3-23 ゴンドラの思い出
俺はクズ勇者と対峙している間も、ルカと魔王の戦いをスキルで確認していた。
やはりルカは龍人族№2なだけあって、魔王相手にも関わらず優勢であった。
しかし、魔王は起き上がり、ルカに反撃を開始した。
直ぐに動きたかったが、クズ勇者も牽制してきていた為に動き出すことは出来なかった。
俺は二千本の剣に囲まれている。
俺がルカの所へ動けば、間違いなくアリスが狙われる。しかし、このままここにいてはルカが殺される。
俺は急いでルカへと回復魔法を飛ばし、更に一回目の神力を使う。
前にルカに使った補助魔法に神力を混ぜて発動させる。
これで魔王にダメージを与えることが出来るはずだ。
ルカも魔力の消費が激しくきついだろうが、今はルカを信じてクズ勇者の渾身の一撃に集中するしかない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…やっぱりね。ハルトは神の力を手にしていたんだね。だったら僕は……ここでハルトを殺して、神殺しへと一歩近づく!!!!!」
「ルカもアリスも誰も殺させない!!お前になんかには絶対に負けない!!!」
俺は創造を開始する。
神力が使えるのはあと二回。クズ勇者も魔力切れを起こしてる今、この攻撃を乗り切れば俺の勝ちだ。
俺がイメージしたのは、地球にいた頃に世界的に有名なゲームだったゴンドラクエスト。
そのゲームはゴンドラに乗った勇気ある主人公が、ある日ゴンドラの良さを知らしめるために探求せよ!という町長の鶴の一声によりゴンドラに乗って世界を冒険するという素敵な物語だ。
そして、ゴンドラクエスト8に出て来た主人公のライバルのテリー佐藤が、主人公のゴンドラを落とすために使ったのが、テンゴスパーク。
テンゴスパークというのは、天国から数多の神の雷を呼び起こし、素早い主人公のゴンドラを追い詰めた最強の技である。
因みに主人公のゴンドラは落ちること無く、テリー佐藤を仲間に引き入れ、ゴンドラ王の元へと辿りつくのだった。
俺は一気に魔力を練り上げる。神力と雷を混ぜると銀色の火花が散る。
神の雷ならテンゴスパークのイメージにピッタリだ。しかし、テンゴスパークなどと大きな声で叫ぶ度胸は俺には無いので唱えない。無詠唱だ。
「すごい!!!!すごいよハルトッ!!!!」
クズ勇者は俺の魔力に興奮しながらも、二千本の魔剣の発動の準備が整ったようだ。
「あぁ……全てが震える!!!こんなにも生きている実感が湧くのは初めてだ!!!!」
「そうかい、そりゃ良かったな。」
「つれないなぁー!これでも感謝してるんだよー?どっちに転ぶか分からない戦いをどれ程待ち侘びたか!!!!ハルトには分からないだろうなぁ……。独りは辛いんだよ?」
確かにな。……その通りだ。
「知ってるよ。…独りは確かに辛いな。だがな、自分を信じてくれる人達に気付ければ、自分も信じることが出来るんだよ。知ることが出来るんだよ。独りじゃないってことにな!!!」
「……だよ。くだらない事を言うなぁっ!!!!綺麗事を……所詮生まれ落ちた瞬間から死ぬまで独りなんだ……。分かり合える訳が無いよねぇ………本当の孤独を知らないんだからなっ!!!!!」
「本当の孤独をどう捕らえるかは、そいつ次第だろ。俺は一人で生きてきたが、愛する人達を常に想っていたからな。……大切な存在を作らなかったお前の我が儘だろ。」
「もういいよ…………。これ以上答弁しても意味が無い事が分かったよ……。生き残った方が正しかった。そういう事だろう?!」
「はぁ、好きにしてくれ。」
「あぁ、行くよハルト。封印されし勇者よ……力を解放しろ。アルミナス・ヒュンティアァァーーー!!!!!」
「頼んだぞリスキアの神力!くらえぇっ!!!!天地神雷!!!!」
テンゴスパーク改め天地神雷。天地とは世界。俺は神の雷に包まれる世界を創り出す。
二つの叫び声と共に、二つの強大な力が動き出す。
クズ勇者はルカやリスキアに構うこと無く、二千本の魔剣の全てを俺に向けて放った。
クズ勇者も本当に最後の局面だと認識しているようだ。
雷鳴が轟く。
すると巨大な銀色の球体が見えてくる。
まるで空高くから、地を貫く為に神が放ったかのように、凄まじいスピードでそれは落ちてきた。
球体の周りには、まるで日本で描かれる龍のように紫電が纏わり付く。
バチバチと音を鳴らし空中で静止すると、最後に一際眩しく輝くと放電を始めた。
クズ勇者の二千本の剣も目の前まで迫ってきているが、神雷がバチンッ!と大きな音を立てて放たれると、一番近くの一本の魔剣を焼き付かせた。立て続けに数本が塵となって消えていく。
「おぉ!ちゃんと効いたな。よし、全て焼き尽くせ!!!!」
俺の声に反応して銀色の球体は爆発したかのような爆音を響かせて、数多の神雷を放つ。
球体の全面から神雷が放出される姿は神々しかった。
メデューサボール…いや、銀色の雷のウニのようだった。神界に海があったらこんなウニがいるかも知れない。
天地神雷は剣が避雷針のような働きをしてしまってるんじゃないかと思わせるほどに、剣だけを焼き落としていく。
「う、嘘だ…そんなはずはっ!!!!!」
手前から一気に魔剣の尽くを焼き落とされていく姿を見て、クズ勇者は取り乱し始めた。
十、百、千……。光と音がそこかしこで鳴り響き、空が煙と光で白い空間を描き出し、神界を少し思い出す。
やがて、最後の一本が塵と化した。
「終わりだ、クズ勇者!」
「う、あう……負けるはずない。僕が負けるなんて有り得ないんだぁぁあぁーー!!!!!」
今にも崩れ落ちそうだったクズ勇者は力を振り絞り、俺の背後に転移した。
「見え見えなんだよ!!」
剣を振り下ろすより先にクズ勇者に回し蹴りをくれてやると、ゴロゴロと吹き飛んでいった。
天地神雷は最後に一本の神雷を転がるクズ勇者に落とすと、霞のように消えていった。
流石のクズ勇者も神雷の一撃には耐えられずに倒れ伏した。
「……今度こそ…俺の勝ちだっ!!!!!」
俺は一人で勝鬨を上げた。
そして、すぐにルカの方を見ると、ルカは座ったまま笑顔を作り手を振ってくれた。ルカも無事に魔王を倒したようだ。
疲れ果て、そして魔力切れという事もあり、立ち上がれないルカの傍には既にリスキアが合流していた。
恐らくリスキアは地上では手出し無用っぽいので、回復魔法はかけていないだろうと思い、ルカの元へと急いで行こうと一歩を踏み出したときに、声がした。
「ガハッ!」
慌てて振り返ると、先程まで生きている感じさえしなかったクズ勇者が吐血し、咽せていた。
「…ゲホッ……ハァハァ……。」
「生きていたか。俺のこと生きる屍呼ばわりしていたが…お前だってゾンビみたいだな。」
「ハハッ…………。ある意味…そうだね。ハルト…ゲホッ…僕はね、勝ち続ける事だけ…に、生を感じられたんだよ……。負けた僕は……もう生きている意味が無いんだよ。」
血を吐きながらクズ勇者は面倒くさいことを言い出した。
「まぁ、お前がそう思うならそうなんだろうな。本来なら、また別の生き甲斐を探せば良いだけの事なんだろうが、お前には通用しない理屈だろうからな。」
「よく…分かってるじゃ無いか。確かに僕には通用しな…い理屈だ。だから、ハルト…僕を今すぐに殺してくれ。」
「断る。」
「…………それが答えなんだね。」
俺は、魔力が底を尽きボロボロで動けないクズ勇者に対して、完全に油断していた。
勝利に酔い、気を抜いていた。
クズ勇者は、その言葉の最後に、殺さないのならば人族である事を捨てると口にした。




