6-3 レッド・ギガルピア・ドグランナ
「あっつー。……サウナだなこりゃ。」
ボス部屋を越え階段を降りた先は洞窟ではなく、マグマの湧くフィールドが待っていた。
この体じゃなかったら燃えてるんじゃないかと思うほどの暑さだ。
「二人とも大丈夫か?」
「だいじょぶー!!!」
シロは汗をかきながらもいつも通り元気いっぱいに答えたが、ルカは少し嫌そうだった。
「私は熱いのは苦手です。」
まぁルカは氷龍姫の二つ名が付く位に氷メインだからな。シロには苦手なの無いのかと聞きたい。
「涼しくなるような結界張ろうか?」
「大丈夫です。自分でやれますから。」
するとルカは氷の傘のような物を作り出した。
「その範囲内は涼しいの?」
「はい。ハルト様も入りますか?」
やばい。相合い傘ではないですか。ドキドキしてきた。
「シロはいるー!!!」
しかし、ドキドキして一歩が遅れた為に、ルカの隣がシロに取られてしまった。
「すずしいー!!気持ちぃー!!」
「シロちゃんたら。ハルト様に聞いたのですよ?」
「ははっ、いいよルカ。今度入れて貰うから。」
「そうですか。シロちゃん、良かったですね。」
「ご主人様優しい-!!」
かなり惜しいが仕方ない。今はダンジョンの中なんだ。イチャイチャは終わってからでも間に合うはずだ。
マグマが川のように流れる横を歩いていると、気配察知が働き魔力感知も反応した。
「二人とも、何かいるぞ。」
すると川の中から巨大な魚が飛び出した。ヘラブナのような形をした魚は約三メートルで全身が鎧のような鱗を纏っていた。
鑑定すると、Cランクのクロマグという魔物だった。
クロマグは飛び出すと間髪入れずに口からマグマの弾を連射してきた。
「ちゅしゃ!」
すると、俺が対処するまでもなくシロが手弾で全て弾き返す。だがクロマグはすぐにマグマに潜ってしまった。
冷やしてマグマを固めて閉じ込めちゃおうかな。と思ってるとシロがルカの冷たい傘から出てきた。
「ご主人様-、シロいってみるー!!」
そう言い残してシロは気配を殺して飛び出していった。
「ダンジョンでは私が……。」
「何も全てをルカがやらなくてもいいと思うよ。ルカ一人で挑めって言われてないしね。だから、みんなで助け合って無事に踏破してみせようよ。」
ルカが悲しそうに呟いていたのでフォローする。すると俺の言葉を素直に受け止めてくれたようで笑顔を返してくれた。
俺が安心していると再度魔力感知が反応した。これはクロマグの魔力だな。
マグマが盛り上がると水飛沫を上げるようにクロマグが飛び出してきた。
先程同様、ヒットアンドアウェイを仕掛けてくるようで、クロマグはマグマの弾を発射しようと口を大きく開く。
「ちゅりゃ!」
可愛い掛け声と共にシロが突然現れ、クロマグに強烈なかかと落としをくらわせた。
クロマグは飛び出してきた速度よりも明らかに速いスピードでマグマの中へと強制的に戻されたのだった。
「うわっ。あれは食らいたくないなー。絶対痛いぞ。」
「はい。痛いで済めばまだ良い攻撃ですね。」
かかと落としを決めたシロはそのまま反動で跳び上がり、天井を蹴ってクルクルと回転しながら戻ってきた。
体操選手も真っ青な綺麗な着地だ。
「シロ、格好良かったぞ!!すごいな!」
「えへへー、ご主人様-。」
シロが喜びの余りデレデレしながら抱き付いてくると、クロマグがマグマに浮いてきてすぐに消えた。
「シロちゃん、素敵でしたよ。」
「ルカちゃん-!」
ルカに誉められると今度はルカにぎゅっと抱き付いた。あぁ、二人が可愛い…。屈みながら抱き締めてるからまた谷間が顔を出し……。
「ていっ!!」
「…ハルト様?どうかしましたか?」
はっ……!!ダンジョンにいるにも関わらず、ゴーレム戦のように煩悩が暴走していた。
また煩悩へチョップしていたら声が出てしまったぞ。
妄想に我を忘れてる…鎮めなきゃ……。
某風の谷に住む心優しき少女が王蟲の怒りを蟲笛で鎮めるかの如く、頭の中でフォンフォン音を鳴らして冷静になるように努める。
「いや、何でも無いよ?」
「そうですか…。」
若干ジーッと見詰められたが、何とかこの危機的な場面を回避することに成功した。
ルカは余り追求しない優しさがあるから助かる…。
クロマグを倒した俺達はマグマのフィールドにもすぐに順応してどんどん歩を進める。
マグマで出来たドロドロの人形のような魔物や、高温にも溶けずに逞しく生きる樹形を模した謎の素材の魔物など様々な対熱系の魔物が現れたが、ルカが凍てつかせシロが千切っては投げを繰り返し、容易く階段を見つけ出す事が出来た。
俺は何もしていないわけではない。断じてない!一生懸命本気で応援していた!出遅れはしたが応援は本気だった。
そうこうしているうちに休み休みではあるが地下19階まで来ていた。するとシロが一つの石ころを見詰めて突然歩みを止めた。
「ん?シロ、どうかしたか?」
「…。」
シロは珍しく俺の質問に答えもせず、石ころを見詰めていた。しばらくシロの様子を覗っていると…。
「ごーしゅじんたーまー!!!レッド・ギガルピア・ドグランナがいるよー!!!」
シロは興奮している時に出すごしゅじんたまを使った。しかしレッド・ギガルピア・ドグランナな…。凄い強そうな名前だな。
するとシロが見詰めていた石ころがガタガタと動き出した。
丸くて赤い石ころには顔があり、そこから手足が生えている…。こいつ……太古の森で見た奴に似てるな。
「シロ、こいつの赤くない普通の石の色の奴見たことがあるぞ。」
「それはギガルピア・ドグランナだよー?その派生した種族がレッド・ギガルピア・ドグランナだよ!頭が良いし珍しいんだよー?」
渋いオッサン顔をしたシュールな石顔手足の魔物はどうやら珍しいらしく、シロは興奮して説明してくれた。
そして前回同様に俺達が一歩踏み出しただけでマグマへと飛び込んで潜って行ってしまった。
一言だけ残して。
「ナニミテンダヨ。」……と。
……………。
なんなんだよあいつ。
何となく負けた気がしてムカついていると、シロが声を上げた。
「ご主人様-、階段あるよー!!」
石顔手足がいた向こう側に階段が見えた。
「おう、これでとうとう二十階か。次はボス部屋だな!」
「そうですね。」
「ボス部屋だー!!うれしーねー!!」
嬉しい?嬉しいのかな。まぁ、先に行けるから嬉しいのか。
「よし、じゃあ先に行こうか。」
そうして俺達は二個目のボス部屋へと向かうために、十九階の階段を下りていった。