1-6 五右衛門な風呂
サーチで敵の正確な位置を補足する。凡そ20メートル先だ。洞窟はカーブしてるので、まだ姿は確認出来ない。
さっきから気配察知がビンビンしてる。恐らくかなりの強敵だろう。しかも、場所が悪いな。
とりあえず隠蔽を使いやり過ごすか。早く風呂作りたいし。
俺は気配を消して音を立てないように歩き出す。カーブが終わり、洞窟の入口が見えてきた。すると、真っ赤な瞳でこちらをじっと見詰める巨大な白いトカゲみたいなのがいた。
正確な表現をするとウーパールーパーに額から角が2本生えた見た目で、手足からは鋭利な爪が生えている。尻尾も太く長いが、あの角から強力な魔力を感じる。
可愛い見た目に反して、かなりヤバい予感がする。真っ赤な瞳が、隠蔽を使っているはずの俺を捕らえている。鑑定を使おうかと悩んだが、これもやめた。
ゆうに5メートルは超える巨体をもち、計り知れない強さを感じさせ、初めて隠蔽を見破られたことに動揺したが、少しすると敵意を感じ無いことに気付く。
「行くしかないか。」
このまま対峙してても意味はなさそうなので、出口向かって歩き出すことにした。
白いやつの前まで来たが、何もしないから早く出てって。と言われているような気がした。
そのまま白いやつの横を通り過ぎ、数メートル進んだところで振り返ると、背中に小さな白いのが張り付いていた。
「子供に救われたか。」
心の中で子供ウーパールーパーに感謝していると、親ウーパールーパーは洞窟に消えていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
気を取り直し、小屋に戻ると俺はすぐに作業を開始した。インベントリに入っていた鉄塊を取り出し、マジッククリエイトで加工出来る魔法を生み出す。
成型と名付けた魔法を鉄塊に放つ。すると、俺のイメージした魔力の形に鉄が広がっていき、それほど魔力も使わずに鉄釜は完成した。もちろん底から排水も出来る様にした。
鉄釜を土魔法の土台の上に置き、魔石を置くスペースを作る。廃材でスノコを作り底に敷いた。
「出来た!後は、一度試しに沸かしてみよう。」
水魔法で水を溜めて、魔石に魔力を注ぎ点火する。良い感じだ。少しすると湯気が出始めたので、手を入れると適温だった。
「フォル爺さん喜んでくれるかな。楽しみだ。」
フォル爺が帰ってくるまで、先ほど倒したラットコベットで解体を学ぼうかと思ったが、これもマジッククリエイトで生んだ素材分解と名付けた魔法ですぐに終わってしまった。
肉は晩飯で使うとして、毛皮は黒石鳥に比べたらゴワゴワしたもので使い道はないが、他の素材と一緒にインベントリに保存しておくことにした。
魔石が一つだけ出て来たので、それを土魔法と鉄でクッキングヒーター的な物を作って、台所に設置した。
それと、最近魔物を倒したので、レベルアップしたか確認したかったので、鑑定で見てみた。
ハルト・キリュウ
種族:マッチレスヒューマン
称号:異世界人
創造人
レベル:4
TP:1170
MP:2400
攻:1220
防:1200
魔:2000
敏:1060
器:1270
スキルは特に変わらなかった。雷魔法とか、スキルに乗ってたら少しは勇者っぽくて格好良かったけど、どうやら魔法系のスキルの細かいものは魔道の極みに属するっぽい。
ステータスの数値は大分上がっている。しかし、レベルが思ったよりも上がっていないな。ラットコベットは3匹倒したけど、Dランクなのでまだわかるが、黒石鳥はBランクなのでもっとレベルアップしてるかと思っていた。この世界の普通の村人達の平均がレベル10なので、意外と魔物と戦ってるのかな?でもステータスも10が平均だとそれはないはずだよな。
などと、考えているうちにフォル爺が帰ってきた。
「おかえりなさい。」
出迎えに行き、声をかける。色々話したいことがあるが、とりあえず風呂からだ。
「フォル爺さん、実は見せたい物があります!」
「なんじゃ?」
すでに小屋の中にいたので、クッキングヒーター的な奴から紹介する。
「魔石が手に入ったので作ってみました。無属性の魔石だったので、属性付与してみたら出来たので、魔力を流すと火が着くんです。」
フォル爺は魔力を流して、火を点すと、お湯を沸かしていた。すぐにグツグツと沸いてお茶を入れる。
「これは便利じゃ。火の魔法は好きでは無いし、木を燃すと精霊が騒ぐでのう。しかも、魔力もかなり少なくて済む。ありがとうよ。」
「実はもう一つあります。お茶を飲んだら着いてきて下さい。」
帰って早々休ませること無く騒ぐのは申し訳ないので、ゆっくりお茶を飲んでから、小屋の外に出た。
小屋の裏手にきて、風呂をフォル爺に見せる。
「風呂を用意してみました。いつも水浴び程度でしたし、木も使ってないので、入りやすいですよ。これも魔石で火が点せる様にしました。」
「フォッフォッフォッ。これはこれは。年寄りには有り難いのぅ。どれどれ。」
さっき沸かしたばかりなので、まだお湯だった。フォル爺は手を入れて、嬉しそうにお礼を言ってきた。
「早速入らせてもらうかのぅ。」
「分かりました。では、小屋で待ってますね。」
俺はその間に、飯の支度をしておこう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
フォル爺が出て来ると、とりあえずラットコベットの肉を使って料理をした。
飯を食い終わり、フォル爺に報告と相談の時間だ。
「そういえば、レベルが4になりました。黒石鳥も倒したのでもっと上がるかと思ったのですが、こんなもんなんですか?」
「それはないのぅ。レベル1の赤子がBランクの魔物の経験値を得たら、相当上がるじゃろうな。そもそも、単独でBランクの魔物を倒せる者は最初から高レベルじゃから比較にはならん。ステータスの高さからかも分からんが、レベルアップしにくい種族なのかもしれんのぅ。」
なるほどなるほど。やっぱり異世界でもレベル1だと大幅アップがあるんだな。
続いて、遭遇したウーパールーパーについて聞いてみた。かなり強敵な感じがしたことや、姿形などを伝えた。
「ウルフィナス…じゃな。この森が魔族や人族等の領地拡大を目論む者達でも不可侵なのはウルフィナスのような魔物が居るおかげでもある。」
フォル爺はそれから、ウーパールーパーについて話してくれた。