4-16 断罪のキエサーレへの断罪
「……やってくれたなピクルースめ。」
「そうですね。ハルト様に虚言を吐くとは……自殺願望があるとしか思えません。私が介錯してあげましょう。」
「いや、切腹じゃ気が収まらないから俺が首チョンパするわー。」
「え?!ちょっ!悪気は無かったんだ!寧ろ良かれと思って!!えっ、冗談だよな?!やめてくれ、そんな蔑むような眼差しで俺を見ないでくれ!!」
今ビクサールは土下座をしている。というかルカの圧力に負けてさせられていると言った方が正しい。
しかし、俺はルカを擁護するために言わせて貰う。あくまでも自発的に土下座しているのだ。
☆
俺はガンマダとの戦いの後、幸せな気持ちでルカと手を繋いでゆっくりと街へと向かっていた。時間も惜しいがルカとのこの時間も大事にしたかったからだ。
それにビクサールも色々とやってくれるそうなので、早く街に着いて焦らせても悪いというのもあった。
しかし、街が見えてくると何やら様子がおかしかった。街の住民が大量に門前に集まり騒いでいたのだ。
またもや事件か!!と思い、俺とルカが走って門前へと辿りつくとすぐ真相は明らかになった。
ビクサールが俺とルカの二人が命懸けで街を救ったと触れて回ったのだった。
その為、街の住民達だけでなく街の長、ギルドマスター等のお偉いさんまで門前まで出迎えに来てくれていた。
そしてその中央には両手を腰に当てて二カッと笑う……ビクサールの姿もあった。
俺達は揉みくちゃにされながら、ギルドマスターと街の長が詳しい話を聞かせてくれと言ってきたので、ギルドの二階にあるギルドマスター室へと案内された。
逃げ出そうと試みたビクサールを引きずりながら。
そして冒頭に至る。
「まぁまぁお二方。ビクサールも本当に悪気があってやった訳では無いと思うのだ。どうにか許してやって欲しい。それに私としても街を救ってくれた恩人に礼も言えずに出て行かれたのでは顔が立たないのだよ。」
街の長はパーセンさんという名で元冒険者だったらしい。だが、渋い中年の顔立ちとムキムキな体からは想像もつかない程の腰の低さだ。
「今更騒いだところで後の祭りですしね。どうこう言ってもしょうが無いです。ステサールのことも今では何とも思ってませんよ。何ともね。」
「おい。ピクルースはどうした?それじゃ捨て去るみてぇじゃねぇか!!!」
「ピクルース?はて、誰のことですか?貴方はシニサーレでは?」
「だから悪かったって言ってんだろ!なぁラナンもなんか言ってやってくれよ!!」
タチサーレが美人エルフのラナンさんに救援を求めている。美女と野獣だな。
「うーん。そもそもキエサールが約束破るからイケないのよ?ちゃんと謝ったら?ね?じゃないと立ち去れって言われるわよ?」
おぉ、ラナンさんは美人エルフなだけでなく、美人サディストエルフでありノリの良さも持っているようだ。
「ちっ。裏切り者め。」
「くっ……アハハハ!あの断罪のビクサールがまるで子供扱いね!!!シニサーレとかステサールとか…ぶふっ…ハルト君は間違いなく大物だわ!ぶふっ。」
俺達の遣り取りを見ていたギルドマスターが腹を抱えて爆笑しだした。
ムーバルの冒険者ギルドマスターはヤヤユという女性だ。
現役の頃は街の長パーセンさんと同じチームで冒険者をやっていたらしい。
ヤヤユさんはこれまた美人エルフでパーセンさんと歳はそう変わらないはずだが、ラナンさんと姉妹だと言われても間違いなく信じてしまう若さと美貌を持っていた。
やはり地球での伝承通りエルフは人族より年を取るのが遅いのだろうか。ちなみにヤヤユさんもちっぱいだ。
「あー、久々にこんなに笑ったわ。ぶふっ…はぁ。ラナンもビクサールをぶふっ…あまりいぢめちゃだめよ。くふっ。」
「母さんだって誤魔化す…気が無いん…ぷっ…じゃないかって位に笑ってるわよ!ぷっ。」
「ちくしょー!!!味方はいねぇのかよ!!!」
なんということでしょう。
美人サディストエルフの二人は姉妹ではなく、なんと親子だったのです。
「シンジマーエ……俺はお前の味方だが?」
「お前が一番の敵じゃねぇか!!!!!」
「ハルト様?先程から独り言をおっしゃって…どうしたのですか?」
「見えてねぇ?!ってか嬢ちゃんは乗っかるなよ!!!」
そんなこんなで断罪のビクサールへの断罪は終了した。
☆
消し炭となったビクサールをよそに今回の魔物の襲来について、答えられる範囲で答えていく。
しかし怪しむ事無く皆は接してくれた。
「ところでハルト殿、貴方はどうしてこの街へ?」
街の長であるパーセンさんが問う。
「旅の途中で寄っただけです。」
するとヤヤユさんが身を乗り出してきた。
「ハルト君!!貴方冒険者になるつもりはないの?なろっ?なるわよね?!」
おっと、ヤヤユさんは思ったより積極的な人らしい。ラナンさんはお淑やかなイメージなんだが。
「すみません。今は目的があるので。」
「残念ねぇ。ハルト君なら間違いなくすぐにAランク……いや、Sランクになれるわ!!この街からSランク冒険者が現れるのが私の夢なのよ!!」
「母さん、ハルトさんを困らせないでよ。ハルトさん達は街の英雄でもあるけど、私達の命の恩人でもあるんだから。ね?」
ね?のタイミングでラナンさんは殺人ウインクを発動した。馬鹿な…魔力感知は働かなかった筈なのにダメージが。
すると何故か隣のルカがそっと手を繋いできた。大丈夫だよルカ。そのつぶらな瞳の方が破壊力抜群だから。
俺がルカの手をキュッと握りしめるとヤヤユさんが笑う。
「アハハハ!ラナン無理があるわよー。ハルト君にはルカシリアちゃんがいるのよ?まぁハルト君がルカシリアちゃんに捨てられでもしない限り勝ち目はないから諦めなさい。あー、こいつらおもろ。」
え?まぁヤヤユさんの最後の一言は聞かなかったとしてラナンさんが俺のことを?
と思いたかったが、そんなわけないので笑って誤魔化す。ラナンさんが何故か悲しそうな顔をしていたのは気のせいだろう。
俺がドギマギしていると、突然街の長であるパーセンさんが真面目な顔をして立ち上がり、こちらに向かって頭を下げた。
「ハルト殿。今回の事を我々は忘れはしない。この場にはいないが街の皆も心からお二方に感謝している。それとシロにも。」
「案外悪者かもしれませんよ?」
「ハハハハッ、本当の悪者は影でヤナタの父親の怪我を治したりはしないよ。…君は我々の勇者だ。いつでも君達の事をムーバルは歓迎しよう。そして、困ったら遠慮しないで言ってくれ。我々に出来ることなら何だって手を貸すつもりだ。」
ヤナタめ。あとで誉めてやろう。
「ありがとうございます。もう既にビクサールから充分な対価を頂きました。それと先程も言いましたが、俺達は目的のある旅をしております。それが済むまでは中々ムーバルへ訪れる事が出来ない可能性もあります。しかし必ずまたこの街を訪れますので、その時は酒の一杯でもご馳走して下さい。」
「ハハハハッ、ハルト殿は謙虚が過ぎますな。君のような堅物相手では要求に沿うしか話はまとまらないだろうな。是非とも酒を交わそう。急ぐ旅にも関わらず余計な時間を取らせて済まなかった。本当にありがとう。」
パーセンさんが再度頭を下げると、ヤヤユさんやレーヴの皆までもが頭を下げる。
「こちらこそ皆さんと出会えて幸せです。ビクサールもな。」
「ハ、ハルトォー!!!!」
ビクサールは俺に抱き付いてきて喜んでいたが、何故だか今は悪い気はしなかった。あっ、ゲイとかの意味ではないよ?
その後ギルドマスター室を出て、集められていた大事な食料をインベントリへとどんどん押し込み、それを見ていたギルドマスターのヤヤユさんとレーヴのモナさんがよだれを垂らしそうな程に見ていたのは言うまでも無いか。
俺達は準備が整い門前に辿り着いた。
すると街の皆が俺達を送り出す為に集まってくれていた。
その中になんとかヤナタを見付けることが出来たので近寄っていく。
「兄ちゃん!!兄ちゃんはやっぱり凄い奴だったんだな!!俺も兄ちゃんみたいな冒険者なるからな!!」
ヤナタめ。最後まで可愛い奴だな。
「マジック・クリエイト。」
俺はヤナタにお礼のネックレスを差し出す。ビクサールに頼んでおいたネックレスだ。
それに身体能力向上をマジック・クリエイトで付加する。更に拾っておいた魔石の幾つかに広範囲の結界を入れる。
「ヤナタ、このネックレスは俺からのプレゼントだ。常に付けているように。そして……。」
俺は魔石の説明をヤナタと父親に伝える。
「兄ちゃん!!本当にありがとう!!!また来てくれるんだよな?」
「あぁ、もちろんだ。」
ヤナタの頭をグリグリと撫で回した後、街の皆に頭を下げる。レーヴの皆にお礼を伝え、大分遅くなったが俺達は氷の極地へと旅立つ時が来た。
「じゃあ、行こうか。」
「はい、ハルト様。」
そうして俺達は門をくぐり抜け、ムーバルを後にした。