6-8 第三の刺客
「シロちゃんがいないとこんなに大変なのですね。」
私は一人になってから闇雲に歩き回っていた。
寒さは耐えられるが、広大なフィールドに中々階段が見付からない。
そして止むこと無く魔物達が襲ってくる。
「またですか。」
気配を感じて振り返ると巨大な蛇が三匹いた。それはグレートナーガ。一匹相手にするのにBランクの冒険者だと二組は必要だろう。
一度倒してから湧くように現れるようになってしまった。
以前ならともかく、ハルト様のおかげで今では相手にもならない。
「氷刀。」
私は氷で出来た丈夫な剣を手にする。この程度の魔物達ならば白氷武装を使うまでも無い。
ダンジョンでは訓練を兼ねて出来るだけ魔力を温存して接近戦で戦うようにしている。
鎌首を擡げたグレートナーガは呑み込もうと素早く噛みついてきた。
「遅いです。ハァッ!!!」
一振りの元、グレートナーガの頭は転げ落ちる。そのまま残りの二匹も一太刀で頭と胴体を分断した。
「漸く来ましたか。」
ダンジョンとは言え、これほど立て続けに現れる魔物では無いはず。
そして何より、グレートナーガが現れる前に毎回感じる強い気配。
必ず群れを作り上げた強者がいる。
するとさっきまで感じなかった殺気が足元に迫っていた。咄嗟に飛び上がると、巨大な顎が氷の地面を呑み込んだ。
龍種なのでは無いかと感じるほどの強さを感じる。そして体が大きすぎる。
「亜種…いえ、上位種ですか。」
グレートナーガの上位種など聞いたことがないが、目の前にいるのはグレートナーガとは似て非なる者だった。
グレートナーガさえも一呑み出来る程に巨大な蛇は地面から飛び上がると、また地面に飛び込んでいった。
「氷を……泳いでいる。」
氷で出来た大地を泳ぐなど有り得るのかと考えたが、目の前で起きていた。
「ハルト様やシロちゃんは属性を持たない純粋な魔力を上手に使っていましたが、私にも出来るでしょうか。」
氷刀にあえて無属性の魔力を流す。
「留めるのが難しいですね。」
この戦いの最中では使い熟すことが出来なそうだったので、一度魔力を解放する。
「氷刀よ、大地を貫く槍となれ。ハァッ!!」
刀を槍に変え、更に魔力を込めて氷を泳ぐ巨蛇へと目掛けて投合する。
真っ直ぐに巨蛇の頭部を捉えるかと思ったが、蛇の泳ぐスピードが上がったせいで頭部を外し、胴体へと当たった。
確かに当たったのだが、突き刺さることも無く槍は地面の中で動きを止めてしまった。
「硬いですね。」
恐らくAランク以上は間違いない。
「望むところです。名も知らぬ魔物ですが、私には丁度いい踏み台です。」
今度は飛び出すタイミングに合わせて魔法を放つ準備をする。気配に意識を巡らせながら魔力を練る。
そして魔力が練り上がると私の魔力を得て雪が氷となる。
すると爆音を轟かせながら巨蛇が飛び出した。しかしそれよりも先に十体以上のグレートナーガが跳びかかる。
「押し通ります!!!」
氷刀を再度作り上げ、近付いたグレートナーガからどんどんと斬り伏せていく。
「シャァーーーーッ!!!!!」
その一番後ろで巨蛇が威嚇音を立てながら迫っていた。
「飛龍剣・時雪。」
降り注ぐ無数の氷雪の刃が、開いた巨大な顎を目掛け飛んでいく。巨蛇には小さ過ぎる為にただの雪にしか見えていないのかどんどんと飲み込み体内へと吸い込まれていく。
そして氷雪が全て巨蛇の体内に入った時、氷刀が私の手で暴れ出した。
柄を放すと自然と私の手を離れ、巨蛇目掛けて氷刀は飛んでいく。
巨蛇は氷刀を危険度が高いと踏み、噛み付いて止めようとするがスルリと顎を避けると巨蛇の頭上から尻尾まで通り過ぎていく。
氷刀は巨蛇に触れてはいないが、呑み込まれた氷雪が剣を求め体内を食い破っていく。
氷刀の通過した少し後に、巨蛇の背中からは赤く染まった氷雪が溢れ出た。
「全てはハルト様の為ですが、恨むのならば私にしなさい。」
巨蛇は大地を揺らし息絶えた。巨蛇が倒れるのを見届けると、グレートナーガ達は即座に散っていった。
☆
私が巨蛇を倒して、小さく息を吐いたその時だった。
巨蛇を遙かに凌ぐ複数の気配がして後ろを振り向く。
「ニャハハッ!!やっぱりだめだった!折角一旦戻ったのに無駄足だニャー。」
「猫人族…何か用ですか?」
「ハルトって奴の仲間にゃ?まとめてだと流石にキツいから一人ずつ倒す予定を立てていたら、勝手に分断されてくれたから一番弱そうな氷龍姫のとこに来たニャ-。だけど一人でも十分強い女だニャ!!」
「邪神の欠片に関わる者ですか。ハルト様に敵対するのならば容赦しません。」
「固いこと言って…つまらない女ニャ-。それにウチはテイマーだから戦いは苦手だニャ。」
「苦手といいながら、戦闘態勢は整っているようですが?」
猫人族の女は鋭い爪を伸ばし、しゃがみ込むと爪をかまえる。私も氷刀を作り出し構えた。
「とりあえずだニャ。」
そう言うと、猫人族特有の素早さで飛び掛かってきた。鼻先ギリギリで爪を躱し、カウンターに氷刀を振るう。
しかし、爪が思ったよりも丈夫で防がれてしまった。
「中々やるニャ!」
「貴女の方こそやりますね。飛龍剣・一閃!!」
追撃で剣技を放つがそれも爪で防がれてしまった為、後ろへ跳び一度距離を取る。
「様子見でそれじゃ、タイマンは絶対無理だニャー。」
「そうですか。色々と切り札はありそうですが。」
「………とりあえず弱いテイマーの本気を見せるとするかニャ~。」
「いつでもどうぞ。」
私の言葉を合図に私と猫人族の女は走り出す。
「行くにゃー!!影足ッ!!!」
猫人族は更に加速しながらナイフの様に鋭い爪を突き出す。
「ハァァッ!!…なっ。」
私は爪を躱し、下から上へ切り上げる。すると体が真っ二つになった猫人族は黒い煙を上げて消えていった。
「外れニャ~!!」
「くっ!!」
振り返ると既に猫人族は爪を振り下ろしていた。後ろへ急いで飛んだが、左肩を掠った。
「…。アイスヒール。」
「やるニャ!!よく避けられたニャ。」
「か弱いは噓でしたね。」
「ニャ?ウチはか弱いニャ。素早さには自信あるけど、これが全力ニャ-。」
初見殺しとは言え、私の防御力でも防げず肩を少し切られた。
「本職はテイマーだから基本的にウチは戦わないニャ-。」
「……ムーバルの魔物達はあなたの仕業ですか?」
「おー!よくわかったにゃ!!ガン爺さんに頼まれたから手を貸してやったにゃ!龍も使わせてやったのに負けやがって、使えない奴ニャ-。」
やはりこの者は邪神絡みの者のようだ。ハルト様の敵だ。
「手は抜きません。行きます!!!」
「こっちこそニャ-!!」
ハルト様の為にも、ここで倒さねばならない敵だと分かり私は気持ちを切り替える。
そして、猫人族と私の戦いは再開した。