6-6 ハルトの奇妙な冒険譚
「ダンジョンサーチ。」
俺はジャングルのようなフィールドを駆け抜け、十キロ程進んだところで再度ダンジョン専用のサーチを使った。
そこには先程まで無かった階段を示す点が表示されていた。
「おっ、階段だ。まぁまぁ近いな。」
すると、階段を見付けたのでサーチを一旦オフにしようとするしたところで赤い点が近付いてきているのに気が付いた。
実はこの階層に転移してすぐにこいつは近くにいた。相手にするのも時間の無駄なので、かなりの速度で走って振り切ったつもりでいたが付いてきていたようだ。
「あのスピードに付いてくるか。強い魔物なのかな。」
近付く赤い点を確認しサーチをオフにする。階段が近いということはこいつもここで勝負してくるだろう。
気配察知に意識を向けるとすぐに反応があった。
「上か!!!」
そこには一羽のカラフルな鳥がいた。異常に尻尾と嘴が長い魔物だ。
「クェェェーーー!!!!」
見上げると目が合った。視認出来たのでサーチを使う。
するとD(A)ランクのカナキリアと表示された。
こいつ自体は弱いのだろう。()の中に表示されたAはこいつが鳴き声を上げた時のランクだ。
「…ちっ。面倒くさそうなやつだな。」
カナキリアが鳴くと、それを皮切りに気配察知が反応し続けている。
相当数の魔物が集まっているのだろうと思いサーチを確認すると、俺に気付いて無かった為に赤く表示されていなかった魔物達がどんどん集まってきており、そこら中が赤くなっている。
「一対多数がこの世界では常識なのかなぁ。」
俺はこれまでの戦いを思い出しながら呟き、魔力を練る。そして節約の為に一度使った魔法を使うべく魔力を一気に手に集めた。
「まぁ、経験値も欲しかったからいいんだけど。」
俺を中心に波のように現れた魔物達を出来るだけ引き付ける。
ジャングルのようなフィールドの為、視界が悪いが魔物達がどんどん密林から溢れ出てくる。
二匹同時に現れた緑色の虎のような魔物や地球ではトレントや人面樹といった呼び名だった木の魔物がどんどん現れる。
残り三メートル程になった所で俺は魔法を発動する。
「地這う百雷龍!」
俺が空に向かい魔力を放つと瞬時に数多の雷が落ちる。それだけで俺の周囲の魔物達は消し炭となった。
そこから更に地面から咆哮を上げながら百の首の雷龍が姿を現した。
クエイクオブティタンとも思ったが、確実なのは雷龍の方だろう。
ルカの協力が無い状態だったが、それでもどんどん雷龍は魔物を焼き尽くしていく。
魔法を放ってから考える。
雷は山火事を起こすことがある。ジャングル火災起こるんじゃね?と。
まぁダンジョンだから俺が燃えなきゃいいか、などと考えていていたのだが、あまりの魔法の威力に木々は燃え広がる前に既に炭となっていた。魔物達があっという間に消し炭になるんだから当たり前か。
「この魔法は対多数相手にはもってこいだな。」
最後の雷龍が消える頃には、俺を中心に見える範囲全てが黒焦げになっていた。
しかし、見上げるとカナキリアは高度を上げていた。自分だけはちゃんと避難していたようだ。
「クェェェーーー!!!!………………。」
「無駄だぞー。呼ぶ仲間ももう近くにはいないだろ!」
「ク、クェェェーーー!!!!」
ここで向かってくるなら大したもんだと思うのだが、カナキリアは持ち前のスピードで逃走を謀る。
「仲間を犠牲にしといてお前だけ逃げんのか。」
つまらん鳥だな。だから単独じゃDランクなんだよ。
「卑怯鳥の命じゃ、利用された魔物達の弔いにもならねぇかもしれねぇな。だが、それでも無いよりはマシだろう。」
俺はライトニングガン一発で倒せると知りながらもマジック・クリエイトを使う。
卑怯鳥ごときに無駄だとは思うがこういう奴は嫌いなんだ。
「落っこちろ。」
俺はカナキリアのみ重力が増すイメージをして放った。
懐かしき地球では最強なんじゃないかと噂されていた重力魔法だ。時空魔法や黒魔法とも呼ばれていたが。
魔力がカナキリアを包むと、ジタバタとした後に抵抗する事すら出来なくなり地面に墜落した。
どのみち動けないし、奴のために駆け寄りたくないのでゆっくりとした足取りで近付いていく。
カナキリアは恐怖で鳴き叫び暴れ回りたいのにも関わらず動けないでいる。
「ク、クェッ…。」
「よく鳴けたな。と誉めてやりたいところだが……てめぇは俺を怒らせた。オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!!!」
魔力を一切使わず瞬時に十三発の拳骨をカナキリアの顔面に放つと、カナキリアは吹き飛び少し痙攣した後に白目を剥き動かなくなった。
「ツケの領収書だぜ。」
俺は決め台詞を決め、その場を後にした。
☆
俺は某太郎さんのパクリでカナキリアを倒した後、一気にジャングルフィールドを駆け抜け続けた。
迫る魔物達をオラオラオラオラと薙ぎ倒す作業をこなしていった。
走っては殴り走っては殴りを繰り返しとうとうジャングルフィールド最後の階段へと辿り着いた。
「ようやくボスか。」
結局二人には会えなかった。
次の階層で出会えたら良いんだが。そんなことを考えながら階段を下りていくと、いつものボス部屋の広々とした前室に辿り着いた。
精神的に疲れている感じはしたが、休んでいく気になれなかったので早々に扉を開くことにした。
「グラウンドみたいなところだな。ボス部屋はジャングルじゃないんだな。」
ボス部屋もジャングルフィールドのように木々が鬱蒼と生い茂っているのかと思っていたが、そこは土の地面だけが広がっていた。
そして少し小高くなった丘の天辺にボスとなる魔物が見えた。
「ダンジョンでの戦闘もお互い任意だったら良かったのにな。」
俺は呟きながら鑑定を使う。
するとAランクのサルドバドと出た。
その姿は赤茶のゴリラ。体はムキムキで体長もデカく、座っていても五メートルはありそうだ。
「赤ゴリラ行くぞ-!」
一応今回は不意打ちしないで声をかける。するとサルドバドは立ち上がった。
「デカっ。キングコングかよ。」
「ウホウホ…。ウボーーー!!!」
俺の声にサルドバドは振り返ると野太い声で威嚇し跳躍する。
互いの距離は50メートル程あったにも関わらず、一回の跳躍で俺の頭上まで飛んで見せた。
「おぉ、ドロップキックか!」
俺は雷を脚に纏わせ瞬時に移動する。ついでに俺の先程まで立っていたところにも魔力を残して。
「ウッドウボーーー!!!」
ウッドウボ?とか何とか叫びながら、即席で作った木の剣山の上に落ちた。
「ウボーーー!!!ウッドウボ!!!!」
体中に木が刺さりサルドバドは怒り狂う。木を抜くこともせずに突撃してきた。
「てめぇで勝手に落っこちてきて怒るなんてな……やれやれだぜ。」
俺はカナキリアを倒した時の俺が抜け切っていなかったようだ。
そして、サルドバドは叫び声を上げて巨大な拳を放ってくる。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーッ!!!!!」
サルドバドの巨大な拳目掛けて俺は魔力一切無しの喧嘩拳骨ラッシュを叩き込む。
二、三発は耐えたがあまりの痛みに限界を越えサルドバドは手を引いてしまった。
しかし手を引いた為に照準が変わる。
腹を殴られ、くの字に体が折れると今度は顔面へと移行する。
ラッシュが終わり吹き飛んだ先で、ふらふらになりながら起き上がったサルドバドは震えながら尻餅をついた。
「覚悟のない奴だったか。でもさっきので死ねなかったのは不幸だな……オラァッ!!!」
全力の右ストレートが胸に突き刺さったサルドバドは、再度吹き飛び今度は地面にめり込んだ。
煙のようにサルドバドは消えていく。普通の冒険者が相手なら良かったな。
「アリーヴェデルチ!」
そうして俺は地下30階を後にした。