5-6 Zynka
シロを人化させるとは言ったものの、実際のところ簡単ではなさそうだった。
ルカは身に付けていた指輪や腕輪を差し出してくれたが、指輪はシロのどこにも入らない。
大きめの腕輪を指にはめても、人化した際にするりと抜けて、元に戻ってしまう可能性が高い。
巨人族にでもなれば別かも知れないが。
「うーん、やっぱりゼロから創り上げるしかないなぁ。」
「そうですね。」
結論は出たが、それでもまだまだ問題はある。
まずは装備を創る上での素材だ。
人化の付加を付けるだけで無く、体の大きさに合わせてサイズが変化する付加も付ける必要がある為、かなりの代物でないと駄目だろう。
生半可な物では容量オーバーとなる。付加をしていて分かったが、非現実的な内容ほど容量を必要としてる気がするのだ。
当たり前のことかもしれないが。
ルカにその事も説明した。そして二人で考え込む。
「素材かぁ。」
「買うにしても資金が必要ですし……魔物の素材となると、かなり強い魔物を探すようです。強い魔物程中々見付からないので、時間がかかりそうですね。」
ん?強い魔物?
ルカの言葉で俺はゴーレムを思い出した。
そしてリスキアと神託の念話で会話した時にゴーレムの魔核は古代文明の遺物である貴重な物だと言っていたことも。
俺はインベントリから魔核を取り出しルカに見せた。
「ルカ、これならいけるんじゃないか?」
そして、リスキアが貴重な物だと言っていたことも説明する。
「リスキア様が貴重だという程の物だったのですね。でしたら宜しいかもしれませんね。」
よし、ルカのOKも出た。この魔核でやってみるか。
プルートーンゴーレムの魔核は小さいので指輪を創ろうかとも思ったが、男に指輪をプレゼントする趣味はないので腕輪にすることにした。
それに初めての指輪はルカにプレゼントしたいし。
「悪いんだけど、やっぱりルカの腕輪使ってもいいかな?」
素材が足りないためルカに問うと、すぐに渡してくれた。
今度腕輪を買ってあげなきゃ。
「マジック・クリエイト。」
俺は錬金術をイメージする。と言っても金を創るイメージではなく対価交換っといった感じで、既存の物質を使って新たな物を作り出す方の錬金術だ。
そういえば余談だが、地球にいたころ‘歯がねぇな錬金術師’という漫画を、頭痛がガンガンというコミックで読んだ記憶がある。
俺の魔力でルカの腕輪とゴーレムの石盤を包み込む。すると、その二つは俺の魔力の中でグルグルと回転しだし光に包まれた。
「おっ、そろそろ出来そうだな。」
徐々に光が収まると、そこには一つの腕輪があった。よし!上手くいったぞ!と思ったのだが……。
「あっ……やっちまった。」
俺はルカの腕輪を見た直後に創ってしまった為に、ルカの華やかで可愛らしい腕輪をイメージしてしまっていたのだ。
女性用としてなら完璧な高級感と可愛らしさを持ち合わせた完璧な腕輪だ。
これは…シロが人族になったとき怒られそうだな。
「まぁ!可愛らしい腕輪ですね!シロちゃんにとっても似合いそうです!!」
ルカは女子な為、可愛いに反応して無意識に傷を抉る。確かに似合うだろう……今のシロなら。
やっぱりルカ用にしようかな……。
☆
流石にこの状況で、「ルカ、プレゼントだよ。」と言えるわけも無く、ドジな俺は付与へと移行する。
今回付与するのはサイズ適合と人化だ。
俺はマジック・クリエイトで装着する者に合わせて自動的にサイズが変わるイメージと、人の姿へと変わるイメージを腕輪へ魔力を通じて練り込む。
感覚的に上手く行った気がした。
俺の魔力が腕輪に浸透していくと、魔核に刻まれていた紋様が浮かび上がり消えていく。
魔核が素材となっているから浮かんだのだろうが、あの紋様に何か特別な意味でもあるのだろうか。
紋様のことを考えている内に腕輪への付与は終わっていた。
「シロ、出来たぞ!」
「ハルト様、お疲れさまでした。」
ルカに続いてシロも俺の所へ来た。
「じゃあ、早速付けてみる?」
シロは頷くと俺に頬ずりして、腕を差し出す。
なんかドキドキしてきた。シロは人仕様になるとどんな姿なんだろ。どんなこと話すのだろう。
どうであれ可愛い弟として面倒見ることには違いない。
でも、今の腕輪のサイズだと指にしか入らないが、指に付ければいいのだろうか。
そんな心配をしながら、とりあえず指に付けてみようとするが指にさえまともに入らなかった。
しかし、直ぐに腕輪は大きくなり腕に装着された。
「ルカ、シロが人化したらどんな性格や見た目になるのか楽しみだね!」
「はい!シロちゃんは優しい子なので心配はないですね。」
「そうだね。あっ、始まった!」
腕輪を装着したシロが輝きだした。眩いくらいに全身が発光している為、どのような変化が起きているのかは確認出来ないが、少しずつ光を放つ範囲が縮んでいる。
そして最後に一際激しく光が放たれると、人化は終わった。
「え?」
発光が止み、そこには小学校低学年程度の男の子が立っていた。
筈だった。筈だったと言っても俺の勝手な想像でしか無かったのだが。
しかし、目の前に現れたのは予想していた姿とは余りにもかけ離れたシロの姿だった。
「ご主人様?」
俺はずっと可愛い弟を想像していた。
「ご主人様~?」
肩に乗せて旅してきて、スケベだからルカと寝るし風呂入るし。
「おーい。ご主人様ぁー?」
少し大きくなれば兄貴!とか呼ばれて、守ってあげたいだけの弟ではなくなり、一人前になったな!とか言ったりして。
「ご主人様~。どうしたのー?おーい。」
しかし、目の前には女の子がいる。
「ご主人様ってばぁー!!!」
「はっ!す、すまん。シロ……だよな?」
「決まってるでしょ-?ボーッと遠く見て…大丈夫??」
人化したシロは長い金髪で、ウルフィナスだった名残の小さな二本の角が頭のてっぺんから後ろに向かって斜めに生えている。
顔は童顔でとても可愛い顔をしている。妹にするにはこれ以上無いほどの顔立ちだ。
お兄ちゃんなんて言われたら何でも買ってあげてしまうな。
身長はルカより頭一つ分位小さく、胸もさして大きくはない。しかし膨らみは確かにある。
つーか、生まれたばかりなんじゃないの?何でこんな大きいんだ。
「大丈夫だ。とりあえず服を着ようか。」
俺が目のやり場に困ってるのを見て、ルカがパジャマを貸してあげると言ってくれたので、インベントリから取り出しルカに手渡した。
シロって雌だったのね。




