5-9 バーン!!
翌朝、俺達は出発しようとしていた。
「ルカちゃん、旅の邪魔しちゃってごめんね。そして色々ありがとう。シロちゃん、ルカちゃんのこと頼んだよ!!ハルトさん、ルカちゃんにずっと優しくしてあげてね!!」
「エチカちゃんってば!!」
「あぁ、もちろんだ。」
優しくしないわけがないじゃないか。むしろずっと冷たくしないでねとお願いしたいくらいだ。
「エチカちゃん、頑張って下さい。」
「ありがとう!ルカちゃんも頑張ってね!いつも応援してるから!」
ルカとリリノエチカは固い握手を交わして離れる。リリノエチカはこれから雪と氷の精霊達をまとめるのに大忙しのようだ。
「じゃあ、またな。」
「うん!またね!!」
手を振りリリノエチカは満面の笑みを浮かべる。
そうしてリリノエチカと別れ、俺達は出発した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ごーしゅじーんたーまー。お腹空いてしーぬー。」
ルカとシロを背負って二時間ほど飛んでいると、シロが倒れ込みツンツンしてきた。
「リリノエチカのとこで朝飯食べたばっかりだろ。」
「朝ご飯はもうお腹にはいませんー。旅立ちました-。」
「仕方ない奴だなぁ。」
シロはまだ人型での食事になれてない為、飛びながらだと背中がベトベトのギトギトになりそうなので、一旦地上に降りることにした。
「中々進まないなぁ。ルカも急ぎたいだろうに。」
「ハルト様、私は気にしていませんので大丈夫ですよ。」
「ごめんねハグハグ。ルカちゃん。モシャモシャ。」
俺がインベントリから出した屋台料理を嬉しそうにシロは頬張る。余程腹が減ってたんだな。
「シロ、またすぐに腹が減らないように詰め込んでおけよ。」
「お任せをご主人様!!モキュモキュ。」
嬉しそうに食べているシロを見ていたら、足止めも悪くないかと思えてきたので、ルカと俺はお茶の用意をしていた。
すると突然リスキアから神託が届いた。
『ハルト。聞こえますか?』
『お?リスキアか、お疲れ。』
『お待たせしました。ダンジョンが出来上がりました。ハルトのサーチに場所が映るようにしたので迷うことはないでしょう。』
『おぉ、ありがとうリスキア。こっちの都合で仕事増やして悪かったな。』
『いいえ、私の都合で動かせているのですから。』
そしてリスキアは更に説明を重ねる。
『ダンジョンを攻略すれば神力が手に入るようには出来ましたが、どのようなダンジョンに成長したのかまでは私は介入出来ていません。なのでくれぐれも気を付けて下さい。現存するダンジョンでは間違いなく最高難度でしょうから。』
『あぁ、ここからは俺たちの仕事のだからな。茶でもしばいて待っててくれ。』
『古臭い表現ですね。…あぁ、一つ聞きたいのですが…そこの娘はウルフィナスの子ですね?』
『あぁ、そうだ。』
『ちゃんと解決したのですね。安心しました。その娘を宜しくお願いします。』
『あぁ、任せろ。シロに何かあったらウルフィナスに怒られるだろうしな。』
そんなたわいも無い会話をした後、神託の念話は切れた。
「ルカ、ダンジョンが完成したとリスキアから連絡があった。詳しい場所も分かるから、後は向かうだけだ。頑張ってダンジョン踏破しような!」
「はい!ハルト様!シロちゃんも宜しくお願いします!!」
「ルカちゃん!!モシャモシャ、頑張ろうね!!モキュモキュ。」
☆
シロが食事を終え、再度空路を進む。それからはシロも騒ぎ出すこと無く、ひたすら北へと進んでいった。
「あと少しだ。」
ルカによると氷の極地へと既に踏み入れているようで、辺りは氷だらけの世界だった。
雪は無くただただ氷だらけで、山も木も川も草も氷で出来ていた。
「どういう原理か分からないが、凄い世界だな。」
どんな生物も生きていけないのではないだろうか。寒すぎるだけでなく、氷そのもので出来てる環境では魔物でも無理だろう。
と思ったが、目の前には氷のカマキリのような魔物がいた。
鑑定するとBランクのアイスマンティスとでた。
「ていっ。」
俺は雷を放出して瞬時にカマキリを溶かしてやった。
「それにしても、こんな何も無いところでどうやって生きてるんだろうな。」
「魔物の中には、魔素を糧にしているものもいます。おそらくその類かと。」
ふむ、魔素ね。地球にいた頃は魔素とかマナとかよく目にしていたが深く考えていなかったな。
字的には魔力の元素みたいなものなのかな。
そんなことを考えている内に、サーチがダンジョンを示すマーカーへと辿り着いていた。
「おかしいな。ここがダンジョンの筈なんだけど。」
「…何もありませんね。」
しかし、リスキアが間違えたとも思えなかったので周囲を捜索するが、見付かるのは氷カマキリなどの魔物ばかりだった。
「周りにも何も無いか。となると入り口はこの下か上しかないな。」
上を見ても空があるだけ、下を見れば透き通った氷がどこまでも続いているようにしか見えない。
しかし、創造神が最高難度と言うくらいだから辿り着く事さえ用意ではないのだろう。
「マジック・クリエイト。」
氷を溶かすと言えば塩が浮かんだが、塩魔法とか意味が分からん。ナメクジの魔物にしか効かねぇんじゃね?と自分にツッコみながら他の魔法を考える。
やはりここは安パイの火魔法だな。
「ちょっと足元の氷を溶かしてみる。ルカとシロは少し離れてて。」
「ご主人様-、私なんか分かる気がするー。リスキア様の匂いするよー?」
「匂い?……しないけどなぁ。」
「くんくん……この下だよ!」
くんくん匂いを嗅ぎながらシロは歩いて行くと、足元を指さした。
そして、地面と向き合う形で右手を一旦引いたかと思ったら、可愛い掛け声と共に腕を振り下ろした。
「ちゅりゃー!」
「うわっ!!!」
するとズガーンッ!!!!と衝撃音が鳴り響き、氷の地面は爆発した。
氷の塊が飛んでくるので、慌てて俺とルカの結界を張り空中へと飛び上がる。
やがて、周囲が落ち着くとこちらを見上げるシロの姿があった。
「ご主人様-、穴があるよー!!」
シロは何も無かったかのように声を上げる。
パンチだよね?シロパンチやばくね?
色々と動揺しながら、クレーター状になった氷の大地を進み、シロの元へ向かう。
「あっ、本当だ。これで間違いなさそうだな。」
「でしょー?偉いー?」
「あぁ、偉いな!というか凄いな。パンチ。」
「うん!体が大きくなってから力と魔力が強くなったんだよ!!」
「ほほー。」
パンチで地面を抉るほどにねぇ。
「私は魔法使えないから、体に魔力流すんだよ!さっきは地面の中にも流したんだー!バーンだよ!!」
「バーン…だな。」
「バーン…ですね。」
「バーン!!」
俺も草原地帯での聖教国との戦いで魔力を地面に流したが、あんな感じでやったのかな?
よし、とりあえず色々と気になる事はあるが、先に進むことにした。
「ルカ、シロ。これから先は何が起きるのか想像もつかない。怪我しないように気を引き締めていこう!」
「はい。宜しくお願いします。」
「はーい!!」
ルカは少し緊張していそうだが、シロはいつも通りだ。
何にせよ、俺は俺のやれる事をやっていこう。
☆
洞窟を見つけた俺達を見詰める影が一つ。
「仲間まで中々やるみたいだにゃ?これは数だけ揃えても勝てにゃいし、ゴーレムなんかじゃ荷が重いにゃ。ちょっと準備がいるから一旦退くかにゃ?」
サーチにも映らない者は、俺達に気配すら感じさせないで消えていったのだった。