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6-22 リロイ・フェアリーフェイク



 ミナゴロッシーというセンスを感じさせる名前の魔物を倒した俺達は階段に到達していた。


「階段が水の中にあったらこの下はずっと水で埋まってるって事になるんですけどね。永久スイム。不条理です。世知辛いです。非道です。」


 アイナがブツブツと嫌そうな顔でよく分からない独り言を喋っているがカナヅチからしたら地獄だろうから仕方がない。


「まぁ降りてみたら分かるだろ。」


 水中にある階段を降りていく。すると完全に水没している筈の階段が一定の所で膜を張ったように留まっている。


「うわぁー、ダンジョンクオリティー!!!バンザーイ!!!」


「なんだそりゃ。」


「アイナは面白い奴だー。」


「いえ、変わった子の方が正しいですよ?」


「ひゃっほほほーい!!」


 膜をプニョーンと越えると空気で満たされた階段へと変わる。アイナは心底安心したような表情へと変わっていた。


「ご主人様-。」


 シロがふいに手を繋いできた。


「そうだな。皆、また転移でバラバラになっても困るから手を繋いでいくぞー。」


 俺、シロ、ルカ、アイナの順で手を繋ぎ階段を降りていくと、出口が見えてきた。


「ボス部屋か。さっきのが何十階かの九階だったんだな。」


「そのようですね。」


 いつも通りの何も無い殺風景な空間が目の前に広がっている。


「扉のノブでも一度も転移されてるから入るときも気を抜くなよ。」


 皆が返事した所で手を繋ぎながら扉を開く。するとそこにはコロシアムのような円形闘技場のような場所だった。


 湖のフロアかと思っていたが違ったらしい。湖の前までが一体どんな階層だったのか気になるところだな。


 闘技場の中央へと歩いていると地響きのような音が聞こえてきた。ボスの登場のようだ。


 ズドンという音と共に地面に穴が空く。そこから這い出てきたのは可愛らしいピンクの服を着た羽の生えた妖精のような見た目のボスだった。


「これがボスですか?なんだか拍子抜けですなぁ。」


「アイナ。確かに愛らしい見た目ですが、階層主となるほどの魔物なので気は抜けませんよ。」


「そーゆーことだな。」


「可愛いー!!!!」


 可愛い見た目から逆に俺達は警戒心を強めた所でシロが目を輝かせながら走りだしてしまった。


「待てシロ!」


 止めようと声を上げたがボスに気がとられていて聞こえていないようだった。


 慌てて鑑定をするとSランクのリロイ・フェアリーフェイクと表示された。


 Sランクはピンキリの度合いが激しい。Aランクよりならまだ大したこと無いのだが。


「ルカ!リロイ・フェアリーフェイクというSランクの魔物だ!知ってるか?」


「すみません。初めて聞いた名です。」


「リロイ・フェアリーフェイク?!」


「アイナ、知ってるのか?」


「王城の書物庫で読んだことがあります!幻獣とかいう二つ名を持つほどの魔物です!相当古い書物に乗っていたんで細かいことは分かりませんけど、幻術を使う魔物だったはずですよ!」


 幻術。この世界に来て初めての類だな。


 俺が走り出すとそれにルカとアイナが続く。しかしシロは既にボス妖精の所に着いてしまった。


「可愛い妖精さんー!おいでー!!」


 シロが瞳を輝かせて手を伸ばすと、ボス妖精はシロの頭上をキラキラとした紫色の鱗粉のようなものを巻きながらクルクル回る。


 すると、ニコニコとしていたシロの顔が引き攣り目つきが変わった。と思ったら今度は突然泣き始めてしまった。


「ふぇ~ん!!!ごしゅじんたまぁーー!!!!!!うわぁーん!!!!!!!」


「どうしたシロ!!!!」


「ごしゅじんたまぁーー!!ふぇ~ん!!!」


 走りながら声を掛けるが届いていないのか、シロは返事をしない。


 すると俺の手を誰かが掴んで引き留めた。振り返ると俺の手を握りしめるルカの姿があった。


「…ルカ、どうした?」


「ハルト様…気を付けて下さい。シロちゃんは幻術を受けた可能性があります。そうなると誤ってハルト様へ攻撃してくるかもしれません。」


「幻術か。大丈夫…何とかしてみせるよ。」


「はい。」


 そのまま駆け出しシロの傍まで来たが、シロの様子が本当におかしい。


「ごしゅ…じんさま………死んじゃった……。」


 え?俺死んだの?


 シロは衝撃的な独り言を呟いた後、ゆっくりと振り返る。


「お前……絶対……許さない。」


「シロ!!!!俺だ!!ハルトだ!!!」


「よくも……ご主人様を……。」


 座り込み(うつむ)くシロの背景が歪む。


 そして少し離れたところでピンクの妖精が踊るように舞っていた。


 リロイ・フェアリーフェイク……ピンク妖精を先に倒した方がいいのかシロの幻術を解くのが先か。


 悩む間もなくシロから魔力を感知する。というか感知するまでも無く魔力が(ほとばし)ってる…。


「ちゅりゃぁーーーッ!!!!!!!!!」


「くっ!!!」


 シロが神力を纏った拳を振り抜く。凄まじい速度の右ストレートを何とか躱したが、右頬を擦った。


 千切れたんじゃないと思うような痛みが頬を襲う。なんつースピードとパワーだよ。


 慌てて結界で複数の壁を作るが、シロはまるで何も無いかのように突き破って来た。


「神力は厄介だな。神使が強いわけだ。」


 バックステップで距離を取ろうとするが、真っ直ぐ走り寄るシロの方が早くすぐに追いつかれた。


「よくもご主人様を!!!!!!」


 絶望感漂う様相ながらも怒りの拳を振るうシロだったが、今度は感じたことが無いほどの神力を練り始めていた。


 これはくらっちゃヤバいやつだな。

 

 全力のシロの攻撃はかなり危険だと感じてマジック・クリエイトでどうにかしようとしたその時、ルカの叫び声が聞こえた。


「ア、アイナ!!止まりなさい!!」


 拳を脇に構え、今まさに全力の一撃をシロが放とうとした時、アイナが俺の横をすり抜けシロの前へ来てしまった。


「駄目よシロちゃん!!!ハルトさんは生きてる!!!目を覚まして!!!!」


 だがシロの目は復讐の色に染まっていた。


 マズい……このままではアイナが殺される。


 俺は出来る限りの速さでアイナを手で押しのけるが、同時にシロは拳を振り抜いた。


「グハッ…!!」


 真っ直ぐ俺の胸を捉えようとしていた拳が突如軌道を変え、脇腹に当たる。


 ルカの氷弾がシロの拳を射貫いていた。


「クッ………部位再生(リボーン)。」


 急いで唱えた魔法により、吹き飛ばされた脇腹が修復されていく。


「ふぅ。ルカ、助かった!!!」


「はい!アイナ、すぐに離れなさい!!」


「ま、待って!!私…出来るかも知れない!!!」


 ん?出来るかもしれない?何か策があるのか?


「ハルトさん、少し時間を下さい!!」


「アイナ!!!!」


 ルカがアイナを引き止める。


 時間を下さいねぇ。これまた難しい要求をしてくるもんだ。


「やるだけやってみる。任せたぞアイナ。」


「はい!!」


 ルカとアイナには下がって貰って力技でシロの幻術を解くことは出来るだろう。


 だがアイナが命懸けでシロの前に立った覚悟や想いを無碍にしたくはないので、ここは一つアイナの力を借りることにしよう。


 これはこれで俺の訓練にもなるしな。


 シロ、すぐに助けてやるからな!

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