6-24 アイナ・ハーリー
階層主であるリロイ・フェアリーフェイクを倒した俺達は、出現した階段を下りていく。
階段はいつもより遙かに長く、既に五分以上歩いているが出口へと到達する様子は全く見られない。
どんだけ長いんだよこの階段。
「随分と長いようですね。」
「ほんとだな。出口の明かりさえ見えないって事はまだまだ先なんだろうな。」
「ハルトさん、ライトボール私が出します?」
「大丈夫。魔力量ほぼ満タンだから。」
「ハルト様は私達等とは比べ物にならないですからね。」
「ハルトさんは人外ですな。突然変異体ですなー。」
俺を怪物みたく言うな。マッチレスヒューマンにはちゃんとヒューマンと付いてるから人族なんだぞ。きっとね。
「シロ、そろそろ起きたらどうだ?」
最初のうちは寝ているんだろうと思っていたが、クンクンする音が聞こえてきていた。
「ごしゅじんたまぁ-。背中きもちーよー?」
まだ匂い嗅いでる。好きだなシロは。
「体調はどうだ?」
「抜群だよ-?」
「そうか、抜群なら良かったよ。」
そのうちシロに幻術が効かない魔道具でもプレゼントしてやるか。
「もうだめー?」
「ん?あぁ、構わないけど何かあったら対応出来るようにな。」
「ご主人様ありがとー!すきー!だーいすーきー!」
シロは喜びのあまり俺の後頭部におでこをグリグリとしてきた。少し痛いけど可愛い。
「熱烈だなぁシロちゃんの愛情表現は!とても素直で宜しい!ルカも見習いなさい!」
「わ、私は…私だって…もにょもにょ。」
久しぶりにルカの照れた顔が見れた。悲しい事に下を向いてもにょもにょ言ってたので聞き取れなかったが。
「そういえばアイナはいつから勇者やってるんだ?」
「勇者と認定されたのは三年前からです!」
「認定?」
「はい!正式な勇者は国に認定されて初めて名乗ることが出来ます!まだまだ勇者歴三年なのでヒヨッコです!先代の王都の勇者は結構長かったみたいですけど。」
「一人しかなれないんだよな?よくなれたな。」
「はい!私は元々は王都の冒険者を二年だけですがやっていまして、これでも史上最速のSランクとして有名な冒険者だったんですよ?」
「…………なんだと?」
まさか史上最速のAランクルーキー金色のハルトを越える者が現実に、というか同じパーティーにいるだなんて……。
羨ましい……。
「ハ、ハルトさん?」
はっ!ついつい自分の世界に入り込んでしまっていた。
「いやっ、凄いなーと思って。」
「なははは、ハルトさんには全く敵わないですけどね!」
くっ、下手に出られてるのに何故だか勝った気が全くしない。まぁ俺には実績がないから土俵にも立てていないから当たり前だが。
「何を言うか。Sランクって凄いんだろ?」
「まぁ王都には数人しかいないと思いますけど。」
するとルカが参加してきた。
「アイナはこう見えて王都では大人気なのですよ?顔も美しいですし、熱血漢で弱者の味方なので勇者の中の勇者だなんて言われています。街に下りたらすぐに人集りが出来て身動き出来なくなる程ですから。」
「ほーそりゃ凄いな。勇者になるべくしてなったって感じなぁ。中々アイナもやるなー。」
「アイナやるなー!偉いなー。シロは勇者なれるー?」
おっ、シロも参戦してきたか。
「シロちゃんも勇者の素質めちゃめちゃありそうだね!シロちゃんが勇者になったら私は鞄持ちでもやらせてもらいましょうかねぇ!」
「シロ勇者ー。そしたらご主人様とルカちゃんも勇者なー?」
「あはははっ!だったら三人の鞄を持てるように鍛えなきゃだねー!」
ほのぼのとしてるなー。こういう時間はリラックス出来て本当にいいな。
「そういえばアイナは何で勇者になったんだ?」
「冒険者も勇者もロマンだったからです!」
ほほぅ。これは酒を飲みながらゆっくりと話したい議題だな。いいじゃないかアイナ君。
「分かる。よく分かるよその気持ち…。」
「ロマンもあるんですけどね。本音を言うと色んな場所で騒動に巻き込まれちゃ解決してたら、Sランクってのもあって推薦されたからなっただけです!」
「それでもちゃんと解決してきたんだから気持ちは別として、理由としては充分だろ。どっちもロマンだからな。二兎を得たって感じだな。」
「アイナ。ハルト様は冒険者になるために旅をしていたのです。その道中で私は出会い、そして悲しい事に私のせいでその夢を潰してしまったのです…。」
「そ、そうだったんですね!すみませんなんか。」
「いや、二人とも気にしないでくれ。別に今となっては冒険者に拘りは全くないし、みんなと楽しく冒険も出来てるからね。むしろ今からでもなろうと思えばなれそうな気はするし。ならないけど。」
謝る二人を止めた俺は質問を続けた。
「ところでアイナは王都の出身なの?」
「いえ、遙か遠くにある国です!」
「ふーん。なのに何で王都で勇者なんだ?上京物語的な感じ?」
「懐メロですね!王都には気付いたら辿り着いていたんですよー。遭難ですねー。最初冒険者になったのは強くなりたかったというのが一番ですね。生き抜いて祖国に帰りたかったから……冒険者をやりながら強くなって仲間を増やして情報を得ていつか帰ろうと思ったんです!気付けばSランクになって勇者やってましたって感じですねー!」
「まだ一度も帰れてないのか?」
「帰れてないですねー。」
「祖国とやらはそんなに遠いのか?」
「はい。恐らくですけど。」
元Sランク冒険者の勇者でさえ辿り着けない所ってどんだけだよ。
「ふーん。魔界にでもある魔王城出身だとか?俺の魔法で祖国へと送れる方法があればいいんだけどなー。俺も何か考えておくよ。」
俺がそう言うとアイナは笑みを浮かべていたが少しだけ寂しそうに答えた。
「…………流石のハルトさんでも無理だと思いますよ。だって祖国は存在しませんから。」
「は?」




