4-5 ヤナタと動く父
ルカと別れた俺は早速迷子になっていた。
「うーん……。民家ばかりだな。街でこれだけ広いんだから、王都とやらはどれだけの広さなんだろう。ってか、そもそもどこで魔物売ったり出来るんだ?やっぱりギルドかなぁ。」
ブツブツと独り言を喋りながら歩いていると、家の前で子共が座り込んでいた。
俺は道を聞こうと近付くと、その子供が泣いているのに気が付いた。
「…どうした?何かあったか?」
「ぐすっ。何だよ兄ちゃん、飯なんてないからどっかいけよ!」
なんだこいつ。生意気なガキだな。俺が空腹で声をかけてきたと思ってんのか?…確かに服はボロボロだが。買おう服。
「そうじゃない。泣いてたから気になっただけだ。」
「か、関係ないだろ!それに泣いてなんかいないぞ!」
「なんだ、心の汗とか言うつもりじゃないだろうな。」
「え?」
「え?」
なんか変な空気が生まれたな。地球のネタは気をつけて使わないと駄目だな。
「何でも無いならいい。じゃあな。」
「ま、待って!兄ちゃん冒険者なのか?」
「冒険者ではないな。旅人?かなぁ。」
「なーんだ。肩に小っこいけど魔物乗っけてるからテイマーかと思った。」
なんだとはなんだ。冒険者はそんなに偉いのか?あぁ?俺は冒険者になってワクワクしてる暇は無いんだ!!
「困ってるなら言ってみろ。俺に出来ることならやってやる。」
すると半ベソをかきながらワケを話し出した。
少年の名前はヤナタ。ヤナタの父親はBランク冒険者だったらしいのだが、大怪我をしてしまい寝たきりなってしまったという。
意識はあるのだが動けず、そして金も底を尽きてしまったらしい。
それを他の子供達に馬鹿にされて悔しくて泣いていたようだ。
「ヤナタ。お父さんに会わせてくれるかい?」
「悪さしないならいいけど。」
そう言いながらも玄関のドアを開けて、家の中に入れてくれた。
平屋ながらも、中々の広さの家だった。流石はBランク冒険者といったところか。
ヤナタの後をついていくと、一つの扉の前で立ち止まり声をかけた。
「父ちゃん!入るよ!」
すると中から小さな返事が帰ってきた。
ドアを開けると、ワイルドな顔立ちの男がベッドに寝ていた。
「父ちゃん!この人が父ちゃんに会わせてくれって!」
「初めまして。ヤナタと外で話していたら貴方の話題が出たものでして。」
「ヤナタが懐くとは珍しいな。話は聞いたかも知れないが、首から下は動かないから、このままで失礼するよ。」
「少し魔法を使っても?」
「構わないが…回復魔法では治らなかったんだ。」
俺は時間もないので、とっとと治してしまうことにした。体の麻痺だと神経っぽいから、回復よりもリボーンのがあってるかな。マジック・クリエイトは疲れるからとりあえずリボーンからいくことにした。
「部位再生。」
俺が魔法を発動すると父親の体が光り出し、やがて収束していった。
「悔しいが時間も経ちすぎているか…ら………へ?」
父親は話ながら自分の手が動いた事に目をまん丸くしていた。
「と、父ちゃん?!」
「ヤナタ!!!手が動くぞ!!あ、足もだ!!!!」
「父ちゃーん!!!」
ヤナタは号泣しながら父親に抱き付いた。よかったよかった。
「まさか治るとは思いもしなかった。ありがとう。」
「いえいえ、どう致しまして。」
「お礼に金を払いたいんだが、寝たきりになっていたもんで金が無いんだ。少し待ってもらえないだろうか。」
「お礼なんていいんで、ヤナタにこの街の道案内を頼みたいんですけど、駄目ですか?」
「恩人の兄ちゃんの頼みを断るわけ無いだろ!おれに任せてくれよ!」
父親が答える前にヤナタがやる気を見せてくれた。
父親も最後までそんなんじゃ気が済まないとか言っていたが、むしろ今はそれが一番助かると説得し続けたら何とか納得してくれた。
父親に魔物の買い取りを聞いてみたところ、登録している冒険者よりは率が下がるが、冒険者ギルドがいいんじゃないかと教えてくれた。
俺はヤナタに冒険者ギルドへ向けて案内して貰うべく街を歩き出した。
「兄ちゃん良い奴だな!本当にありがとうな!」
「あぁ、気にすんな。困ったときはお互い様だ。ところで、この街はなんて名前なんだ?」
「ムーバルだよ。」
「ムーバルか。」
たわいも無い会話をしながら歩いている冒険者ギルドの看板が見えてくる。
「おぉ!これがギルドか!!とうとう来てしまったか……。」
夢のギルドに到着して感動していると、ヤナタが白い目で俺を見ているのに気付いた。
「ゴホンッ。ヤナタ助かったよ。折角父親が元気になったのに、離れさせて済まなかったな。宜しく伝えといてくれ。」
現金が無いので、太古の森で倒した魔物の毛皮を分けてヤナタに渡す。
「これを売れば少しは金になるだろうから、父親が稼いでくるまではそれでどうにか乗り切ってくれ。ヤナタも負けるなよ。」
「うん!ありがと!兄ちゃん頑張ってな!いつでも遊びに来いよ!!」
そう言ってヤナタは家に向かって駆けていった。生意気なガキかと思っていたが、素直な可愛い奴だったな。
するとシロが頬をぺちぺちと叩いてきた。
「なんだ?腹減ったのか?今は金が無いから少しだけ待ってくれよ。」
シロは言葉が分かるのか、また肩で大人しくなった。シロは聞き分けが良くて助かるな。
ギルドは石造りのイメージでいたが、三階建ての木造の箱型の建物だった。
意を決して中へと入っていくと、地球で見たアニメの通りになっていて興奮が止まらなくなってしまいそうだった。
一階の半分は酒場となっていて、依頼を達成した者達が打ち上げをしたり、情報交換の場となっているようだった。
もう半分はギルドの受付カウンターがあり、入口付近には掲示板のようなものに沢山の依頼書が貼り出されている。
カウンターの横には扉があり、その先には恐らく訓練場のようなスペースがあるようだった。
急いで買い物を済まさないといけないのは分かっているのだが、胸のワクワクが止まらずについつい掲示板の前で立ち止まって、どんな内容があるのか見てしまう。
「Fランク 薬草採取。有りがちだが悪くないな。おぉ、Aランク ロック鳥の羽根を五枚手に入れろか!くぅ、たまらんな!!是非やってみたいぜ!」
「気持ち悪ぃ小僧だな。邪魔だから退きやがれ!!!!」
俺が異世界を堪能していると、後ろから邪魔が入った。そこにはスキンヘッドにタトゥーを入れた大男がいた。