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6-10 鳴り止まぬ警鐘


 


 一本の巨大なブレスが空へと伸びていき、やがて消えていく。


 嵐帝龍ヴァルデバランの極大の真空波ブレスが終わったのだ。


 すると巻き起こした嵐までもがブレスに吹き飛ばされたようで、突如静寂が訪れる。


 そして全てが息絶えたかのような静寂の中、空を舞っていた蒼剣の刀身が地面に突き刺さる音だけが聞こえてきた。


 信じることが出来なかった。許せなかった。


 蒼剣を折られたことではない。またしても不意打ちを赦してしまった事を。

 自分の認識の甘さを。


 私が呆然(ぼうぜん)と手に握りしめられた(つか)を見詰めていると猫人族が口を開く。


「卑怯かニャ?でも戦いだからニャ-。ね、アイナちゃーん?」


 アイナ…?聞き慣れた名前に慌てて猫人族へと振り返る。


 そこには三勇の一人、アイナ・ハーリーが剣を抜いた姿で猫人族の隣に立っていた。


「はい。ヤルン様。」


 才色兼備。美貌と強さを兼ね備えているが、何よりも心が勇者たる者だと言われる女傑。

 三勇の中でも最も人気のある王都の女勇者。


 嘘だと声を上げたい。それ程までに信じられない光景が目の前にある。

 何度も話を交わした相手であり、正義感の塊のような勇者アイナが猫人族の名を様付けで呼んでいる。


「眼が…死んでいます。アイナに何をしたのですか?」


「ニャ?知り合いだったニャ?ニャにをって……テイムしただけだニャ-?」


 人族の知能にはテイムのスキルなど効かない…それが常識だ。邪神の欠片はそんな摂理さえ無視できる程の能力を与えるというのだろうか。


「テ…イム?ゆ…るしま…せ……。」


 突如グラリと景色が揺らぐ。息苦しく意識が纏まらないせいで膝をつく。


「かなり強力な猛毒な筈ニャのに、(ようや)く効いたかニャ?」


「ア、アイ…ナ……。ハルト…様…。」


 重要な局面にも関わらず、纏わり付く吐き気と眩暈を感じながら、私は毒が回り意識を手放してしまった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「また迷路か。ダンジョンサーチがあって良かったなぁ。」


 カナキリアやサルドバドたちとの戦闘を終えてジャングルフィールドを後にした俺は地下31階まで来た。


 階段を下りると、またしても迷路のフィールドであった。

 戦いにくいしダンジョンサーチを使っても一度脳内で迷路を解かないといけないので面倒くさい。


「はぁ、シロがいれば楽できるんだが。ん?……なんだ?」


 突然ダンジョンが微かに振動した。誰かが戦っているのか?


 そう思ったのも束の間、その振動は一定のリズムで起きているのに気付いた。


 まるで巨人が歩を進めるかのように。


 念のためダンジョンサーチを使うがこの近くには魔物(・・)を示す赤いマーカーは動いていなかった。


「気のせい…か?」


 しかし、その振動はどんどん大きくなり、やがてズドン…ズドン…ズドン…と音まで聞こえてきた。

 そしてその音もどんどん大きくなっている。


 魔力感知や気配察知もダンジョンの分厚い壁が並ぶ向こう側から感じ始めている。


 迷路になっている壁が邪魔であまりハッキリとは感じ取れないが、他の魔物とは比べ物にならない程の何かがいる。

 今までの全ての魔物と比べても格が違うそんな何かが。


「こんな所じゃ全力で戦えないし……これはマズいな。」


 とりあえず準備しようかと思った時、ズドン…ズドン…ズドン…とどんどん大きくなっていた音が直ぐ傍で聞こえた。


 魔力感知と気配察知もガンガンに警鐘を鳴らす。


「かなりの強さだな……えっ!?」


 異常な程の魔力と気配察知の感覚から間違いなく強者だと感じ気を引き締めたその時に気配の正体に気付いた。




 そしてそれと同時に、俺の目の前の分厚いダンジョンの壁が爆散したのだ。




 土煙が上がり壁の向こうから一つの影が凄まじい速度で飛び出すと俺に突進してくる。



 俺は突然の出来事とその速度に反応出来ず、そのまま(ふところ)に入られてしまった。




 そして………勢いのまま吹き飛ばされる。




 その影に抱き付かれながら。




「うわぁーん!!!ごーしゅじーんたまぁー!!!!」


「シロ!!!」


 その影はシロだった。


 振動と音の正体は、同じフロアにいた俺の匂いを嗅ぎつけて、壁をぶち壊しながら一直線に俺の所まで来たシロだった。


「びえ~ん!!寂しかったよぉ!!逢いたかったよぉ!!!!」


「あ、あぁ!!俺もだ!!シロと合流出来て嬉しいよ!!」


 俺も寂しくなかったと言ったら嘘になるからな。それにしても衝撃的な再会だったな。


「シロ、ルカは知らないか?」


「ぶふぅ。グスッ。シロも二人を探してたからわからないー。」


「そうか。残るはルカか。シロと合流出来たんだから、そう遠くないうちに合流出来るだろう。」


 抱き付いて泣き喚くシロの頭を撫でてやりながら立ち上がる。


「そろそろ行くか。」


 しかしシロは離れない。


「シロ?どうした?…何やってんだ?」


「くんくん。ご主人様の匂いが足りてないからまだ離れない-。」


「でも、先に進みたいんだが。」


「くんくん。……。」


 駄目だこりゃ。離れるつもりはないらしい。


「分かったよ。でも進みたいし危ないから、せめておんぶにしよう。」

 

「くんくん。」


 抱き付いていた胸元から下りずに、シロはよじよじと背中に回った。

 さすがは元俺の肩で過ごしていただけあるな。


「じゃあ、ルカを探しに行くか。匂いを嗅いでても構わないけど、ちゃんとルカやリスキアの匂いも辿ってくれよ?」


「くんくん。」


「頼んだぞ、シロ隊員。」


「むむ!あいあいさー!ごしゅじんたま!!くんくん。」


 何故かシロ隊員と呼ぶと反応がいいな。


 俺はシロを背負って、指示された通りに迷路を進んでいく。すると最短経路をすぐに駆け抜け、あっという間に階段に辿り着いた。

 

 シロが壁をぶち抜いて階段まで一直線で行けば早いんじゃないか?と聞いてみたが、結構魔力と体力を使うようだったのでボツになった。


 そんなこんなで地下32階へと下りる。そこで一つの疑問をシロに投げかける。

 

「シロも転移させられたのか?」


「やられたー。だからもう離れない。ダンジョンこわいよー。」


「まぁな。転移装置みたいなのが無いとも限らないからそれが正解かもな。」


「シロが言うから間違いなーい。」


「ところでシロはどんな所に飛ばされたんだ?」


「暑いとこー。砂だらけ-。下りても暑い-。ずっと砂ばっかりー。虫だらけー。」


 シロは思い出すのも嫌そうに背中でグデ~っとなってしまった。


「ご主人様はー?」


「俺は木々が鬱蒼と生い茂った密林だったよ。」


「怪我ないー?」


「大丈夫だったよ。ありがとう。」


 そんな会話をしながら俺たちは先を急いだ。


 何故だろう。胸騒ぎがする。


 ルカが無事だといいんだが。


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