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4-13 四番サード 桐生悠斗




 ヒュードラの片方の頭が凍り付き動きが止まると、また他の魔物達が迫ってくる。


 このままの戦い方では消耗も激しく、そして時間がかかりすぎる。

 それでも今の自分がどこまでやれるのかを知りたかった。だから私は挑んできた魔物を時間切れまで真っ向から戦い続けることにした。


 すると今度は15…20体以上の魔物が私の元へと迫っていた。


 私は魔力を集め集中力を高めていく。だが、突如騒いでいた魔物達が一つの咆哮により動きを止めた。


「あなたは……あの時の子ですね?」


 咆哮を上げた主は、以前草原地帯で出会いハルト様によって逃がされたグリーンポセだった。


 グリーンポセは私と魔物の間に入ると私の方へと歩み寄る。


「ぱふぉー。」


「ふふっ、ハルト様の言っていた通り可愛らしいですね。」


 長い鼻で私の頬をスリスリと撫でる。目を見れば敵意が無いのはすぐに分かった。


「あなたが止めてくれたのですか?」


「ぱふぅ。」


「ありがとう。」


 私は長い鼻に寄り添い、お礼を口にする。するとグリーンポセは少し嬉しそうに尻尾を振った。


「パァーフォーーーン!!!!!」


 グリーンポセは一際大きく咆哮を上げると、私から離れ魔物達の方へと歩みを進める。


「気を付けて帰って下さいね。」


 魔物達もグリーンポセの咆哮に反応し、まるで目が覚めた(・・・・・)かのように来た道をゆっくりと帰っていく。


 グリーンポセはその後も見えなくなるまで咆哮を上げ続けていた。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「フォッ…儂をただの精霊だと思わん事じゃな。」


「フォッ…俺をただの人族だと思わん事じゃな。」


 安い挑発だが、やらずにはいられなかったぜ。


 ルカは大丈夫かな。おっ、またかっこいい魔法使ってる。後でどんな魔法か教えてもらおう。

 

「そんな態度は千年は生きてからにして欲しいもんじゃ。お主といいクロトワといい、最近の若いもんは口の利き方すら知らんのじゃからな。嘆かわしいわい。」


 やはりこの挑発は御老体には安すぎたようだ。


「その長い髭引っこ抜いてツルツルにしてやるから、とっとと始めるぞ。はい、ストーンランス。」


「挑発もまともに出来んから、その程度の魔法も無駄な魔力を使うんじゃな。青い青い。青臭くて鼻がもげそうじゃ。」


 ぬっ、挑発で返してくるとはガンマダ…やるな。


 とりあえず再度挑発のつもりで放ったストーンランスは、ガンマダの手前で燃えて塵になってしまった。


「もっと青くなるぞ。お前の顔がな。」


「フォッ…儂は火の精霊じゃぞ?青くは出来んと思うがの。」


 端から見れば、先程から軽い巫山戯たやり取りをしていると思うのだろうが、お互いに牽制しまくっていて実際は慌ただしい。


 俺が魔力を練れば同程度の魔力を練り、俺が読まれたと魔力を消し去ればガンマダも消す。

 これを互いに細かく、瞬時にやり取りをしている。ガンマダの魔力の操作は本物だ。


 口だけの老人…老精霊ではないようだ。得意な雷魔法で圧倒してやりたい気持ちを抑え、俺は頭をフル回転させて魔法を考える。


 まぁとりあえず良いのが思い付くまで、適当にやるか。


 俺が魔力を練ると同じようにガンマダも炎の魔力を練る。


「ストーンバレット。」


「やはり気のせいでは無いか。フォッ…詠唱短縮とはやるの。」


 実際は無詠唱だけどね。

 ガンマダは誉めてくるが、その割に避けることもせずに全ての石の弾丸を焼き落とす。


「だったら、一発くらい食らっとけ。」


「手は抜かん主義での。ほれ、今度はこっちの番じゃ。」


 ガンマダが人差し指を立てて手を頭上に上げると、小さな炎の玉が指先に浮かぶ。


 魔力を練ってから発動までが早過ぎる。異常な早さだな。


「名前なんぞ無いから詠唱が出来んのじゃよ。フォッフォッフォッ。」


 笑いながら人差し指を倒す。すると炎の玉はゆっくりと進みだす。


「ストーンウォール。」


 魔力感知が知らせる魔力からいって防げる訳がないが、とりあえず防ごうと努力(・・)する。


「無駄じゃ。」


 少年野球のピッチャーの平均球速よりも遅いであろう炎の玉は、ストーンウォールにぶつかると何事も無いかのように穴を開けて突き進んできた。

 破壊力は石壁より少年野球(ガンマダ)に軍配が上がった。


木製バット(シュガーメイプル)。」


 俺はガンマダの球速から思い付いた渾身の魔法を作り上げ、俺は右打ちだが左打ちで構える。

 イメージは地球に居た頃に大人気だったシャイデヤンスの四番、モスラ増井だ。

 あくまでもフォームのイメージだ。マジック・クリエイトはバット作成までなのでモスラ増井は関係ない。モスラ増井モデルのバットは分からないしな。

 

 俺は作り立てホヤホヤのオリジナル木製バットを全力で振り抜く。


「…てーいっ!!!!」


 よし!!真芯で捉えた!!!…と思ったがバットは焼けて二つに割れてしまい、炎の玉は突き抜けた後にガンマダの指先へと戻っていく。


「くっ!!馬鹿な……軽さと頑丈さで有名なシュガーメイプルが折られるなんて……。だがまだワンストライクだ。」


「お主ふざけておるじゃろ。」


 失敬な。こっちは本気の試合やってんだ。見てろよ。狙いはホームランじゃない。ピッチャー強襲で顔面骨折だ。


 シュガーメイプルでは折れてしまう為、新たな武器(バット)を用意する。


「超シュガーメイプル合金だ。今度は折れないだろ!!!」


 赤いバットは芯の部分が金髪……金色に塗られ、グリップの部分は紫という仕様になった。


 合金とついているが、あくまでも木製である。超合金という謎物質のように硬い木をイメージしたので、今度こそ打ち返せる筈だ。


 俺が構えるとガンマダが指先を倒す。


「…せぇーーいっ!!!!」


 風を切る音の直後メイプル合金と炎の玉は衝突した。

 爆発音が響きバットとボールは一瞬だけせめぎ合う。


 ……。


 結果は…。


 …。


 バットが折れました。


「ぐぬぬぬぬっ!!まだ試合は終わっていない!ツーストライクだ!!」


「フォッ、死合いとな。どちらかが死ぬまでを望むか。その態度は嫌いじゃないぞ。しかしその割にはふざけすぎじゃの。」


 そっちのしあいじゃねーよ!!


「つーか、お前だってバットが振れる位置に火の玉放ってんじゃねーか!ふざけてるのはお互い様だ!」


 チクショウ。ツーストライクか。追い込まれたな。


「フォッ。何やらよく分からんが、やたらとムキになっとるから付き合ってやっとるだけじゃ。まだ諦めてないようじゃが、次で最後じゃからの。」


 こ、こうなったら、最強の野球漫画を思い浮かべるしかないか。

 しかし、シャイデヤンスの星はピッチャーが主人公だし、ドカッと弁当を食べるドカッベンはあまり読んだことが無い。


「……くっ。」


「フォッフォッフォッ。切羽詰まっておるようじゃが、手は抜かない主義じゃ。……いくぞい。」


 ガンマダはこちらの準備を待つこと無く指先を倒す。このままでは超シュガーメイプル合金でいくことになる。


 その時、一つの漫画が脳裏によぎった。


 体は大人、頭脳は子供。迷探偵はいつも困難!!で有名な作者が書いた野球漫画があったな!!!


 確かシャイデヤンスの黄金時代を支えた四番サード長鳩(ながはと)茂雄と同姓同名の下手くそ野球少年が主人公の漫画だ!

 

 主人公は現金をポケットに入れると金額に見合った結果を残せる不思議なバットを手に入れ、どんどん試合に勝っていくが、最後の最後でバットが折れてしまい大ピンチに陥る。


 しかし、ヒロインにバットをプレゼントしてもらい、その普通のバットでホームランを打つのだ。

 要するに現金の力を使っていたのは最初の方だけで、本来持っていた力を引き出せた後は講習料として現金が消えていっていただけで、実は(ほとん)ど自分の力でホームランを打っていたのだ。


 俺がイメージしたのは現金を入れると打てるバットではない。その漫画のおかげで原点に帰ることを思い出したのだ。


 マジック・クリエイトの強みを思い出せ。


 俺は妄想チートなのだ。


「マジック・クリエイト!!」


 俺は絶対折れないバットをイメージしたかったが、あまり凄い力を創造すると魔力をかなり必要とする為、この戯れが終わった後困ってしまっては嫌なので少しランクを下げる。


 イメージは今見てるガンマダの炎を打ち返す木製(・・)バットだ。


 なんとか間に合ったが、もう炎の玉はすぐ手前まで来ている。


「……どっせぇーーーい!!!!」


 バッコーン!!という現実の野球では有り得ない音を響かせ、バットと炎の玉は激突した。


「なぬ!!なんじゃと?!」


 すると見事に炎の玉は猛スピードでガンマダの頭上を飛び越えて遥か彼方へと消えていった。


「ぐはっ。……忘れてた。」


 熱くなり過ぎて、ピッチャー強襲の筈がホームランを打っちまった。

 これじゃ熱男じゃねぇか。全てはラドゥカのせいだな。

 

 

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