4-15 後始末
『リスキア、聞こえるか?』
『はい、聞こえています。』
俺はガンマダを倒し、リスキアへと信託の念話を飛ばす。
『今、氷の極地へと向かうための準備をしようと街に寄ったところを魔物の大軍が攻めてきた。そこで火の精霊のガンマダって奴と遭遇して倒したんだが。』
『火の精霊ガンマダ…聞いたことがある名ですね。』
『そいつがあの方とか口にしていた。そして倒した後にこれが残った。』
俺はガンマダの核のようになっていた割れた黒い石を天に向かい掲げる。
『邪神の…欠片ですね。』
『やはりそうか。』
確か邪神を封印した封魔石は八つに割られたって話だから、クズ勇者とガンマダの持っていた二つが消えたから残り六つ……。
今回の戦いは案外簡単だったが、クズ勇者やクロトワを思うとどんなレベルの奴が来るか分かったもんじゃない。
クズ勇者と戦って成長したとはいえ、やはり精進は必要だな。
『しかし魔物の大軍ですか。聞いた限りだと自然現象では有り得ません。それだけの魔物を集めて動かす、ましてやSランクの魔物を使役するなど火の精霊には不可能でしょう。』
『となると、他の奴の協力があった可能性があるか。』
『その可能性が高いです。』
なるほどな。確かにあいつが全てやったとは思えない。ストローガが街に向かっていたのも怪しいもんだな。
『分かった。じゃあ俺達は変わらず氷の極地へと向かう感じでいいな?』
『ええ、それで構いません。ハルト、充分に気を付けて下さい。』
俺はリスキアとの念話を切り、邪神の欠片をインベントリに収納する。
そして、今度はルカに連絡を取る。
『ルカ、聞こえる?』
『はい、ハルト様。』
『お待たせ、じゃあ一旦街に戻ろうか。』
『はい。』
転移だと騒ぎになりそうなので、途中まで飛んで戻ろうとすると、前方に人影が見えてきた。
どうやらレーヴや冒険者達のようだ。レーヴ以外の冒険者達は俺達が近付くとざわめき立つ。
「お前らうるせーぞ!!こいつは敵どころか救世主様だぞ!!!下手なこと言う奴は俺が叩っ切るからな!!!」
ビクサールは俺達を庇うように前に出た。やはりこいつは良い奴だな。
「ピクルースお疲れ。」
「だからわざと間違えるんじゃねぇ!つーかよ、やっぱりスゲぇな。あれだけの魔物を二人で片付けちまうなんて。」
「全てでは有りません。引き上げていった魔物もいます。」
ルカは即座に否定する。
「なるほどな。だが、かなりの魔物が倒れてるぞ。一体どんな魔法使ったんだよ。」
「私も魔法使いとして聞きたいところではあります!!!」
ビクサールだけでなく魔法職のモナさんまで目を輝かせながら詰め寄ってきた。
うーん。めんどくせぇ。
「ドドドーンッ……だな。以上。それ以上詳しく知りたければ今この場で使うが?」
「ぜ、ぜひ!「いやっ、やめとく。」モゴゴ…。」
モナさんは魔法馬鹿なようで命懸けで魔法を見たかったようだが、ビクサールに取り押さえられラナンさんに攫われていった。
「ビクサール、足止めしてくれて助かったよ。ありがとう。」
「え?」
「え?」
普通にお礼を言ったらビクサールは唖然としていた。俺だって礼儀くらい弁えているつもりだぞ。
「ま、まぁな。だが今回はハルトがいなかったら街諸共消えていただろうからな。寧ろお礼を言いたいのこっちだぞ。救世主様。」
ビクサールは照れ隠しなのか肩に手を置いて小馬鹿にしてきた。しかしルカが視界に入るとすぐに手を離した。
こいつどれだけルカを恐れてやがんだ。
「とりあえず街に戻ろうぜ。街全体で盛大に祝わなきゃならねぇ。主役は勿論お前らだ!!!」
「あっ、大丈夫です。」
「なんでだよ!!!」
「ピクルースさんと違って目立つのは好きじゃ無いんですよー。」
「……俺はいつかお前に戦いを挑まなければいけない気がしてきたぞ。」
「あっ、それも面倒なんで大丈夫です。」
「…。」
ビクサールは震えている。今にも爆発しそうだ。メガ○テなのか?メ○ンテ使うのかビクサールよ。
「まぁ真面目な話すると、俺達は時間が惜しいんだ。ゆっくりしていきたいのも山々だが準備が整い次第ここを出立しなくてはならない。」
「氷の極地へか。……仕方ねーなぁ。主役はいねーが勝手に騒いでやるから気にすんな。せめてものお礼がしてぇんだが、何かあるか?」
「じゃあ大分ここを荒れ地にしたからその後片付けを。代わりに倒した魔物は好きにしてくれて構わない。それと少しの金と出来る限り多く料理をお願いしたいんだが。」
「なるほどねぇ。インベントリは便利だな。どれだけ料理を作ったって返せねぇ借りが出来ちまったが、返せるだけは返しとくから任せとけ!!ついでにお偉いさん達も丸め込んで口封じもしとくからよ。」
そう言って親指を立てたビクサールは冒険者達に魔物を集めて運ぶように指示を出し、慌ただしく街へと走り去っていった。
これだけ魔物の素材がタダで手に入れば、街も潤うだろう。
その時、僅かな殺気を感じ振り返る。
「…。」
「どうかしましたか?」
しかし、視線の先には魔物達の死骸が転がっているだけの丘があるだけだった。
「いや、何でも無いよ。」
しかし本当に僅かだが確かに殺気感じたのだ。今回のこともあるし、当分油断は出来ないな。
俺がしっかりしないと皆を守れない。
気を引き締め直そうと考えていると、ルカが俺の手を取る。慌ててルカを見ると普段は凛々しいルカが優しく微笑んでいた。
ルカの思いやりに包まれて俺は肩の力が抜けていくのが分かる。
そうだ、もう一人じゃ無いんだ。
「ルカ、歩いて行こうか。」
「はい、ハルト様。」
俺達は街の発展を望み、ビクサールに感謝しながら歩き出した。
急ぎの道中だが、今はルカと手を繋いでゆっくり歩いていたい。




