4-11 第二の刺客
遥か昔、人々は自然界の精霊の力を借りて生活をしていた。
火起こしや生活用水、農作物を元気よく育てる事など様々な所で精霊の力を借り共に生きていた。
そして、自然に生きる微精霊の力を借りて起こす様々な現象を人々は魔法と呼んだ。
現在でいうところの精霊魔法が、魔法の原初であった。
しかし、精霊達はとても気分屋であり、時として魔法を使わせてくれない事もあった。
精霊の力を借り生活していた者達はだんだんと自分勝手な精霊達を疎ましく思い始めていた。
そんな中、自然界に生きる微精霊の中に具現化出来るほどの力を持った精霊が生まれた。
微精霊だったそれは樹の精霊となり、やがて人型となり妖精のように目に見えるものとなった。
まだ魔法が確立されていない時代に、その者が精霊だと見破れる者は居なかった。
そして、その者は自分の事を樹人族だと名乗り、人の世界に興味を持ち溶け込んでいく。
樹の精霊は世界を見て歩き、精霊魔法を使いこなせない者で溢れている事を知り、飢饉を防ぐ為に精霊の力を借りる事無く魔法を発動させる技術を確立し、それを広めていった。
やがて彼を人々は賢者と呼んだ。
賢者と呼ばれる様になった精霊は更に人々と一体となり、平和の為に尽力した。
ある時、賢者と呼ばれたその者と同じように、もう一つ微精霊が精霊となった。
その精霊は火の精霊であり、同じように人型となれる程の力を持っていた。
だが本来なら人の心までも温めることの出来る火の精霊の筈が、その精霊は有り余る強い力を制御出来ずにそして己を過信する余り、人々の社会に上手く溶け込むことができなかった。
寧ろ並外れた強き力があるせいで、溶け込むことを望んでいなかったのかもしれない。
樹の精霊など容易く炭に出来る。自らの力はそれ程強力なのだ。それなのに何故樹の精霊だけが特別扱いされているのだと。
そして、人々に力を合わせる事をしなかった火の精霊は嫉妬の炎で心を溶かし、やがて魔に堕ちると姿を消した。
樹の精霊へと一言残して。
「覚えているがいい、ガンマダの怒りを。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「上等だぁっ!!!!!!」
迫り来る隕石が、俺の大切なものをまとめて呑み込もうとしている。
何処の誰だか知らんが絶対許さん。
「マジック・クリエイト!!」
あの程度のデカイだけの魔法なら幾らでも弾き返してやる。岩が苦手な属性が直ぐには思い浮かばなかった。
なのでいつも通り雷で粉々に砕いて、ついでに魔物にも消えて頂こう。
ここで余談だが、強くなるには敵を倒すだけで無く、ギリギリの戦いをした経験が大事なようだとグナシアは言っていた。
魔王やクズ勇者と戦ったルカは最早グナシアを越えているだろう。
そして、俺もこの世界に来た当初よりは経験を積んだので大分強くなっているはずだ。
マジック・クリエイトにも大分慣れてきたし。
とりあえず俺の成長も確かめたいのと、節約も含めて一度使ったことのある魔法で行こうと思う。
目には目を、隕石には隕石だ。
クズ勇者には通用しなかったが、今なら別に良いだろ。弾き返してやる。
FFのメテオンだ。今回は多めの隕石君100発でいくぞ。
突如ぶ厚い真っ黒な雲が空を覆い尽くす。
空が薄暗くなると赤く明滅しだした。
前回は一メートルだったが、今回は二メートル程の大きさの隕石君が大量に降ってくる。
「ルカ、ちょっと爆発すると思う。街の方に障壁を張るから、ルカは俺達用の障壁を頼む。」
「はい、直ちに。」
俺は広範囲の障壁を張り、ルカは二人分の分厚い氷の障壁を張る。
すると直ぐに一発目の隕石が衝突する。
二十メートルは余裕である隕石との衝突だったが、今回はおまけで爆発するように仕掛けを用意しておいた。
そのおかげで一発目の隕石君でも大分削れている。
それに続いて二発三発とどんどんと巨大隕石へと隕石君達は挑んでいき、四十発辺りで完全に吹き飛ばして粉々になった。
「よし、残りは魔物を巻き込んで爆発してもらおう。あとは…。」
隕石君達に容易く破壊された巨大隕石の魔力の残渣を魔力感知で捉える。
そして、マジック・クリエイトでその僅かな魔力から、その魔力の主を探し出そうと考えた。
しかし、マジック・クリエイトを使うまでもなかったようだ。
「フォッフォッフォッ…お主がハルトと言う者かの?」
そこには年老いた男がいた。背景が揺らいでいる。奴の周囲……いや、奴自身高温に包まれているのだろう。
「お前が今の魔法を使ったのか。」
「そうじゃが、聞いた話と違い中々やりそうな男じゃわい。フォッフォッフォッ。」
鑑定を使って正体を暴こうとしたが、またしても弾かれた。クズ勇者やクロトワの仲間と見て間違いないな。
「クロトワの仲間か?一年後に来ると聞いていたが。」
「あんな小娘絡みか……正確に言えばあの方の生誕を待つまでも無く地上は儂が滅ぼして見せると言ったところじゃがな。」
出たぞあの方。生誕ってことはまだ生まれていないようだ。
「儂はガンマダと名乗っておる。今はあえて精霊状態にしておる筈だがお主は精霊を見れるようじゃの。……まぁその肩に乗っておる小さいのは大分前に気付いておったようじゃがの。」
こいつは精霊だったか。しかし、妖精のように人型をしている。しかも精霊にも関わらず悪に染まっているとはな。
「フォル爺とは大違いだな。」
「フォル爺とな……もしかしてフォルトラウダスのことかの。」
「そうだが。」
「フォッフォッ……これはまた……久しく聞いてなかったが、まさかここに来てフォルトラウダスの名を聞くとはな。」
「何だ?フォル爺の知り合いか?」
「フォフォフォッ。知り合いときたか。復讐を恐れて逃げ隠れた弱き木の精霊と知り合いだと?……吐き気がするわ。」
知り合いには間違いないようだが、どうやら仲が良かったワケでは無さそうだ。
そうこう会話していくうちに隕石君達は頑張って地上の魔物を駆逐していく。
爆音の中、鑑定を使わずとも感じる力強さに気を引き締め治す。
「何でも良いが、要するに敵なんだろ?」
「ふむ、嫌いじゃ無い態度じゃ。しかし、その魔力は気持ち悪いのぉ。フォッフォッ、力無きフォルトラウダス同様…偽善者といったところか。」
こいつ街ごと吹き飛ばそうとしただけで無く、異世界の祖父ことフォル爺まで馬鹿にするとは。
死すら生温い。
「しつこい。何でも良いと言っただろ。前口上が終わったんなら早く戦うぞ。」
「フォッフォッフォッ。お主のような者を殺せるとはの…滾る滾る。長生きした甲斐があったわい。ほれ、いくぞ。」
すると、またしてもノータイムで魔法を発動してきた。ガンマダ…思ったより手強そうだな。
ガンマダの放った四つの炎の塊はルカの障壁の前で消え去る。流石はルカだな。
「ルカ、こいつはムカつくから俺がぶっ飛ばすから、魔物をお願いしてもいいか?」
「もちろんです。ハルト様、ご武運を。」
「ありがとう。ルカも気を付けて。」
するとルカは俺を信じてくれているようで直ぐに魔物へと直滑降で降りていく。ルカも怪我しないでくれよ。
「中々優秀な仲間じゃな。儂の炎で容易く燃やせるフォルトラウダスとは違ってのぉ。」
ガンマダは余程フォル爺が気に入らないのか、すぐにフォル爺の名前で卑屈な事を言う。
過去に何かあったのだろうか?……だとしても俺はフォル爺の味方なのは間違いないから関係ない。
「だったら俺の事も容易く燃やしてみせろ。」
「フォッ…儂をただの精霊だと思わんことじゃな。」
……強い。
戦わずともそれだけは間違いなく分かる。
これだけの自信を持つ理由も分かる。
そして、恐らくこいつも邪神の欠片を持っているのだろう。
ビシビシと殺気が飛んでくる中、俺は一つの決意をする。
フォル爺を馬鹿にした事を徹底的に後悔させてやる。
と。