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3-18 あっ…また詰んだ…




 燃え上がる炎の柱が幾つも立ち昇り、空が炎に包まれる。


 地面は赤く焼け、凍華絶世により氷の世界のような風景が一変し、咲いていた美しい花が消えていく。


 そして、草花や生物だけで無く、大木や石までも焼け焦げている。


 まるでこの世界自体が燃えているかのよう。


 即座に想像したのは、焦熱地獄。


 勇者の起こした現象は、魔法という概念でさえ信じられるものではなかった。


 これが炎を召喚するだけの魔法だなんてあまりに烏滸がましい。


 目の前の景色が変わり果てる。いや、これが世界の終焉の時だと言われても何の疑いも持たない。


 目に映る全てが燃え上がる。塵となり宙を舞う。


 予想以上の魔法に、全身全霊の力を込めた結界がジリジリと少しずつ焼けていく。


「くっ、ルカ!大丈夫か?!」


 冷や汗なのか、この灼熱の熱さのせいなのか分からないが、汗が止まらない。

 ルカはコクリと頷いたが、余裕は少しもないように見えた。


 まずい。どうやって回避する。


 恐らくこの魔法は、ただ周囲を焼いているだけではない。ここから逃げ出すことも出来ないように、結界で包んでいるように、一つの世界として作られている感じがする。


 きっと、転移も使えないだろうな。


「アハハハハハッ!!!素敵な空間になったでしょー?この空間にいるだけでも、大概の生き物は死んでしまうんだろうけど、流石はハルトだねー!!じゃあ、今度はどうかなぁーー??」


 クズ勇者は心から楽しそうな表情で、オーケストラの指揮を執るかのように、手を軽やかに振り出しだ。


 すると、下から立ち上っていた炎の柱とは別に、上空の炎で出来た空から、炎の柱が降ってきた。


 俺達を目掛けて。


「ルカ!掴まってろ!!!!」


 結界に重ねて結界を張り、更にその上に氷の属性を織り交ぜた結界を張る。

 そして、直径5メートルはある炎の柱を慌てて躱す。直撃だけは避けたいと思っていたが何とか避けることが出来た。


 だが、安心するのも束の間、すぐに俺達を狙って次の炎の柱が落ちてくる。


「さぁハルト!!気の済むまで踊ると良いよ!!!!」


 クズ勇者が剣を持った腕を振るうたびに、炎の柱が落ちてくる。


 それを何とか魔力の流れを読み、ギリギリで右へ左へと避けていく。


 この空間にいるだけで結界が持たないのに…このままではジリ貧だ。そう思い、新たに魔法を発動させようと、魔力を練り始める。


 しかし……。


「あれれ?まだまだ終わりじゃ無いよ-!!!」


 クズ勇者が更に華麗に指揮を執ると、炎の柱の途中から横方向に向けて炎が吹き出す。


 どんどん予測するのが難しくなってきている。辛うじて、躱してきてはいるが、このままではいずれ結界が破られる。


「ハルト、まだ諦めないなんてすごい勇気だね-!!!でもさー、この炎だけで必死なのに大丈夫-?」


「……どういう意味だ。」


「だからさー、僕が唱えたのは炎の世界を作り出す魔法じゃないよー?」


 む、じゃあ何の魔法だってんだちくしょう。


「アハハ。最初に言ったとおり召喚魔法だよ。あくまでもこの空間は召喚するために必要な儀式みたいなもんだってこと。ハルトは必死に避けてるけどねー。……そろそろ来るよ。そして、その時が今度こそハルトが死ぬときだ。」


 そういえばクズ勇者の野郎、魔法使うとき、出でよ!!とか言ってたな。しかも獄炎邪王……オルガルフェルグとかほざいてたな。


 獄炎邪王とか、名前凶悪過ぎるだろ。


「勇者のくせに、召喚したのが邪王とか、墜ちるところまで堕ちたな。」


「だからさー、勇者なんてのは勝手に周りが言ってるだけだよー。強いて言うなら僕はむしろ魔族寄りだからね。」


「クズが。」


「アハハハハハッ!!!!じゃあ、ハルト!最後にもう一回だけ抗って見せてよ!!!しっかり楽しませてねー!!!」


 すると、真っ赤に焼けた地面が揺れ、隆起しだした。


 隆起というか、下からデカい何かが地面を押し出して、這い出てこようとしているようだ。


 押し出されて山のようになった先端からマグマが噴出する。


 ただ、姿は見えなくても分かるのは、クズ勇者と比べても遜色ない強大な力を感じることだ。


 クズ勇者の野郎は何を召喚したんだ。

 元大司教だったタタヒモスという名の中々の強さだった人魔獣がSランクだったが、そんなもの些細な存在だと言わんばかりの気配だ。


「ルカ、やばいのが来る。」


「…はい。恐ろしい力を感じます。」


 ルカを巻き込むんじゃ無かった。クズ勇者との2対1でも厳しい戦いだというのに、更に尋常ではない力の持ち主が現れたとなっては、勝ち目はまず無くなる。


 ちくしょう。一体どうしたらいい。どうしたら、ルカを守れるんだ。

 

 その時、耳元でルカでは無い声が聞こえた。

 

『ハルト!ハルト!!!!!聞こえましゅか?!あ…。』


 ん?いきなり噛んでる……やつか。


『あぁ、聞こえてるぞ。今かなり忙しいんだが、何のようだ。』


『よ、良かったです。実は先ほど勇者ランスロットから邪神の気配を感じました。』


『……邪神?』


『今は細かい事を話す時間がありませんが、勇者ランスロットが呼び起こしたのは古の魔王です。既に過去の勇者に封印されていたのですが、勇者ランスロットが邪神の欠片を手にし、邪神の欠片の力を使って古の魔王を復活させたのでしょう。その魔王は、破滅の焔魔と呼ばれ、世界を震撼させた……オルガルフェルグでしょう。』


 でたー。いきなりラスボスっぽいやつ。オルガルフェルグ!!二つ名が獄炎邪王じゃなくて、破滅の焔魔なんだな。どちらにせよ、凶悪極まりないな。


 ってか、魔王ってこんなヤバい強いのか?

 よく今までの勇者達は、一人で戦ったわけでは無いとはいえ、普通の人族で様々な魔王に勝てたな。


『んー、悪いけど勝てる気が全くしないんだが。』


『邪神の欠片の力のせいで、勇者ランスロットも古の魔王も更に強力な力を手に入れているようですからね。』


 何なんだよ邪神の欠片って。有り得ねーよ。

 

 既に勇者なのに、さらにパワーアップ。

 既に魔王なのに、さらにパワーアップ。

 しかも、その二人がタッグ組んでる。


 ………………やっぱり、これ詰んでね?


『ハルト?大丈夫ですか?』


 俺が少し遠くの世界に意識が飛んで行ってしまったので、女神が心配そうに声をかけてきた。

 

『あぁ、でもそれってどうしようもなくね?普通に勝てるわけないだろ。』


『はい、このまま行けば、間違いなくこの世界は滅ぶでしょう。』


『……。まさか、女神の最初の神託が世界の終わりを告げる内容だったとはな。』


『邪神の力を感じたときは私も驚きました。しかし、私も邪神が関係している以上は、何もしないわけにはいきません。』


 ん?とても興味深いことをリスキアが言っている。どれどれ、詳しく聞いてみたいぞ。


『ってことは、リスキアが戦闘に参加してくれるってことか?』


『直接私が参加することは出来ませんが、邪神の欠片の力はどうにかします。後は、魔王と勇者ランスロットを倒してください。』


 結局俺達が二人と戦うのね。まぁ、2対2だからな。リスキアも手伝ってくれるってことだし、どの道逃げ道は残されていない。


 要するにやるっきゃないってことだ。それにしても今の所あまり自信ないけど…。

 

『分かった。俺とルカで奴らを倒してみせる。リスキアも頼んだ。』


『ありがとうございます。ハルト、頑張って下さいね。』


 どうやって邪神の欠片の力を封じるのかはわからないが、あとは信頼して任せるしかない。


 俺はクズ勇者と魔王との戦いに集中しよう。そう心を決めたところで、突然ルカが口を開いた。

 

「……は、ハルト様?その方はどなたですか?」


「え?」


 気付くと背中に何かがおぶさっていた。ささやかながら、柔らかい何かを押し付けながら。


 

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