1-5 初めての戦い
この世界に来てから、五日が経過した。フォル爺に、そろそろ魔物と闘ってみてはどうかと言われた。大分、剣の使い方には慣れたし、魔法も素早く発動させることが出来るようになった。
フォル爺を疑うわけではないが、正直あのゴブリンみたいな奴に勝てるのかと不安で仕方が無い。しかし、いつまでもここに居たら冒険者になれない。
「よし……じゃあ行ってきます。晩御飯の獲物楽しみにしてて下さい。」
フォル爺に再度もらった剣(六本目)を手にして単身森へと向かう。
とりあえずサーチを使ってみる。すると近場だと一キロほど進んだところに、魔物がいるようだ。気配を隠蔽で消しながら近付いていくと、川で水を飲んでいる魔物を見つけた。
そこには、1メートル程の大きさの茶色いネズミが3匹いた。鑑定を使ったところ、ラットコベットというDランクの魔物のようだ。
「でかいけど所詮はネズミだ。俺でも倒せるはずだ!」
隠蔽のおかげかすぐ近くまで来てもラットコベットはこちらに気付かずに水を飲んでいる。
しかし、あと10メートル程のところで、顔を上げ耳をぴくつかせ、突然走り去ってしまった。あの走りは、カピバラだと思って戦える動きではなかったが、逃げてしまったものはしょうがない。逃げていった反対側から気配を感じるので、その魔物を狩ろう。
サーチで魔物を確認し、気配を隠蔽して木の陰から見てみると、デカい鳥が姿を現した。
黒石鳥 Bランク
スキル:俊足、硬化、貫通前蹴
黒石鳥は辺りをキョロキョロとうかがって獲物を探している。全身に黒い羽を纏うダチョウのような見た目なので、おそらく空は飛べないだろう。ここで勝負だ!
俺は不意打ちで魔法を放つ。
「ロックハンド!」
魔法を発動させると黒石鳥の足元から石の手が生えて、黒石鳥の両足を掴む。
摑まれる瞬間に気付いて動きだそうとしたが、ロックハンドの方が一瞬早かったようだ。しかも、逃げようとした為に、黒石鳥はそのまま前に倒れてしまった。
これは好機と駆け出し、倒れている黒石鳥の首に剣を叩き付ける。が、石を切ったような手応えで、首を切り離す事はなかった。むしろ鉄の剣の方が潰れてしまった。おそらく、硬化のスキルを使ったのだろう。足を掴まえてるから、前蹴と俊足のスキルは気にしないで大丈夫だろう。
「この剣じゃ刃が通らないか。魔法でいこう。おっ?」
魔法を放とうとすると、足元から魔力を感じ後退すると、先程までいたところに、1本の太さが10センチはありそうな剣山が地面から生えた。
「あぶな!こんにゃろうめ。」
未だに足を止めてるとはいえ、魔法を使えるということはまだ油断出来ないな。俺は雷の魔力を作り、掌を頭上に向け、魔力を放った。
俺の魔力は勢いよく天に昇り、魔法へと変換される。すると、1本の槍を模った雷が生まれ、黒石鳥の脳天へ突き刺さった。
少しの間白目を剥き痙攣してたが、すぐに黒石鳥は動かなくなった。俺の勝ちだ。
「Bランクだから、もっと強いかと思ったけど、案外弱いんだな。」
俺は初めての勝利の余韻に浸りながら、黒石鳥をインベントリに収納した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
小屋に戻るとフォル爺が出迎えてくれた。
「ご苦労さんじゃったな。どうじゃった?初めての魔物との戦いは。」
「緊張しましたけど、上手く立ち回れたと思います!」
笑顔で答えてみたものの、魔物はまだ3種類しか見たこと無いので、黒石鳥はどうなんだろう。
こんな魔物倒して当たり前じゃ!とか言われたらちょっとヘコみそう。無傷とはいえ、中々手ごたえのある魔物だったからな。
そんな取り留めも無いことを考えつつ、インベントリに入っている黒石鳥を取り出す。
「やはりか…。おぬしなら一人である程度強い魔物も狩ってしまうとは思っとったわい。しかし、黒石鳥ときたか。本来Bランクの熟練冒険者でも一つのパーティーだと、中々苦戦する魔物じゃ。油断すれば一撃で即死する事もあるじゃろうし。毎日毎日驚かされて、おぬしといると感覚が狂っていきそうじゃ。とりあえずよくやったの。」
予想していたようで、驚いたと言う割に淡々としていた。まぁ、褒めてくれてるんだろうから、良しとしよう。
「戦闘中のこいつの羽は、スキルで鎧のように固くなってるが、倒してしまえば普通の鳥と変わらん物になる。質感が良いから、人族は高く買うじゃろうな。肉は料理に使うが、羽はおぬしが持って人里に着いたときに金にするといい。魔石が出ればそれも売れるぞい。」
……人里か。そうなるとフォル爺とはお別れだな。そう思うと少し寂しい気持ちになってしまった。こんなに良くして貰って、何も恩返しもしないで出てく訳にはいかない。何か考えておこう。
とりあえず今できることからやろうと思い、料理を振る舞おうと決めた。
「フォル爺さん。今日は俺が飯を作るよ。あんまり得意じゃないから、上手く作れるかわからないけど。」
「しかしのぅ、ついさっきまで狩りにいっとったんじゃ。疲れておるじゃろ。」
「大丈夫ですよ。任せてください!」
フォル爺の背中を押して椅子まで連れていき、俺は材料を取りにもう一度森へ行く。
食べた事のあるものでも、殆ど作り方も知らないので、まともに作れるか心配だ。サーチがあるから材料はすぐに集まったので、小屋に戻り料理を始める。
俺が作ったのは、唐揚げもどきと焼き鳥と有り合わせの材料で作った親子丼っぽい料理だ。米がないので森に行き、茹でると餅っぽくなる木の実にした。
日本食をプレゼントしたかったが、異世界の材料のせいで、オリジナル料理になってしまった。まあ、料理のスキルもあるから味は大丈夫だと思う。
「黒石鳥の肉など中々食えるもんじゃ無いし、ましてやおぬしの初めての獲物じゃから、特別美味しく感じるぞい。」
フォル爺は美味しそうにすべて食べ、最後にありがとうと言ってくれた。少しは恩返しになっただろうか。
昼休憩が終わるとフォル爺は出かけていった。俺はしめしめと思いながら俺は小屋の横で作業を開始する。
フォル爺はいつも風呂の代わりに水魔法で水浴びをしているようだ。今は暖かいからいいが冬はどうしてるのだろうかと考えていたので、家の横に風呂を作ろうと考えたのだ。
フォル爺は水魔法は得意なので、水を張るのは問題ない。水を温めるのは魔石が解決してくれた。
黒石鳥の魔石は土の属性かと思ったが、鑑定すると無属性だった。これにマジッククリエイトで属性付与の魔法を作り、魔石に火の属性を持たせ、魔力を送ると火が出る魔石を作った。
鑑定で見てみたところ、火が出る魔石ではなく魔道具となっていた。
これなら火魔法が苦手なフォル爺でも簡単に風呂を沸かせるだろう。ついでにキッチンにも小さい物を設置したいので、魔石
を手に入れ次第取りかかることにしよう。まずは風呂だ。
まず土の魔法で土台を作り、そこに魔石を置くスペースを作る。その上に土魔法で風呂釜を作った。
しかし、実際にやってみたところ、土の風呂釜だと全然水が温まらなかった。
そこで今度は水の中に直接魔石を投入してみたが、水の中ではずっと魔石に魔力を注いでないと駄目なようで、燃費が悪いのでボツとなった。
やはりここは鉄の風呂釜を作るしか無いが、フォル爺の小屋にある鉄製品を勝手に使うわけにはいかないので、自分で鉄を探すことにした。
森に入り鉄をサーチで探してみたが、近場にはヒットしなかった。鉄を精製できるか分からないが、鉄鉱石がないかサーチしてみると、数キロ先になるが見つかった。
魔物の位置もサーチで確認しながら、鉄鉱石の鉱脈へと向かう。隠蔽で魔物にも近づいてみると、ラットコベットを見つけたので、雷魔法でサクッと倒した。
どうやら一度使った魔法は簡単に使えるみたいだ。
Dランク程度の魔物なら特に何も気にせずに簡単に倒せたので、少し自信が付いた。
その後も2匹のラットコベットを倒して、鉱脈のある場所に辿り着いた。
「この洞窟の中か。」
ちょっと洞窟は魔物が沢山出そうで嫌だったが、サーチで調べると、浅いからか、たまたまか魔物はいなかった。
「暗いな、光球。」
光球は自分の頭上に光の球が現れ、周囲を照らしてくれる便利な魔法だ。簡単な生活魔法なので、フォル爺に教えてもらった。
一度見た簡単な魔法なら、魔道の極みスキルですぐに覚えられる。わざわざ燃費がかかるマジッククリエイトで怠くなる必要もないので、積極的に魔法の勉強はしていこう。
明るくなった周囲を見渡すが特に何も無かった。そこから、50メートル程進んだところで、サーチの示す場所まで来た。
あとは、土魔法で鉄鉱脈のあるところまで掘り進めるだけだ。
30分程ひたすら地面を掘ってはインベントリに放り込んでいく作業を行うと、赤茶色い固い層が出て来たので鑑定すると、鉄鉱石だった。
このままインベントリにしまっても良いが、鉄を少し欲しいだけなので、このままここでマジッククリエイトを使って鉄鉱石を精錬した。魔法はほんと便利だ。
掘った穴へインベントリに収納しておいた土を戻し、洞窟をあとにしようと歩き出した。すると突然、気配察知のスキルが働いた。
どうやら、入口付近に魔物がいるようだ。