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3-16 ワイバーンボール




俺は移動しながら、勇者との戦いについて考えていた。先程の戦いにおいて、あまりに小細工をし過ぎていた気がする。


 強者との戦いで戦闘経験の浅い俺が、その場で考えた即席魔法に頼り、下手な策を練るだけで直感を捨ててしまった。


 そんなんで勝てるわけがない。勝てるはずがなかった。


 ステータスで勝るならステータスを全開に活かしてやる。その上で、地球の知識と俺だけの固有スキルであいつに勝つ。






 俺は急いで草原地帯を飛んでいるが、クズ勇者の転移にスピードで勝てるわけがない。

 だが、クズ勇者はスカイガーデンには行ったことが無い筈だから、少しは時間がかかるはず。だが、それも憶測でしか無い。


 まだ10キロはあろう道のりだが、このスピードならそれほどかからず辿り着くだろう。しかし、その時間すら惜しかった。


 気配察知を全力で発動し、ルカの魔力だけを意識して探す。

 この世界にきて、1番長い時間を傍に居たため、ルカの魔力の感覚を覚えている。


 俺は空を飛びながら集中していると、やがて微かにルカの魔力を感じた。


「見つけた!良かった、間に合った!!……えっ!?」


 安心したのも束の間、ルカの魔力が突然跳ね上がった。


「まずい、既に交戦中だったか。……マジッククリエイト!!!」


 俺は急ぎマジッククリエイトを発動させ魔法を創造する。


 今回イメージしたのは、地球のアニメでめちゃくちゃ有名だった、ワイバーンボールだ。

 因みにワイバーンボールはボウリングが主題となった珍しいアニメだ。

 主人公はスーパー日本人のお爺さんで、遅刻した(まご)をボウリングの大会会場へと送る際に、間に合わないので、会場へ先に到着していた知り合いの気を感じ取り、瞬間的移動をしたのだ。

 余談だが、ワイバーンボールはワイバーンボールXYZという第二弾も人気だ。


 そして、その瞬間的移動を使わせてもらうことにした。要するに遠距離の転移だ。まぁ名付けるならオーソドックスにテレポーテーションだな。唱えないけど。


 魔力を食いそうだが、背に腹はかえられない。


 俺はルカの魔力を意識して、出来るだけ正確な位置を決める。


 念の為、すぐ戦えるように剣を用意する。前回は七支刀のようになってしまったが、今回は普通の形をした剣を創ることが出来た。いやっ、刀だ。

 属性は敢えて持たせず、だがどんなものでも真っ二つにする伝説の侍の刀をイメージした。


「発動!」


 俺はテレポーテーション(仮)を発動させる。すると、吸い込まれるような感覚に体が包まれた。


 慣れないと気持ち悪いなと思っていると、突然視界が開けた。ルカの魔力も感じる。


「ルカ!!」


 顔を上げルカの名を呼ぶ。だが、目に映ったのは、濃密な魔力を纏った剣を振りかぶったクズ勇者だった。


「くっ!!」


 咄嗟に頭上に刀を構え、クズ勇者の剣を受け止める。突然の出来事にクズ勇者も同様したようで、その隙に腹を全力で蹴り上げた。


「グハッ…!!」


 思っていたよりも派手に吹き飛び、家屋に突き刺さり、クズ勇者は見えなくなった。どうせすぐ転移してくるのだろうから、もう油断はしない。

 気配察知をクズ勇者のみに発動させる。これで消えた瞬間を捕らえる。そうすれば不意打ちはなくなるだろう。


 俺は先にルカへ歩み寄り、ルカの手を取る。


「ルカ、ごめんね。間に合ってよかった。」


「ハ、ハルトさま……。うぅ……ふえぇーん!!!!」


 俺が声をかけると、いつもはクールなルカからは想像も出来ない泣き声で抱き付いてきた。余程心配かけたらしい。後でもっとちゃんと謝らないとな。


「ルカ、掴まっててね。」


 クズ勇者の魔力の流れを感じ、考えておいた挑発用トラップを準備する。足下に雷のトラバサミと爆発系の火魔法を用意。

 そして転移にも慣れてきたので、タイミングを読んで咄嗟に飛び上がる。

 するとクズ勇者がすぐ真下に転移し、剣を横凪に振るう姿があった。


「トラップ発動。」


 クズ勇者もさすがはクズでも勇者と呼ばれるだけあり、咄嗟の判断で転移をしようとする。


 しかし、俺の魔法が先に発動していた。雷で出来た巨大なトラバサミがクズ勇者を挟むこと無く、クズ勇者の頭上で閉じると、半円状の雷の結界が生まれる。


 魔力は通過できないので、転移は出来ない筈。そこで更に追い打ちだ。


「地雷発動。」


 今度は結界内で多めに魔力を込めた火魔法を爆発させる。すると、爆音と共に地揺れが起きる。

 結界が吹き飛ぶんじゃ無いかと思ったが、問題なく内部爆発だけで留まっていた。


「ルカ、大丈夫?」


「は、はい………ハルト様。お待ちしてました。無事で…本当に良かったです……。」


 ルカはまだ泣き止まずお姫様抱っこの状態をキープしたままだ。

 ルカも首に手を回して、顔を擦り寄せてくる。


 しかし、クズ勇者がこの程度で死ぬとは思えないので、ルカには申し訳ないが一旦降りてもらおう。


 ルカに一声かけてから俺は下で待つグナシアとモルトの所へと向かった。

 グナシアは俺の顔を見ると、心から嬉しそうに笑ってくれた。


「良かった!ハルト君、無事だったんだね!」


「グナシア様も無事で何よりです。グナシア様、勇者はいつ結界から出てきてもおかしくありません。早急に里の皆を避難させてもらえませんか?あと、これを。」


 俺はグナシアに結界の魔法を閉じこめた魔石を渡す。


「これは?」


「それは地面に向けて叩きつけるか、魔力を込めると、俺の込めた結界が発動します。上級魔法でもビクともしないでしょう。しかし、相手は勇者なので、どれほど耐えられるかは分かりませんが、勇者が暴走して、里や皆に危害を加えようとした際に使って下さい。」


「ハルト君、ありがとう。ルカシリアを泣かすなよ……絶対死ぬな。じゃあまた後で。」


 そう言い残し、グナシアはモルトと一緒に走り出した。ここに来るまでの間で少しは回復したみたいだな。


「ハルト様……私も共に戦います。もちろん邪魔なのは分かっています……しかし、もうあんな不安な気持ちにはなりたくありません!!」


 未だ半べそ状態のルカは、勇気を出して言ってきた。俺はルカの頭を胸元に寄せて軽く抱きしめて話す。


「ルカには心配かけてばかりで本当にごめん。一緒に戦おう。二人で力を合わせてこの里を守ろう。」


 ルカは断られると思っていたようで、驚いた表情をしていたが、大きな目を細めて目尻に涙を溜めながら、最高の笑顔で笑ってくれた。



 この笑顔を守るために……絶対にクズ勇者を倒す!!


 


 

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