3-25 安息の大樹
クズ勇者に助けられるなんて、想像もしていなかった。一体どういう風の吹き回しなんだ。
しかし、そんな悠長な事を考えている場合ではない。
俺が魔力を練り反撃しようとしたところで、クズ勇者が先に喋り出した。
「ロワ……こんなところで派手に…殺り合ったら……目立つよ?いいの…かな?」
クズ勇者は血を垂らしながら、和やかに意味深な事を言う。
「た、確かにそうね……。ふん、あんた!命拾いしたわね!!」
頬を膨らませ人差し指を突き付けながら、上から目線でクロトワは言い放つ。
「でも残念でしたぁ~!どの道あんた達はあと1年の命だからねぇ~!!!でわでわ!世界の終焉の日にまた逢いましょ~!!ランくんも永遠にさよ~なら~!!」
クロトワは言いたいことだけ言うと、さっさと転移し消えてしまった。
自由に使える長距離転移って、便利だな。
しかし、そんな悠長な事は言ってられない。クロトワという脅威は去ったが、クズ勇者が派手にやられている。
何て声をかければいいのか分からない為、何も言わずに回復魔法を勇者に使う。
アリスがルカを連れて俺の所まで来たが、二人とも何も言わずに俺を待ってくれている。
「そんな…傷が塞がらない……。」
俺は既存の回復魔法を使ったが、傷の周りが光り出し一瞬だけ血が止まったかと思ったが、それ以上治ること無く、すぐに血が流れ出してしまった。
俺は諦めずに次の魔法を使う。部位では無いかもしれないが部位再生の魔法を試しに使ってみる。
すると、ゆっくりと傷が塞がりだし、槍で空いた穴が塞がったかと思ったが、少しするとジワジワと傷が広がり、終には元に戻ってしまった。
「どうなってるんだ……?」
「ハハッ……ロワの槍は…固有スキルで回復……魔法が効かない…らしいよ。」
回復魔法が効かない?ヒステリック貧相はかなり性悪な固有スキル持ってやがるな。
「無理に喋るな。」
「もう…いいんだよ。僕は罪が……多すぎる…からね。」
「うるさい。勝手に全てを決めるな。」
槍が消えてからはドバドバと血が流れ出し、吐血もしている。これは、マジで急がないとやばいな。
俺はネックレスが鑑定を防いでいたのを思い出し、ネックレスの無い今は鑑定が効くんじゃ無いかと思い使ってみる。
すると見事に鑑定は通じ、しっかりと表示された。
状態・状態固定、出血多
スキルによる状態固定…要するにクロトワ以外の者がクロトワの与えた状態は変えられないと言ったところか。
どうする…。諦めるな……想像しろ。俺は自分に言い聞かせる。
落ち着いて頭を働かせ、マジック・クリエイトですぐに魔法を作り出す。
状態を回復させようかとも思ったが、恐らく回復魔法同様に他者では現状を変えることは出来そうに無い為、まずは状態固定をどうにかすることにした。
俺が創り出したのは、スキル解除の魔法だ。これで、状態固定のスキル自体を消してから回復させることにした。
俺は直ぐさま創り上げた魔法を発動させる。
すると、クズ勇者の体が光りに包まれる。
やがて光は収まったが見た目では変化が無い為、再度鑑定を使う。
「よし!あと………は………………。」
状態固定が消えた。
しかし、鑑定は更に詳細な情報を伝えてきた。
状態・死亡。
「う、うそだ!まだ間に合う!!!!」
俺は慌てて回復魔法を放つ。
しかし、クズ勇者は動かない。部位再生使ってもそれは変わることは無かった。
「……………ちくしょうっ!!!!」
大切な物を壊そうとしていた奴なのに…それでも最後には何かが変わり始めていた気がしていた。
罪を償う事は出来るか分からないが、それでも生きてどうにか償って、独りじゃ無いってことを知って欲しかった。
複雑な感情でよく分からないが、少なくとも俺を救うためなんかで死んで欲しくなかった。
「ハルト様……。」
地面を殴り付ける俺をルカが背後から抱き締めてくれる。
もやもやと気分の悪い感覚の中、ルカの優しさだけが確かに俺の悶える心を支えてくれていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「………こんなもんかな。」
俺はクズ勇者の墓を掘った。
あんな奴だったが……クズ野郎だったが、良い意味でのライバルだった。
「お前の気持ちは勝手に背負ったぞ。これでお互い独りにはなれないな。」
露骨な墓標だと、墓荒らしに遭いかねない。
それは気分が悪いので、俺はマジッククリエイトで墓標を創ろうと考えた。
「……安息の大樹。」
異世界とは言え中二病の発症者っぽくて、普段は魔法の名前は唱えたくないんだが、今回は助けてもらったお礼の気持ちを込めて、魔法を唱えて発動させた。
俺の掌から一粒の小さな光がゆっくりとクズ野郎の埋葬された地面へ消えていく。
すると、一瞬だけ地面が光り、その光が波紋のように広がっていく。
その中央が小さく盛り上がると小さな双葉がピョコッと生えてきた。
そして、小さな双葉は見る見るうちに成長していき、やがて立派な大木となった。
「じゃあな、クズ勇者。」
一度だけ手を合わせ、ルカの手を取り歩き出す。
「……ルカの敵対していた奴なのに、なんかごめん。」
俺は歩きながら、気にかかっていた事をルカに謝る。すると、ルカは淑やかに微笑み答えた。
「いえ。……確かに勇者ランスロットはお父様を傷付けた仇はありました。しかし、龍人族は誰一人死んではいません。他にも悪行はあるのかもしれませんが、ハルト様の為に身を挺したのは事実です。何よりも、ハルト様自身の意思で勇者ランスロットを助けようとしました。それだけで…私には充分です。」
「ルカ、ありがとう。」
「はい、ハルト様。」
ルカは微笑むと、繋いだ手とは反対の手を俺の腕に回し、ギュッと腕に抱き付いてくる。
「ハルト様がいてくれて、生きていてくれて……本当に嬉しいです……。」
俺は愛しい気持ちで抱き締めたくなったが、何とかそれを我慢し、ありがとうと呟き歩き出した。
最後に一度、クズ勇者の埋葬された大木へと振り返ると、そこには美しい氷の花が一つ供えられていた。




