6-29 選択と運命
流れ出した私の血でベリアナの手は真っ赤に染まっていた。
だが、それでいい。
血は強く魔力が流れる。
私はベリアナと直接触れ合えるこの時を待っていたのだから。
「……白閃滅界。」
「くっ…離しなさい!!」
爆発的に膨れ上がる魔力を感じ、ベリアナは慌てて私から距離を取ろうとする。
だが多量に流れ出る私の血を凍らせて、私の体と剣とベリアナの腕を凍らせた為にベリアナは離れる事が出来なかった。
ベリアナは予想外の攻撃に慌てていたせいで転移をするのが一瞬だけ遅れた。
おかげで発動した魔法も完全に完成した。
「………転移を封じましたか。中々やってくれますね。とりあえずはこの血の錠を壊して、それから結界を壊すことにしましょう。ハッ!!」
ベリアナは無理矢理に剣を引き抜き私を蹴り飛ばした。
血の氷は相当の強度があった筈だったがベリアナはそれの上を行った。
剣が抜けドバドバと血が溢れ出ていく。
でも血を止めるだけの魔力でさえも使うわけにはいかない。
そして白閃滅界の第一段階のドーム型の結界は出入りすることを禁じ、そして二段階となる攻撃は始まった。
通じぬと分かっていても使い続けた氷魔法。それによって生み出された氷も今では氷の丘のようになっていた。
重なり合い溜まった氷が地面から巨大な槍となり、その後に宙を舞う龍となる。
私の魔力と体力が無くなるまで止まらない魔法。
「くっ…!!」
ベリアナは辛うじて魔法を破壊し交わし続けていたが、やがて暴れまわる氷に呑まれていく。
私如きに、神を名乗るベリアナを倒せるでしょうか。
命をかけても倒せないのでしょうか。
私は直に死にます。
ハルト様……どうかご無事で。
ベリアナの姿が見えなくなってからも氷は暴れ続けた。
倒れ伏し薄れ行く意識の中、どこからか声がした。
「お疲れ様、ルカちゃん。」
私が放った魔法が消えていく。結界も氷もあっという間に消えてしまった。
突如体も軽くなり辺りを見渡すと、ゼバルとベリアナが倒れてるのが見えた。
この…声は………。
「リスキア…様。」
「まったく……無理しすぎよ。ルカちゃんの試練なのにハルトの為になっちゃってるじゃないの。」
先程まで命懸けで戦っていたのに、気付けばハルト様がアリスと呼んでいた姿のリスキア様が立っていた。
あまりに突然のことで頭が追いつかないでいると、リスキア様は私をそっと抱き締めた。
そこでようやく今までの事がダンジョンの試練だと気付いた。
「神だと聞いて暴走しちゃったのね。ルカちゃんの実力があればベリアナ位なら容易く倒せるんだけど、私が試練の為にベリアナに力を与えたの。まぁそれでも命をかけた魔法を使わなくても勝てたかもしれないけどね。ここは神界の一部だからそういう事も出来るし、ここならベリアナやゼバルは死なない。だから安心してね。」
「そうでしたか。確かに神だと思ってしまう程に強い力を感じました。死んでいないのなら良かったです。」
「ふふっ、命懸けなのに正しい選択を出来たわね。最後までハルトや私を信じてくれてありがとう。ルカちゃんなら安心して神力を渡せるわ!!」
そう言うとリスキア様は私の手を取り優しく微笑んだ。すると暖かい何かが体を巡っていく感覚がした。
「創造の女神リスキアの名の下に、神の試練を突破したルカシリア・クラウドバルに神力を授ける。」
「ありがとうございます。」
全身を巡っていた神力の感覚がやがて胸の辺りで落ち着いた。ぽかぽかと暖かく力強い感覚が残っている。
「ここで注意事項よ!神使のように生まれ持った力じゃ無いから、ハルト同様に日に三回までしか使えないわ!使い時に気を付けて使うように!それと神力は魔力を多く使うから今日は絶対に使わないこと!いいわね?」
「はい。」
「それじゃあハルトの所に送ってあげる。ルカちゃん、本当にお疲れ様。これからも大変なことは多々あるでしょうけど、ハルトや仲間達と一緒に乗り越えてね。くれぐれも死なないように!」
リスキア様が手を翳すと、白いボス部屋の扉と同じ物が現れた。
「あっ、因みにゼバルとベリアナは私の部下にあたる者達だからボコボコにしたのは気にしないでね!」
「はい。色々とありがとうございました。では失礼します。」
リスキア様達に頭を下げて扉へと手を掛ける。
ハルト様。
私、どうにか試練を乗り越えられたみたいです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ここは……え?……どういうこと?」
私が目を覚ますと白い天井が目に映った。
「病院…なの?」
さっきまでダンジョンにいたはずなのに、今はベッドの上にいる。
「藍那!!!」
「お母さん?」
白いシーツに白い懸け布団。
白い壁紙。
窓際では生けられた花が揺れていた。
「目を覚ましたのね!!あっ、お婆ちゃんに連絡しなくちゃ!!」
バタバタとお母さんは慌てて病室を飛び出していってしまった。
「………………………………。」
あまりに予想外だった。
困ってる人達や大切な人達を守れるようになりたくて。
そして地球に帰る方法を自力で探せるように強くなりたくて受けたはずの試練だった。
だったのに、目を覚ませば地球にいたのだから。
「ははっ。都合良すぎると思ったよ。」
あんなに頑張ったのにな。
皆に頼りにしてもらえるようになって、ルカみたいな友達も出来た。
「シロちゃん可愛かったなぁ。」
私は突然突き付けられた現実を受け止められずにいた。
とりあえず体が痛かったから、起き上がろうとする
すると、あることに気が付いた。
「えっ?……動かない。………なんでよ。なんで動かないのよ!!」
足が曲がらなかった。持ち上がらなかった。
下半身の感覚が無くなっていた。
「藍那、お婆ちゃんに電話してきたわよ!すぐに向か……藍那?」
「お母さん……足が……動かないの。」
するとお母さんは私を抱き締めた。
「大丈夫よ。意識は戻らないだろうって言われてたのに戻ったんだから。足なんていいじゃないの。」
「……。」
「あっ、ごめんね藍那。電話来ちゃった。」
そういってお母さんは再度部屋を出て行った。
足なんていい…そうなの?本当に?
居ても立っても居られずに私はベッドの上から動き出す。
どうしても自力で動きたい衝動に駆られて、這いつくばりながら病室のドアの前まで来た時の事。
母の電話する声がした。




