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3-22 絶望を断つ光



 ハルト様に補助魔法をかけて頂き、以前の私とは比べ物にならない程の魔法を全力で出し切った。

 しかし、魔王オルガルフェルグを倒しきることは出来なかった。


 でも諦めるわけにはいかないので、どうにか次の手を考えていると巨大な咆哮が生まれる。


「ヌヌォオオォォォーーー!!!!!」


 どうやら必要以上の攻撃を受けたことに怒りを覚え、私を敵と認めたようだ。


 魔王は立ち上がると体を少し丸く縮める。


 すると、只でさえ燃え上がっている魔王の体が真っ赤に染まっていった。


「ム…スメ………コロ…ス!!!」


 縮こまっていた体を一気に広げると、巨大な溶岩の塊や小さな礫などが爆発したかのように大量に吹き飛んでくる。


「くっ…。」


 私は、飛んでくる礫を辛うじて交わしていく。


「キャァッ!!」


 が、全てを避けきる事は出来ずに肩に受けてしまい、地面に叩き付けられるように落下してしまった。


「ガッ…ハッ…!」


 何とか受け身は取れたけど、左肩が酷く痛む。


 魔王は私を踏み潰そうと足を上げる。


 見上げると、5メートル以上ある足の裏が迫ってきていた。ギリギリで躱したが、攻撃による衝撃波と熱波により私は弾き飛ばされた。


 漸く地面に打ち付けられたかと思ったら、止まること無く勢い良くゴロゴロと転がっていく。


 これ以上追撃をされたら、いつ致命傷を負ってもおかしくない。

 そんな思いから焦りを感じ、急いで魔法を放つ。


「…歪な氷の結晶よ、踊り狂う渦となり、触れるもの全てを凍らせよ!螺旋氷!!!」


 尖った氷の粒が渦を作り、どんどん大きくなっていく。

 やがて、巨大な氷の竜巻となり魔王を呑み込むべく動き出す。


 この程度の魔法では倒すことは出来ないが、一旦距離を取るためにも、外せない。


「ヌォォォオオオォォーーー!!!」


 魔王は深く息を吸うと、それを一気に吐き出した。そして、魔王の吐いた息は灼熱の炎の波となり竜巻にぶつかっていく。


 最初こそ押していた私の魔法も、徐々に勢いを失っていき、やがて掻き消されてしまった。


「ハァハァ…あんな…簡単に……。」


 魔王は不死身であるが、それ以外にもあの破壊力が問題だ。たった一撃で戦況が傾いてしまう。


「ハァハァハァッ…それでも、私は魔王を止める!!…氷の女王を呼び起こし、空気よ凍れ!アイス・イムイス!!!…………!?そんなっ…。」


 焦りからか詠唱を間違えると魔力だけが消えていく。私は大事なところでミスしてしまった。


「ヌヌヌォォォオオオォォーーーー!!!!」


 すると、隙有りと言わんばかりに魔王が一歩踏み出し、先程と同様に灼熱の炎を吐き出す。

 

「くっ!!……アイスブラスト!!!」


 慌てて発動が間に合いそうな中級魔法の氷の突風を飛ばすが、中級魔法程度で防げるわけもなく、すぐにかき消されてしまった。


「キャァッ…!!!」


 私は後方へと自ら飛ぶが、すぐ炎に追い付かれ魔王の攻撃をまともに受けて吹き飛ばされてしまった。


 体が燃えるように熱く、息が出来ない。


「カハッ………………。」


 全身が斬られたように熱く、耐え難い痛みに襲われる。ハルト様の補助魔法で、耐性や防御力も上がっていたのか、何とか死にはしなかった。


 やがて、魔王の息の届かない所まで吹き飛ばされてしまった。


 痛い。痛い…助けてハルト様。声に出して弱音を吐きそうになるが、どうにか呑み込む。


「あ、蒼き光の力で、我…を、癒し…給え。アイス……ヒール…。」

 

 ハルト様の暖かい癒しに比べると寂しいものだが、どうにか少しだけ回復することに成功した。


 しかし、顔を上げると魔王は更なる追い打ちをかけるべく、大きな一歩を踏み出す。


 魔王は真っ直ぐこちらを睨み、腕を振り上げた。


「ヌヌォオオオオォォォーーーーー!!!!!!!!」


 空気が撃ち抜かれ、轟音を鳴らす。

 咆哮と共に、まるで災害のような拳が迫ってくる。


 先程の拳と全く違う。生半可な攻撃では止めることも叶わない程の魔力が込められている。


 決着を付けるべく、魔王オルガルフェルグの本気の一撃だ。




 その時、勇者ランスロットの魔力が異常に練られているのに、気付いた。


「……ハルト様!!」


 こんなところで躓いていたら、……私はいつまでも足手纏いだ。


 私は……私はもうハルト様を失いたくない!!!!!!


「グガァアアアァァァァーーーー!!!!」


 迫る魔王の拳を迎え撃つべく、残り少ない魔力を一気に練り上げる。


 私の魔法では、魔王を倒すことはできない。それでも、いまを全力で生き抜くのはハルト様がいてくれるから!


 すると、今まで経験したことの無い感覚がした。


「ハルト…様?」


 その不思議な感覚がしてから、体が光り出した。

 きっとこれはハルト様。


 いいえ、間違いなくハルト様の感覚がした。

 まるで手を取ってくれた時のように、暖かくて優しい感覚。


 私がいつも待ち侘びてるもの。


 勇者ランスロットと戦っているのにも関わらず、ハルト様がまた私を気遣ってくれた。


 魔王を倒すために私にくれたハルト様がくれたものだから、全て信じて全力で行く。

 

 ハルト様は、いつだって本当に助けて欲しいときに来てくれる。

 そんな貴方の笑顔を、一番傍で私は見ていたい!!!


「共に戦う精霊達よ…今この時我の元へ集い、絶望を断ち切り希望を照らせ!!…………極・凍光斬!!!!!!!」


 氷凍斬という私の魔法。それにハルト様の光を混ぜ合わせて使う、私とハルト様の魔法。


 私一人では歯が立たなかった。


 でも、今は違う。


 今は一人じゃ無い。


 出会ってから、そう月日は経っていないのに、最も信頼出来て、最も頼りになる人が傍にいる。


 今なら出来る。


 だって、私には……ハルト様がいるから!!!


 唱えながら、私は透き通る氷の剣を頭上に構え、詠唱の終わりと共に初めての技を発動させ、氷の剣を一気に振り下ろす。


 すると、今まで見たことの無い眩い光を放つ聖なる(・・・)属性と氷属性が混ざった剣閃が、巨大な光となり飛んでいく。


「ヌォォォオオォォォォーーーーー!!!!!」


 魔王オルガルフェルグは一際大きな咆哮を上げると、それに応じた凄まじい魔力の動きを感じる。

 

 魔王も本気のようで、迫る拳が更に燃え上がるように深紅に染まる。


 私は思う。


 これでだめなら、私はそれまでということ。


 ハルト様に助力を頂いたこの戦いで、足手纏いとなるのならば……


 それはハルト様の邪魔でしか無いということ。


 それでも私は想う。


 ただただ、ハルト様の傍にいて、ハルト様の役に立ちたいと。


「グガァアアアァァァァーーーー!!!!!!」


 私も負けじと咆哮を上げる。


 お願い。負けたくない。


 負けたらハルト様に恩返しが出来なくなる。


 ハルト様の傍にいられなくなる。


 だから、私が勝つ!!










「ヌォォォオオオォォ…………………。」


 光は、魔王の拳にぶつかると轟音と爆風を作り出す。


 そして僅かな拮抗の後に、拳を破り奥へと突き進んだ。


 拳から腕を。腕から肩首を。


 光が突き進む度に大爆発が起こり、魔王の一部が吹き飛んでいく。


 これは本当に私が使った魔法なのかと聞きたくなる程の威力で魔王の体を貫くと、そのまま光は空へと消えていった。


 魔王オルガルフェルグは倒れた。体を爆砕しながら。


 そして、再生すること無く、溶岩の体は徐々に赤さが引いていき、魔王オルガルフェルグは石となって死んだ。

 

「ハァハァハァ……。ハ、ハルト様…。私、勝ちました…。」


 魔力を使い果たし、そして魔王オルガルフェルグに打ち勝った安堵感から全身の力が抜けて、私は座り込んでしまった。


 気を失いそうだったが、ハルト様と勇者ランスロットの戦いが終わってない以上、倒れるわけにはいかない。


 しかし、これ以上は魔力を練ることが出来ない為、今の私には見守ることしか出来ない。


「ハルト様…どうかご無事で…。」


 私は手を胸に当て、最も大切な願いを込めた。

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