挟んだ奴を下さい」
「ああ、メープル・ホイップですね。百二十五ジャムになります」
「エロエロ、俺、お金持ってない」
「とんだ無計画旅行者ですね」と呆れ顔で呟きながらも、エロエロは所望したドーナツを買ってくれた。おお、手に取ってみるとちょっとでかい。
やや大きめのそのドーナツは思ったよりも軽く、生地がフワフワとしたものであることが予想された。表面はメープルシロップでテカテカと光り、その上には粉砂糖が振りかけられている。美味そう!
……が、匂い、味については未知数である。ちょっと試してみるか。
「ごめん、エロエロ、ちょっと外で食べてくる」
「別に構いませんが……」
もしかしたらお菓子は食べられるかもしれない。牛乳嫌いの友達が、特定の会社のモナカアイスだけは食べられたらしい。そんな奇跡をこの異世界で見つけたい。
(ヴォエ! 無理)
ヴォエ! やっぱり無理だった。
が、あからさまに吐き出したり、無理やり飲み込む姿を店主さんに見せるのはどうしても申し訳ない。
俺は口にドーナツを含んだまま、精一杯平静を装いつつ店に戻り、エロエロの匂いを嗅ぎながら飲み込んだ。美味い!
全部食べた。
「いやあ、美味しいドーナツですね! もう一つ食べたいなあ~……なんて」
「お昼のおやつは一つまでです。買って帰りましょう」
「あ、そういうとこしっかりするんだ……」
店主さんと雑談を交えながら、食後のお茶を頂く。俺は、店主さんに勧められたチョコレート系のドーナツをエロエロに買ってもらい、店を後にした。エロエロがこっそりドーナツを二つ食べていたのを確認しながら。




