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5-8 リリノエチカ




「この野郎!!不意打ちして逃げる気か!!」


 赤い点は遠ざかっていくが、人族を超越した肉体と魔法でどんどん距離を詰めていく。


 すると、追いかけてくるこちらに気付いたようで魔力を感知した。魔法がくるか?


「うおっ。…中々やるな、だが無駄だ!」


 うおっ。と言ったが決して(うお)っていう意味では無いぞ。ギョッとはしたが。


 俺がどんどん近づいていくと、逃亡者は雪崩を巻き起こした。地理を活かした中々の魔法だが、俺は直ぐに空へと離脱して回避する。


 空を飛ぶのは金色全力疾走よりは遅いが、それでも距離は縮まっていき、やがて姿を捉えた。


「んー、吹雪いててよく見えないな…人間では無さそうだ。」


 さらにスピードを上げて追い付こうとすると、今度は巨大な雪の巨人が現れた。


「ブモォーーー!!!!」


「魔物じゃないな。ん?精霊魔法か?」


 巨人のような見た目だが実際は自然の小さな微精霊が集まっているように感じた。

 それに、なんかキラキラしてるし。


「マジック・クリエイト。」


 微精霊達には悪いが倒させて貰おう。


 俺がマジック・クリエイトで巨大な炎の柱を生み出そうとしたとき、一筋の光が雪の巨人の前へと降り立つ。

 すると突如雪の巨人は崩れてただの雪の山となった。


「ルカ。早いな!」


「私の脚ではハルト様には追いつけないので、シロちゃんが背負ってくれました。途中からは私が代わりにシロちゃんを背負って飛んできましたが。」


 え?シロがルカを背負ってきた?うーん、見た目によらないパワーだ。子ウルフィナスのスペックそのままで人化したんだな。


「雪の微精霊達には解散して頂きました。氷や雪の精霊達は仲が良いので話を聞いてくれました。」


 ほぅ、そんなことまで出来るのか。感心しながらも、俺はサーチを確認する。


「じゃあ、そろそろ追いかけっこも終わりにするか。」


 雪の巨人で注意を引いているうちにうまく隠れたつもりなのかもしれないが、サーチにはしっかりと表示されている。

 それを見逃すわけも無く俺はそこを目指していく。


 すると、サーチが示したのは立派な氷で出来た木だった。不自然過ぎる。凍りついた木ならまだ分かるが。


「おい。いい加減に「ハルト様、宜しいですか?」え?あぁ、いいよ。」


 珍しく俺を制して一歩前へ出ると、ルカは氷の木へと話し掛けだした。


「私です。ルカシリアです。」


 すると透明なはずの木の幹からヒョコッと顔出すのが見えた。


「ルカちゃん?本当にルカちゃんなの?」


「はい。だから怖がらなくて大丈夫ですよ。」


 氷の木の向こうからビクビクとしながら出て来たのは青と白の混ざった髪をした女の子だった。


「知り合いか?」


「はい。彼女は雪と氷の精霊女王の娘です。小さい頃に何度か会ったことがあります。」


 ふむ。精霊か。フォル爺やガンマダのように人型になれるだけの力の持ち主か。

 しかし、何でいきなり攻撃してきたんだろうか。


「ルカちゃんがいるなんて知らなくて…ごめんなさい。」


「気にしないでください。ところで何故このようなところに?」


「魔に堕ちた焔帝と呼ばれる精霊が更に強い力を手に入れて、他の精霊を消し去ろうと暴れ回っていたの。だから、逃げてきたの。」


「もしかしてガンマダのことか?」


 俺が口を開くとビクッとしてルカの後ろに隠れてしまった。


「……焔帝の事知ってるの?ルカちゃんといるって事は焔帝の仲間じゃないよね?」


「ガンマダで合っていれば、こないだ襲われたから倒したよ。」


「え?」


「え?」


 聞き取れなかったのかな。


「ガンマダと呼ばれる精霊なら、ハルト様が倒して下さいました。だからもう安心して大丈夫ですよ。」


「………うぅ……ふえーん!!!」


 精霊ちゃんは突如泣き出すとルカに抱き付いた。結局泣き止むまでの15分位の間ルカにあやされ続けていた。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ハルトさん、ほんとぉーにごめんなさい!!!」


「いやいや、気にしないでくれ。何の被害も無かったし。」


「てっきり住処を狙いに来た悪党かと思って。」


 雪と氷の精霊はリリノエチカという名だった。ガンマダはフォル爺だけじゃ無く、全ての精霊達に敵対心を持っていたんだな。


「やっつけようと思ったらハルトさんの化物じみた魔力を感じて、恐ろしくなって逃げちゃいました!」


 初めはビクビクしてて大人しい子かと思ったが、ルカの仲間だと知るやいなや明るい表情でガンガン喋り出した。お喋り好きなのかな。


「でも、今冷静になってみれば暖かい優しい魔力ですね。ルカちゃんがハルトさんを選んだのも分かります!!」


「え?」


「ちょっと、エチカちゃん!!!」


 ルカがリリノエチカの口を慌ててふさぎに行く。選んだとか、どんだけときめく言葉なんだ。


「ところで、ハルトさんとルカちゃんはこんな僻地(へきち)へ何しに来たんですか?」


 ルカを振り切るとリリノエチカは振り返り、俺達に問うてきたばい。


「んー、精霊なら教えてもいいのかな。どう思う?」


「私には判断が出来ません。申し訳ありません。」


 まぁ、ルカは真面目な子だからその答えを予想していたが。まぁ、ざっくりならいいか。


「詳しくは話せないのだが、ルカが強くなる為に氷の極地へと向かっていたんだ。その途中で野営してたんだよ。」


「ふーん。ルカちゃんすごく強いように感じるけど、まだ強くなる必要があるの?」


 お喋りだから、このまま付き合っていたら終わりが見えないな。


「そうだよ。その道中、リリノエチカに邪魔されたんだ。」


「もぉーー!!私だって悪気があったわけじゃ無いんだからぁ!!ハルトさんのいぢわるー!!!!」


 ポカポカと俺の肩をリリノエチカが叩いていると、何故だかシロはそれを真似てニコニコしながら反対の肩をポカポカし出した。


「ほらほら二人とも、ハルト様が困ってますよ。えぃっ。」


 とか言いながら、ルカまでもが背中をポカポカしてきた。ルカはそんなキャラじゃ無かったはずだが。





 少し落ち着いて、お茶を飲みながら休んでいる。ルカとリリノエチカは二人きりで長いこと何かを話していた。


 後でルカに聞いた話だが、雪と氷の女王はガンマダに殺されたらしい。

 基本的には精霊を殺すことなど出来ないらしいが、精霊同士だと話は別らしい。まぁ、俺にも殺せたが。


 拮抗していた戦力も、邪神の欠片の力のせいでガンマダに傾いた。

 それでも女王はリリノエチカを逃がすために最後まで粘った。


 そして王女だったリリノエチカは自動的に女王となり、死ぬわけにいかない為、この僻地まで逃げ込んで来たようだ。


 リリノエチカは最後に目尻に涙を浮かべながら微笑んで、感謝の言葉を口にした。


 (かたき)を取ってくれてありがとう。と。



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