6-1 試練の開始
「ライトボール。」
ダンジョンへと通じる入り口へ入るとすぐに階段があった。
とりあえず灯りが欲しかったのでライトボールを使う。
階段は想像していたよりも長く、既に降り始めてから五分以上が経過していた。
「ルカちゃん、長い階段だねー!!」
「そうですね。シロちゃんも足元に気を付けて下さいね。」
「はーい!!」
そんな会話を挟みながら降りていくと、やがて階段が終わりダンジョンの一階へと辿り着いた。
松明が壁に飾られているようなイメージだが、光源となるものは見当たらない。
しかし、ちゃんと周囲が見えるようになっているのは、異世界仕様だからなのだろう。
「サーチ…サーチ……あれ?」
サーチを使って次の階へとどんどん突き進むつもりが、何故かサーチが使えなかった。
これもそういう仕様なのだろうか。
「サーチが使えないか。これは苦戦するかもな。」
そんなことを言っていたら目の前に早速魔物が現れた。
ぷにぷにと小さい青いスライムが跳ねている。
外の世界では持続的に使っている隠蔽スキルの効果でほとんど魔物と遭遇しないので新鮮な感じがするな。
「ご主人様-!!ぷにぷにがいるよ!!」
「あぁ!ぷにぷにだな!!」
ついつい俺も興奮してシロに乗っかってしまったが、生でスライムを見たら誰でも興奮位はするだろう。
「鑑定!!!」
興奮そのまま鑑定さんを発動させる。
するとFランクのぷにぷにと出た。
え?
シロのぷにぷには表現じゃなくて正式な名称だったのか…。
因みにぷにぷにのステータスは平均2だった。
「ルカ、こいつどうしたらいいんだ?」
「ダンジョンの魔物は外の魔物とは全く違うようです。どんなに力の差があっても挑んでくると聞きましたので闘うしかないかと。」
なるほどね。確かに俺の知ってるゲームの様々なダンジョンがそうだった。
するとぷにぷにがシロに体当たりをくらわしてきた。
「うーわー、ごーしゅじーんたーまー、やーらーれーたー。」
シロはジタバタしながら倒れ込むと何故かやられた。やられたと言いながら。
「ちくしょう!……よくもシロを…ゆーるさーん!!ていっ!」
シロがやられた悲しみから俺はチョップを優しく振り下ろす。するとぷにぷには真っ二つに割れてしまった。
「あっ、ご主人様が可愛いぷにぷに殺した!!」
シロ。やめようか。それはなんか胸に来るものがあるぞ。
「ハルト様。ぷにぷにが何かドロップしました。」
真っ二つに割れてしまったぷにぷには煙と共に消えると、そこには一つの瓶が残っていた。
「ん?ドロップか。これは初ドロップだな。」
ダンジョンでの初ドロップ記念に内心喜び、どれどれと言いながら瓶を除くと青い液体が入っていた。
「これは定番の回復薬かな?どれどれ…鑑定さん!!」
すると、ぷにぷに液と出た。なにそれ。
「ぷにぷに液ですね。ぷにぷにを呼び寄せるのに使えます。」
鑑定さんを読み漁る前にルカが教えてくれた。ぷにぷに呼び寄せてどうするんだろうか。
「ご主人様!!宝だね!!」
「あぁ!宝だな!!」
シロのキラキラした純朴な瞳にぷにぷに液をステサールワケにはいかないので、インベントリの肥やしに決定した。
ダンジョンでは隠蔽に関係なく魔物が現れるようで、外で有効なスキルも一部は通用しないようだった。
普通の冒険者には案外ダンジョンは厳しいのかもしれない。
「ご主人様!!宝がきたよ!!」
「宝か!!」
シロの声に振り返ると、そこには魔物が二匹いた。
「ぷにぷに~!!」
「あぁ、ぷにぷにだな。」
二匹のぷにぷにがいた。
「ていてーい!」
二回の手刀で決着をつける。
「ルカちゃん!!ご主人様が可愛いぷにぷに二匹殺した-!!!」
やめようよそれ。
しかし、エンカウントする確率高過ぎるだろ。まだダンジョンの入口から動いてないぞ?
そんなことを考えながらぷにぷに液を二つインベントリへと収納する。
「ぷにぷに液落とす確率高いな-。」
「そうですね。これもハルト様の実力ですね。」
ルカ。もうそれはエコヒイキだよ。ぷにぷに液いらないし。
「このままだと時間かかるから、ガンガン行こう!浅い階層でちまちま遊ん「ご主人様!!ぷにぷにだよ!!」……。」
ぷにぷに。ぷにぷにぷにぷにぷにぷに液。多いよ。倒すとダメージくらうのよ心に。
「シロ。俺はもうだめだ。…あとは任せた。」
「ごーしゅじーんたーまー!!!!」
俺は(心が)限界に達し倒れると、シロは涙を浮かべながら(悪ノリで)ぷにぷに達へと振り返る。
「よくもご主人様を!!ちょりゃ!!」
シロは五匹のぷにぷにに向かって手を振る。すると、触ってもいないのにぷにぷには皆真っ二つに切り裂かれた。
「またつまらぬ物を斬ってしまっただよ……。」
なにそれ!知ってるの元ネタ?!だよってなに?!
「ふふっ、シロちゃんはお茶目ですね。」
そして、時間が惜しいのにも関わらずルカが見せる心の広さ。
駄目だ、今この時幸せ過ぎる。
「まぁ、悪ふざけはこの辺にして先を急ごうか。」
「はぁーい!!」
シロも納得してくれたので、俺は走り出そうと振り返ると……。
「ご主人様!!ぷにぷにだよ!!」
おのれぷにぷにめ。もしかして足止め専用モンスターか?
「ていっ!」
俺はシロの真似をして手刀を横に振る。
「ご主人様どうしたの-?」
しかし何も起きなかった。恥ずかしすぎる。ただ手を振っただけに見えたが、何かしらの技なのだろうか。
そしてシロは手を振るとこちらを見てニヤリと笑う。
「ふっふっふ……ご主人様もまだまだよのぅ。」
ぷにぷにを確認するとぷにぷに液が落ちていた。
くっ。シロめ。
「シロちゃん、ハルト様に失礼ですよ。ハルト様はシロちゃんに花を持たせてあげただけですからね。」
「はぁーい。ご主人様ごめんー。」
はっはっは、と大人の余裕を見せて俺達は歩みを進める。
「しかし一階でこんな迷路のような造りじゃ、普通の冒険者じゃ厳しいな。インベントリがないと食料が無くなるぞ。」
「そうですね。」
歩けど歩けどぷにぷにが出てくるだけで、次の階へと進む為の階段が出て来ない。既に三十分は彷徨っている。
「はぁ、サーチが使えないのが痛いな。シロの鼻で分かればいいのにな。」
「分かるよー?」
「え?……何でそれを早く言わないんだ?」
「だってご主人様が迷路みて目がキラキラしてたからー。」
ふざけんなー!!とは言えない。だって、迷路のアトラクションみたいで楽しかったのは事実だから…。
「よ、よし。じゃあシロ隊員に案内してもらおうかな。」
「あいあいさーご主人たまー!!」
すると歩き始めて五分もかからずに階段が見付かった。
シロは悪くないよ。罪名は俺のワクワク罪だ。
 




