1-7 旅立ち
この世界には聖獣や邪神獣、古龍などのように、特別強大な力を持った魔物がいる。
ウルフィナスは聖獣のうちの一つ。住まう者である。
《ウルフィナスが住処を侵略する事無かれ。それは即ち死を意味するのだから。》
住まう者と呼ばれるウルフィナスは、住処と決めた地で静かに過ごす。人里で暴れることも無ければ、共存している魔物を追い払う事も無い。ただただ平穏に生きている。
しかし、その住処を侵略しようものなら、ウルフィナスは止まらない。再び平穏に過ごせると、ウルフィナス自身が判断するまでは。
「この森をウルフィナスは住処にしとる。じゃから不可侵とされているのじゃ。まぁ、それ以外にも強い魔物が大量におるというのもあるがのぅ。おぬしが闘いを挑まなくて、よかったわい。」
まぁ、勝てそうも無かったし、何より早く風呂を作りたかったからな。住まう者なのにヤモリじゃないのが気になるところだ。
今度お礼に、子ウルフィナスが好きそうなもんでも洞窟に置いとこうかな。あんま近付くとやられるかな。
ちなみにウルフィナスはSランクと言われているらしい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ウルフィナスと遭遇してから、3日が過ぎた。
あれから、洞窟の傍へ来てもウルフィナスと遭遇はしなかった。インドア派っぽいし、友達にはなってくれそうもないが、一応子ウルフィナス用に洞窟の前に虫型のモンスターを焼いたのを置いといた。これで借りは返したということにしとこう。
それ程魔物とも戦ってないし、高ランクの魔物は安パイの為に戦わなかったから、3日経ってもレベルは変わってない。主に魔法の練習等をフォル爺にしてもらっていた。
毎日発見があり、まだまだ未熟だが、俺は此処を旅立つ決心をした。
居心地が良いので、長引けば長引くほどに旅立ちにくくなってしまいそうだから。
俺は変わろうと思った矢先にこの世界に来てしまった。だけど、何処であろうと胸を張って生きて行きたいから、自分なりに頑張りたいのだ。
フォル爺に最後の魔法の授業をしてもらい、此処を旅立つ事を告げた。
「そうか。おぬしはとても良い人族じゃ。必ず上手くやっていけるはずじゃわい。自分を信じて、冒険者として頑張るが良い。いつでも顔を出して良いぞ。」
「ありがとうございます。まだ、これまでの恩返しが出来てませんが、フォル爺さんにまた会うときに恥ずかしくない生き方をします!」
「恩返しなどとっくにしてもらっとる。本当に楽しい時間じゃった。これからはおぬしの生きていく世界に集中すれば良い。ありがとうよ。」
泣いてしまいそうだ。だが、ここは我慢だ。悲しい別れではないんだから。
フォル爺に色々料理を作って貰った。インベントリにしまっていくが、寂しくてたまらなくなってしまった。俺は冒険者になれば、いろんな人との出会いがあるが、フォル爺は小屋に一人だからもっと寂しい気持ちになるのかな。
この世界で一般的な麻っぽい服を用意してくれ、剣もくれた。本当に何から何まで世話になりっぱなしだ。
そして俺は最後の晩飯をフォル爺と食べた。
「フォル爺さんは一人で危なくないんですか?」
「この辺りには結界がある。だから、小屋には魔物は寄って来んのじゃ。」
言われてみれば、魔物が襲撃してきたことがない。
「結界はフォル爺さんがやったんですか?」
「儂にはそんな魔法は使えん。此処には古代の祠があるから、恐らくその祠のおかげじゃろう。」
古代の祠があるなんて初めて聴いたが、もう明日には旅立ちだし、あまり気にしなかった。
「必ずまた来ます。」
「フォッフォッ。そう気張るでない。儂は人族と違って長生きじゃ。まぁおぬしも進化しとるから人族より長生きしそうじゃがな。…楽しみにしとるよ。頑張ってくるんじゃぞ。」
そうして、俺は小屋での最後の夜を過ごした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝は快晴だった。旅立ちには最高の天気だ。
「それでは行ってきます。」
「おぬしの名が世界を照らす日を楽しみにしとるぞ。」
また旅立ってすらいないのに、目的も冒険者しかないのに、いきなりフォル爺にハードルを上げられた。むしろハードルが富士山の高さになってしまったようだ。越えられるかなぁ。
「可能な限り、頑張ってみます!」
「冗談じゃから気にするな。行ってこい。」
「はい!」
フォル爺に出会えて本当に良かった。
最後に感傷に浸り、気を引き締め直す。俺は振り返ること無く歩きだし、森の木々に囲まれていった。
中々人里へ行けない。。。もしろ人さえ出てこない。。。