6-15 見えない影が最後まで見えなかった件
女勇者を倒した後にシロを確認してみると、魔物を空に投げて手弾で落として走ってキャッチという不思議な事をしていた。
フライの自主練習かな。
何やってるんだろうと思った矢先、突然猫人族の女の雰囲気が変わった気がした。
何か特別な事があってもすぐに対応したいのでそろそろ向かうことにするが、シロの事だから無駄な心配なのだろう。
「シロ、待たせたな。」
「ご主人様早いねー!!!」
転移でシロの元へ駆け付けると、シロは嬉しそうに振り返った。
だが、今は猫耳少女の籠から溢れる魔力が気になる。
「あぁ、シロの敵に比べたら大したこと無かったからな。ここからが本番だ…ルカを救うぞ!」
「あい!!!!!!!」
シロが元気よく可愛く返事をしてくれた。
しかし、その声を掻き消すように複数の魔物の咆哮が聞こえてきた。
「丁度良かったぞハルトォ-。てめぇのとこのクソビチカスにてめぇの為に用意していた魔物を出したところだ。まとめて死にやがれぇ!!!」
「ちょっとまて、お前なんか変わってね?」
「そこのクソビチカスがぁ、可愛い可愛い貴重なコレクションのグリフィンロードを傷物にしてくれたんだぁ!!責任取ってもらうから覚悟しろやぁぁーッ!!」
あぁ、俺の猫耳少女のイメージが崩壊していく。折角の異世界転移なんだからモフモフの耳を愛でてみたかったのに。
とりあえず会話をしている内に目に入った三体の魔物を確認し鑑定を使う。
一体目はヘルヴァニラという死霊系の魔物。黒い布を頭から被りぼんやりと青黒く光る大きな瞳がこちらを見据え、巨大な鎌を手にしている。
二体目はアラクネル・ググという魔獣。下半身は深紫色の体毛に被われた迫力のある蜘蛛で、上半身は裸でスキンヘッドの黒い老人姿だ。かなり気持ち悪い。
三体目はベヒモス。これは地球に居た頃に何度も耳にした名前だ。
三本の太い捻れた角を持ち、四足歩行を行う手足ははち切れんばかりの筋肉だ。薄紫の体皮と頭から背中まで続く鬣。
大凡イメージ通りだ。
「三体ともSランクだ。シロ、怪我しないようにな。」
「御意~!!」
緩いし軽い。シロよ…ベヒモスだせ?浪漫なんだぜ???
じゃあ戦いますかと思ったら、鑑定さんが更に表示してきた。
四体目はシャドウ・ムー。三体しか居なかった筈なんだが。
「シロ隊員、あとシャドウ・ムーとかいう魔物もいるみたいだ。」
「あいあい!気配は感じるでありますよー!!!」
俺とシロの二人が感じるって事は間違いなく存在するのだろう。名前から考えると、目には見えないのかもしれない。
「み、み、見えるのかニャ?」
あれ?猫耳ブチ切れ少女が突然通常運転の猫耳少女に戻ったぞ?
「見えないぞ。でも俺もシロも分かる。」
呆気に取られた顔をしながら猫耳少女は叫ぶ。
「も、もう見えようが感じようが関係ないにゃ!行くニ「待つにゃ!!」……。」
猫耳少女が話しているのにシロが口を挟む。にゃって何?
「グリフィンロード大事だったのに、この子達はいーのー?」
「グリフィンロードはウチが長い年月を掛けて見付けた特別な子だニャ……。だけどこいつらは貰った魔物だから愛情が違うニャー!ぶっちゃけただの可愛くない兵器だニャ!!」
特別って…家族とか言っちゃうならわかるけどコレクションとか言ってたけどな。
随分と偏った愛情だ。
「自分の物だろうが貰い物だろうがルカを傷付けたことに変わりは無いよシロ。俺達は立ちはだかる者を全て倒してルカを救ううだけだからな。」
「そうだねー。……じゃあシロ全開でいくよー!!!!」
今までのシロでは見たことが無い魔力がシロの体内を廻っているのが分かる。
本当に全開でいくようだ。
「あぁ、俺も容赦するつもりは無い。マジック・クリエイト。」
手始めに視認できないというウザい奴を排除することに決めた。
俺が創造した魔法は見えない存在を照らし出す光のランタンのイメージ。名付けてレミーランタンだな。
レミーランタンは発動すると周りを激しく照らし出……さなかった。
「ちっさ。」
俺が思っていたよりも大分小さい光の玉が目の前に浮かんでいた。
ゴルフボールくらいだろうか。
「まぁ、いいや。レミーランタン、隠れてる奴を頼む。」
光の玉はズキューンと光の尾を引きながら飛んでいく。すると何もない一点で少しの間留まった後、スッと消えた。
「ギャギィーーー!!!!」
光の玉が消えた所で叫び声のようなものが聞こえた。だが、シャドウ・ムーの姿が現れない。
レミーランタン失敗だったのかな。
「シャドウ・ムー!!い、一撃でやられたニャー!!!!」
え?やられた?どういう事だ?
猫耳少女の発言を信じるとシャドウ・ムーをレミーランタンで倒したって事になるが見えないのだからどうにも信じられん。
試しに鑑定さんに助けを求める。
すると先程まで出来ていたシャドウ・ムーの鑑定結果が表示されない。
既に天に召されたのだろう。
「ご主人様-。見えないの消えたね-。」
鑑定結果が出ないのを確認した直後シロも消えたと教えてくれた。
鑑定さんとシロが言うんだから間違いないのだろう。俺の気配察知にもかかっていない。
これで背後から不意打ちの可能性は消えた。
「さっきの光はただの明かりじゃないニャ-?ハルトは光属性の魔法まで使える上、見えない敵を狙い撃ちまで出来るニャんて……侮れないニャ-。」
レミーランタンは知らぬうちに光属性の魔法になっていたんだな。って事はシャドウ・ムーは闇かなんかの属性で苦手な光にやられたってとこか。
見えないってことは完全不意打ちタイプだろうし、光以外聞かないのかもしれない。
確かにそれじゃSランクなのも納得だな。シロが暴れた余波だけで死にそうではあるけど。
まぁ、何にせよこれで突然後ろからプスリとやられる心配は消えた。
「さぁ、残りは三匹だ。その後はお前だぞ猫耳。行くぞシロ!」
「あいあいー!!!!」




