5-3 プルートーン・ゴーレム
食事中にも関わらず攻めてくるとは。しかもこれやら野営の準備もあるから忙しいのに。
迷惑なやつだな。
「ルカ、また気配を察知した。」
「同じ気配でしょうか。」
俺にルカ続いてルカも立ち上がる
「同じような気がしなくもないんだが何だか今までと違って変な感じがする。今回はサーチにも引っ掛かったんだ。このままだとあと1分程度で見えてくると思う。いや…急加速した!!早いぞ!!!」
するとすぐに森の切れ目から一つの小さな影が飛び出してきた。
「あれは一体なんだ?石?」
「分かりません!私では目で追えません!!」
その小さな影は夜の暗闇に紛れ、俺でさえ目で追うのが精一杯の速度で飛行していた。上手く視認出来ない為、鑑定が使えなかった。
「照明弾!」
俺はマジック・クリエイトでライトボールの強化版を生み出す。
光の玉は30メートル程の高さまで打ち上がり静止する。するとフレアボールは強く発光し、昼間になったかのように周囲を照らし出すと漸く姿が確認出来た。
小さな黒い影は全身灰色の土偶のようだった。
そして鑑定結果は……
「ルカ!プルートーン・ゴーレムというらしい!!早過ぎるから守りきれないかもしれないから、とりあえず結界を張る!!」
「はい!私は戦局を見て加勢出来たら致します!気を付けて下さい!!」
ルカは頭が良い。足手纏いになる可能性を考えると一歩引いてくれる。冷静さはルカの強みでもあるな。全く持って見習いたいもんだ。
しかし……こいつの何処がゴーレムだ。
30センチ位しかないし、移動速度が早過ぎるだろ。暗かったとはいえルカでさえ見えないなんて有り得ないぞ。
この世界のゴーレムは巨大で破壊力抜群タイプじゃないのか?
ゴーレムならゴーレムらしく、町の入り口を守ってればいいのに。笛で眠らされて倒したりしないから。
俺はルカを戦いながら守りきれる可能性は低いと考えて、結界を張る。
「雷帝王!!」
俺は恥ずかしながら、雷の金色の鎧に名前を付けていたのだ。とうとう足を踏み入れたぜ…。これで金色のハルトも近付いたな。
雷の魔力をオーラのように身に纏い、その特性を利用して一気に加速して迎え撃つ。
「ハァッ!!!!」
俺とゴーレムが最接近した時、更に濃密な魔力を掌に込めて掌底を放つ。
……だが、一手目は空を切るだけに終わった。
「ちっ!!あの至近距離から回避するのか?!異常だぞあいつ!!!……だったらこれでどうだ!!!」
今度は掌を上空に翳し魔力を放出する。
「くらえっ、土偶飛行戦士め!!!」
空が一瞬光に包まれると雷が落ち、雷鳴が遅れて轟く。
しかし、ゴーレムが通過した後に地面へと穴を空けていくだけでゴーレムはそのままの速度で飛び回る。
そして、それが二十発程度繰り返されて雷は魔力を失い止んでしまった。
「あいつ落雷より早いってのかよ!!」
俺がマジック・クリエイトで様々な策を練る僅かな逡巡を見逃すこと無く、ゴーレムはこっちのターンだと言わんばかりに不規則な動きで俺に向かってくる。
「ストーンバレ…ちっ、シールド!!!」
俺は慌てると、その時たまたま頭に浮かんだだけの明らかに無駄な魔法を使う悪い癖がある。
それを無理矢理抑え込み一時的に凌ぐためのシールドを使った。
ゴーレムはそれを物ともせずに頭から突っ込んできた。
「ぐっ…!」
シールドはひび割れるだけで辛うじて砕けなかったが、衝撃は凄まじくシールドごと弾き飛ばされた。勿論無傷だが。
「ハルト様!!」
「大丈夫だ!!」
小さいだけではなく、パワーも中々のようだ。
こいつは厄介だな。
本気で戦おうにも、ヘタな手段では掠りもしない。広範囲魔法を使うにしては近すぎる。
クズ勇者の高速転移も厄介だったが、こいつも中々戦い難いかもしれない。
とりあえずはルカの傍を離れすぎないように戦うか。
『ルカ、ゴーレムとやらに効く魔法や戦い方とか知ってたら教えてくれ。』
『すみません、聞いたことがありません。』
流石のルカ姉さんでも知らないか。
だとするとマジック・クリエイトで何か秘策を生み出すしか無いな。
むむっ!!「作者馬鹿か?即死魔法使えばいいんじゃね?」とか考えているそこの君!!
マジック・クリエイトは万能だが、俺の魔力には限りがあるんだ!!
以前ゴキブリっぽい魔物に即死魔法のザギを放ったらグングン魔力を持ってかれて、魔法発動する前に死ぬところだったんだ。ギリギリで発動解除したがね。
そこの君!ゴキブリの話は本当だが、むむっ!!から先は俺の悪い妄想だから気にしないでくれ!!!
『ハルト様、広範囲の状態異常魔法はどうでしょうか?』
俺が妄想モードを爆進しているとルカが呼び戻してくれた。
なるほどね、スピードを落とすとか重力を増やす的な魔法か。
『だけど、それだとルカが巻き込まれる可能性がある。その結界もどれだけ防げるか把握できてない。』
『私のことは気にしないで下さい。』
『それは出来ないな。』
出来るわけがない。だって好きなんだもの。
どうしよう。ルカとシロを転移させるか。
次の手が浮かばず脳みそがショートしそうになっていると、頭をペチペチと何かが叩く。
勿論シロだ。
「シロ、どうした?」
シロは俺に任せろと言ってるような仕草で、俺の肩から飛び出していってしまった。
「お、おい!!」
すると、凄まじい速度で飛び出したシロはすぐに完全に気配を絶った。そういえばあのクズ勇者のネックレスを破壊出来る程の能力を持ってたんだった。
シロは忍者だな。うずまきシロだ。
俺に渾身の体当たりをかましたゴーレムはそのまま距離をとり、また離れた所でUターンし再度突進すべく加速してきた。
「まだ魔法決まってねぇし、シロが離れたから迂闊に魔法使えない。どうしたもんかな。」
全力が出し切れずにモヤモヤした気分でいるだけで、戦局は不利のまま続いていった。




