5-4 木霊を生む煩悩
プルートーンゴーレムは凄まじい速度で迫っていた。
初擊よりも早い気がする。ということは破壊力も増している可能性が高いな。
初擊をシールドで防ぎきられた事が癪だったのか、ゴーレムも本気になったようだ。
俺はこのままのヒビ入ったシールドでは防ぎきれないと思い更にシールドを三重に作る。
本気で戦えてないので、このままではジリ貧とまではいかないが、魔力の無駄遣いには変わりが無い。
攻めの一手を本気で練らなくては。
その時だった。
俺のシールドにゴーレムがぶち当たると思った瞬間に、突如ゴーレムは僅かに軌道が反れて、掠めるようにして通過していった。
「なんだ?」
振り返りゴーレムの方を見ると背中に白い物体が貼り付いていた。
「…?!シロか!!まぢかよ!おいっ、無茶すんなよシロ!!!!!」
ヤバい。まぢやばい。只でさえ捉えきれない相手にシロが張り付いていては手の施しようがない。
『ルカ!ヤバいよ!!ゴーレムにシロが貼り付いちゃった!!!どうしよう!!!?』
パニックだ。俺は今まさにメダパニックに陥っている!!!
『ハルト様、落ち着いて下さい!私にも見えます!シロちゃんにもきっと考えがあるのだと思います!!』
そうは言ってもずっと俺の肩に乗っていた可愛いシロだ。もしシロの身に何かあったら俺は長期間継続型のメダパニックに陥る自信があるぞ!!
しかしそんな心配を余所にシロはゴーレムの背中に張り付くだけだは収まらずに噛み付きだした。
「シロ!噛み付いたらばっちいぞ!早く戻ってこい!!」
そんなことを叫んでいると、何度目かの噛み付き攻撃の後にゴーレムが地面へと墜落した。
「シ、シロ!!!」
俺が雷の魔力を全開でダッシュしてゴーレムの元へと向かうが、そこにはシロの姿は無かった。
赤く光っていた土偶飛行戦士の瞳は光を失い、完全に動きを停止していた。
ゴーレムの下敷きになってしまったんじゃ無いかと恐る恐るゴーレムを持ち上げてひっくり返すがシロの姿は無かった。
どこかで落っこちたのかと思い、周囲を見渡そうと顔を上げると背中をペチペチと叩く感触がした。
「シ、シロ~~~!!無事で良かったぁ~!!!」
俺は咄嗟にシロを抱き締める。すると、シロは苦しいよと言ってるようにジタバタと手足をばたつかせる。
「ハルト様、シロちゃん、ご苦労様でした。」
ルカがいつの間にか結界を抜け出し、直ぐ傍まで来ていた。俺は歓喜の余りシロを抱き締めたままルカも抱きしめた。
「力不足でごめん。二人が無事で良かったぁ。」
俺は本気でシロを心配していたので、半ベソかいてしまっていた。いや、半心の汗だ。
すると俺の頭をペチペチとシロが叩く。シロは何かを口に咥えていた
「石?でも普通の石ころには見えないな。ゴーレムのやつか?」
シロはそうだよというように頷く。
「ゴーレムの核のようなものでしょうか。」
なるほど、この小さい石版のような物が動力源でそれをシロに取り出されたから動かなくなったのか。
キャッシュカードよりも小さい石版だが、何やら複雑な模様が描かれ、淡い光を放っている。
鑑定してみるとプルートーンゴーレムの魔核と出た。
「ルカの言うとおり核のようなものみたいだ。それにしてもシロはすごいな!ちっちゃいのに。」
「本当ですね。シロちゃんはとても強いです。」
ちっちゃいは余計だといわんばかりに俺の足をペチペチと叩く。そして、すぐにルカに抱っこを強請っていた。
シロは甘えん坊だな。
そしてシロからゴーレムの石版を受け取り、インベントリにしまう。
シロは戦ってお腹が空いたようで、いつものペチペチお腹空いた合図を出してきたので、追加でプーの串焼きと謎肉唐揚げを上げた。
俺とルカも少しお腹が空いたので、二人でデザートを食べた。
俺はシロのお陰で殆ど魔力を消費していないので、ちょっと大きめの岩風呂を魔法で作り、その周囲を土の壁で囲う。
そして、水を流し込み火魔法で温めると野営とは思えない出来栄えの風呂が完成した。
ルカは俺より先に入るなんて出来ないと最後まで断ってきていたが、ルカの為に作ったんだからと粘ると渋々先に入ってくれることになった。
するとシロは俺の肩からピョンと飛び降りるとルカの肩に飛び乗る。
「シロ、ルカと入りたいのか?」
するとシロは頷く。やはり完璧に言葉は分かるようだ。
「じゃあ、シロちゃん一緒に入りましょうか。」
シロが魔物だから、ルカは何も気にすること無く風呂小屋へと消えていった。
シロは子供だがスケベ野郎だ。けしからん!!羨ましいぞ!!
俺は念の為、ルカとシロが風呂に入ってる間見張りを続ける。でもサーチや気配察知があるため暇だったので、二人が上がった時用に、ムーバルで買って置いたイチゴに近い味がするジュースを氷魔法で凍らしてアイスを用意する。
やがて火照った顔でニコニコしながら二人が出て来た。
「ハルト様、ありがとうございました。とても気持ちが良く、リラックス出来ました。」
「気に入ってもらえて良かったよ。俺も入ってくるけど見張りは続けながら入るから楽にしててね。」
俺は熱めのお湯が好きなので、少しぬるくなったお湯を再度加熱する。
水浴びはしていたが、温かいお湯につかるなど久しぶりだったのでめちゃくちゃ気持ち良かった。
これからはもっと風呂を頻繁に用意することにしよう。
俺が風呂から上がるとシロは既にルカの膝の上で寝ていた。よく寝る子だなぁ。
「やっぱり風呂は最高だね。入れる日はいつも入ることにするよ。」
「そうですね。」
いつも綺麗だし可愛いし美人なルカだが、風呂上がりは雰囲気が違っていた。普段いつでも戦えるよう着ている戦闘服とは違い、柔らかそうな素材のパジャマのようなものから僅かに覗かせる艶やかな肌が色っぽかった。
「てーいっ!!!」
「は、ハルト様?どうなさいました?」
いかん。悶々とし過ぎてこのままでは不味いと思い、煩悩へと活を入れたら思わず声が出てしまった。
「ご、ごめん!何でも無い!大丈夫。」
俺のてーいっに驚いたルカはシロを胸に抱き抱えて慌てて歩み寄ってきた。
今は近付いては駄目だよ。煩悩が目を覚ましてしまうから。
「そう…ですか。何かあれば何でも言ってくださいね。」
慌てて何でも無いと誤魔化したが、前の殺気の件の事もありルカは余計心配そうにしだし、俺の顔を覗き込むように見上げる。
するとシロを抱き締めているせいで寄せられた胸が顔を出している。谷間ってやつだな。ヤッホーっていったら木霊するのかな。
「ヤ、ヤッホー。……はっ!」
いかん、また心の声が漏れてしまった。
「ヤヤッホー…とは何ですか?」
ルカは首をかしげる。
「あー、俺のいた世界での了解みたいな意味だよ。あはは。」
「……そうですか。」
ルカは若干怪しみながらも納得してくれたようだ。これはやべかったぜ。
その後は煩悩君も静まり、少しだけたわいも無い会話をした後に寝る準備を始めた。
木魔法でコテージ風な小屋を作り結界を張る。
そして買っておいた寝具を敷きゆっくりと寝た。
翌朝にあんな大事件が起きるとも知らずに…。