1-3 黄泉の魔王と星降りの勇者
―――大地が震え、空は落ち、数多の呪いが国を呑む。死を呼ぶ風が吹き荒れる。赤い水が川となる。祈り祈れど陰が降り、立てど立てども骨と化す。黄色い泉が湧いたとき黄泉の悪魔がやってくる―――
今から1000年ほど前、この世界を滅ぼさんとする魔王が現れた。その魔王は死霊の大軍を引き連れていた為、黄泉の魔王と呼ばれた。
人族は人族同士の戦争で疲弊していたにも関わらず、手を取り合うことを拒み、各国で魔王軍へと立ち向かった。
結果は大敗。どの国も魔王軍に勝つことはなかった。このまま滅びの道を歩むと誰もが考えていた。
そんな中、突如一人の青年が現れた。
鈍く輝く銀色の鎧を纏い、燃えるように赤い剣を振るう。流星のように舞い魔物と戦う彼を、世界は勇者と呼んだ。
やがて強力な四人の仲間を連れ、魔王と勇者は三日三晩戦い続けた。
四日目の朝を迎えたのは、気を失いながらも立ち続けた勇者一人だけだった。
魔王はまた必ず現れる。この世から存在が消えることはない。
勇者は其れを知り、人族同士の戦争をしてる場合ではないと、世界を回った。勇者のパーティーのように、他種族が助け合える世界を作り、魔王がいつ現れても滅びぬようにと。
勇者はこの世に新たなシステムを取り入れ、魔物や魔王と戦えるように、世界の強さの底上げをした。冒険者ギルドを作り、強者が生まれるようにしたり、商人ギルドを作りより世界が回るようにした。そうして、やがて世界を纏めた。
その後、新たな魔王が生まれたが、勇者が生んだ世界を滅ぼすことは出来なかった。
たった一人の青年が、世界の軌跡となったのだ。
いつまでも語り継がれるその者の名は…
《星降りの勇者 シン》
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
フォル爺は一冊の本を見せてくれた。勇者の話だった。
「その昔、魔王を倒した勇者が、レベル99の上限を越えた際に、ハイヒューマンという種族に進化したと聞いたことがある。そして、さらに力を蓄え、世界を平和に導いたと古文書でも読んだことがあるが…。」
ハイヒューマン。人族の上位種。身体能力や知能の向上。多数のスキルを駆使し、人族とは比べ物にならない戦闘能力を持つという。
伝説の勇者が最強の魔王との死闘を経て、辿りついた境地。
俺はというと、梅干し種を拾って持ってたら爆裂。そして、進化した。申し訳ないので、もう一度鑑定してみる。
ハルト・キリュウ
種族:マッチレスヒューマン
称号:異世界人
創造人
レベル:1
TP:880
MP:1800
攻:920
防:900
魔:1500
敏:800
器:950
スキル:料理5
乗馬5
魔力操作10 new
サーチ10 new
隠蔽10 new
気配察知10 new
固有スキル:鑑定 new
インベントリ new
魔道の極み new
マジッククリエイト new
なにこれ。ステータスも軒並み急上昇。スキルの量もすごいし。それに称号が、創造人って。まぁ、強くなる分には安心出来るからいいけど…。色々と気になる部分はあるが、追々でいいか。なんか疲れて怠いし。
「おぬしは一体何者なんじゃ。レベル1でその強さじゃ、この先が恐ろしいわい。まぁ、悪人でなかったのが救いじゃな。それだけのステータスがあれば、単独でも森を抜けられるじゃろ。しかし、何があるかわからんのが未開地である古代の森じゃ。少し鍛錬を積んでからでよいじゃろう。儂は付いて行くことは出来んが、この小屋ならいくらでも使ってくれて構わん。」
諦めていた道が開けた。世はまさに冒険者時代。俺は冒険者に絶対なる!タクシーなんてごめんだぜ!
「何をうかれておる。まずはこの森を出るには…己を知ることからじゃ。自分のスキルや進化した能力を使いこなせなくてはならん。固有スキルは分からんものもあるが、とりあえず儂にわかるもんを教えてやろう。」
ファンタジーのせいで、ついつい変なテンションになってしまってた。見られたのがフォル爺でよかった。
フォル爺にご教授頂いたが、大体は読んで字の如くといった感じだった。
・魔力操作→魔力を円滑に操作する為のスキル。レベルが高いほど魔法の発動が早くなり、魔力の消費も減るらしい。
・サーチ→周囲をレーダーのように探索出来るスキル。レベルが高くなるほど、距離が伸びる。
・隠蔽→気配を消したり、魔力を感じ取れなくするスキル。高くなると目の前に居ることにさえ気付かれないこともあるらしい。
・気配察知→生き物や罠などの気配を察知するスキル。魔道具や魔法やスキルなどで隠した気配でも、隠した側よりレベルが高ければ察知できる。
・鑑定→ありとあらゆる物を見通すことが出来るスキル。
・インベントリ→異次元の収納。瞬時に出し入れ可能であり、中の物は時間停止する。
・魔道の極み→全属性魔法の適性及び耐性が生まれるスキル。
だそうだ。中々便利なスキルが多いが、やはり心躍るのは魔導の極みだな。魔法使ってみたい。
固有スキルにはレベルが無いので、最初からずっと変わらないスキルもあれば、魔力量に依存するものもあるらしい。また、種族や個人の才能によるものが多いようだ。
スキルレベルは、
1が初心者
2が中級者
3~4が上級者
5~6が熟練者
7~8が達人
9~10は基本的にいない
という感じの認識らしい。
「おぬしの鑑定スキルは何故固有スキルのほうにあるんじゃろうなぁ。本来、創造の種を使った場合は、通常のスキルになり、鑑定でもレベルにより見えていく情報が増えたりするんじゃがの。気になるが、とりあえずは魔法からじゃな。魔法で儂が使えるのは、固有スキルの緑魔法により、土魔法と水魔法がほとんどじゃ。高位の冒険者や宮廷魔術師ならば、多くの属性を使える者もおるようじゃが。まずは魔力を練って、魔法が出せるようにしてみるのじゃ。」
そう言うとフォル爺は、お手本を見せてくれた。
「ゆっくりいくぞい。」
魔力がスムーズに全身を流れているのが分かる。穏やかであるが大河を思わせる魔力だ。そして、詠唱が終わると魔力が魔法へと変換された。
「これが…魔法。」
そこには、一本の太い石の槍が浮かび、数十メートル進んだ先の地面に突き刺さった。
「土魔法のストーンランスじゃ。ポピュラーな魔法じゃが、使いやすい魔法じゃな。土魔法は汎用性はあるが、見た目が地味じゃ。まぁ儂は地味なのところも好んでいるがのぅ。今度はおぬしの番じゃ。」
すげぇやファンタジー世界。やってやるぞ。魔法はイメージってよくいうからな…地球ではだけどな。
まずは体に魔力を満遍なく廻らせる。はじめは火魔法と決めていたが、森では火事になる恐れがある為やめておいた。
イメージイメージ…魔力を電気に変えるイメージ。電気を身に纏うイメージだ。
「あ、ありえん……!魔法を身に纏うじゃと?!」
まるで黄金の鎧だ。バチバチ鳴ってて、ちょっとおっかない感じがするけど、攻撃されたら相手が怪我しそうだ。このまま、動けるのかな。
「すげぇ!なんだこれ!」
景色が意識に置いて行かれている。光速で動けたようだ。よし、あとはこの纏った電気を放出して高高度から落とすイメージだ。……いけるぞ!
空が光る。夕闇が消える。光が滝のように落ちてくる。轟音を引き連れて。数多の雷は龍のように暴れ回り、大木を薙ぎ倒しても飽き足らず、複数のクレーターとなり消えていく。最後の一筋の爆音の後、全ての生命が途絶えたかのように静寂が訪れた。
「「………………………………。」」
「雷も山火事起こすもんね……。」
調子に乗ったら、森が燃えた。あと小屋も。