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3-15 庭園の住人




「なんだここ…また夢見てんのかな。」


 草原地帯にいたはずの俺は目が覚めたら見たことも無いところにいた。


 そこは広いのか狭いのかさえよく分からないところだった。


 可愛らしい小さな小屋があり、今俺が立っている緑の芝生の上には、白いテーブルと二つの椅子がある。


 空はどこまでも青く続き、気持ちのいい風が吹く。


 庭園らしきここには、色とりどりの花が咲き誇り、欅のような樹形をした3メートル程の木が植えてある。

 チュンチュンと小鳥の囀りが聞こえてきそうな洋風な庭園だ。


「誰も…いないな。」


 俺は勇者ランスロットと決闘をして、2度目の敗北を喫した。


 完敗だった。想像していたよりも遙かにクズ勇者は強かった。強すぎて、殆ど何もさせてもらえなかった。


 前に魔法をくらわせられたのはまぐれ当たりなのか、クズ勇者が油断していたからか。少なくとも俺との戦いに集中しているクズ勇者には手も足も出なかった。


「勇者にやられたってことは、ここは天国か?あぁ、やっぱりあの時死んじまったのか。ごめん……ルカ。」


「ここは天国ではありませんよ。正確に言うと神界だす。……です。」


 

 声のした方を向くと、小屋から桃色のウェーブがかった長い髪をした美少女が顔を覗かせていた。真っ白なワンピースだけだが、どこか神秘的で、身長は低く、胸も小さいが、間違いなく美少女といえる。童顔で、系統は違うもののルカに負けず劣らずの美少女だ。


 しかし、顔が真っ赤だな。初見で咬んだんだから、仕方がない。

 

「天国ではないって事は、俺は死んでないのか?」


「死んではいません。瀕死の状態ではありますが。」


 確かにあの時のままなら、瀕死の状態には間違いない。


「じゃあ、神界ってのは何なんだ?」


「神々が住まう場所の通称といったところです。」


 なるほど、神は存在していたんだな。


「私の名はリスキアと申します。」


 グハッ。まさかこのタイミングでリスキア聖教国が信仰する神と出会うとは。しかも女神だったんだな。


「リスキア聖教国はここの所、彼の者のせいで様々な歪みが起こり始めていました。大司教まで操作して聖教国を掌握しようと企んでいたようです。」


「彼の者ってのは、勇者ランスロットのことか?」


「はい。」


 クズ勇者はどうやら嘘をついていなかったらしい。クズには変わりないが。


「ハルト。私は貴方に謝らなければいけないことがあります。」

 

 謝らなければいけないこと?え、神様に謝られる事とか怖いんですけど。


「もしかして、種のことか?」


「そうです。」


 なんだろう……実はあの種はいずれ発芽して、体内から木が突き破って生えてくるとかじゃないだろうな。


「まずは不本意とは言え、この世界とは異なる世界から強制的に連れてきてしまったことです。」


「不本意?」


「はい。本来なら、こちらの世界であの創造の種を使った者を、神界へと呼ぶつもりでした。ところが、創造の種を世界へと落とす際に、何かしらの妨害があり、その影響で貴方のいた世界へと落ちてしまったのです。そして、別の世界へと落ちた影響なのか、触れただけの貴方を転移させてしまいました。」


 なるほど、あの種は狙ってやったことではないんだな。それにしても、めちゃくちゃ気になる事を言ってくれたな女神よ。


「何故、使用した者を神界へと呼ぼうとしていたんだ?」


「一から説明します。まずは、この世界の魔素の動きが活発化しています。原因はまだ分かっていませんが、少なくとも魔王が関わってくることは確かです。正直なところ、これからどんなことが起こるか分かりません。ただ、今まで魔王が誕生したからと言ってこんなことはありませんでした。しかし、私は地上へと干渉することは殆ど出来ないのです。あの特別な創造の種は人を選びます。あの種を世界へと落とし、あの種が選んだ者に、これから起こる世界への脅威に対抗して頂きたかったのです。」


 神も万能ではないんだな。


「なるほど、落とした種が異世界へと行ってしまったってことか。」


「ごめんなさい。巻き込んでしまって。もし良ければ、協力して頂けませんか?」


「まぁな………この世界に守りたい奴らが出来てしまったからな。出来る範囲としか言えないが、協力するよ。」


 すると女神はパーッと花が咲いたような可愛らしい笑顔を見せ、手を取ってはしゃぎだした。髪の甘い香りが鼻をくすぐる。


「ありがとうございます!ハルトに断られたら、本当にどうひよう……かと。」


 また咬んだ。意外とそそっかしい神なのか?


「で、俺は一体何をすればいいんだ?」


「コホンッ。えーとっ特に何をするとかは今のところ在りません。強いて言うなら、勇者ランスロットの企みで聖教国や龍人の里が滅ばぬように尽力して頂けたらと。ハルトも今はそれが最もやらなければならないことでしょう?」


 オッチョコチョイ女神は恥ずかしさを誤魔化すように咳払いをすると、先程とは打って変わってまた女神モードに切り替わった。


「もし、何かお願いしたいことがあったら、こちらから連絡します。これを。」


 すると女神は俺の手を掴み、一粒の小さな種を手渡してきた。


「これは神託の種です。これがあれば、わざわざここへ呼び込まなくても必要なときに会話が出来ます。」


「なるほどな、それは便利だ。早速使わせてもらおうかな。」


「ここでは魔力が流せないので、地上に戻ってからでは無いと使用出来ません。」


 確かに言われてみると、魔力の流れなどを感じ取ることが出来ない。


「では、ハルト。そろそろ地上に戻りましょう。急がねば間に合わなくなります。」


「あ、あぁ。」


 偉そうな事ばかり言ってはみたものの、二度も勇者に大敗している。俺なんかが勇者に勝てるとは思えない。しかし、ルカを守ると約束した。でも、何度やっても同じ事になるんじゃないだろうか。


「今は瀕死の状態なのですが、使命を聞き入れてくれたので、今回だけは私の力で回復させましょう。……ハルト、顔を上げなさい。」


 自信を喪失させ、戻ってからのことを考えて下を向いていると、女神モードのリスキアが優しく、そして凛々しく話す。


「守ると約束したのでしょう?貴方の力があれば必ず約束を守れます。恐れてはいけません。目を背けてはいけません。自分を信じるのです。」


「……そうだな。こんなんじゃルカに嫌われちゃうからな。もう一度挑戦して、今度こそクズ勇者を倒す。」


「その意気です。本来のステータスだけで言えばハルトの方が上ですよ?あとは貴方のやり方次第です。」


 なに?俺の方がステータスは上だったのか。やはり戦闘経験の差がスキル、魔法の相性やタイミングなどに影響していたのだろうか。


「よし、少しだけ自信が湧いてきた。リスキア、ありがとう。」


 俺がリスキアにお礼を言うと、女神モードではなく、可愛らしい笑顔で手を振って応える。


「気をつけてね。創造の女神リスキアの加護をハルトに授けます。いってらっしゃい。」


「え?」


 すると、突然足元が抜けると、全てが真っ白で光の中のような空間を落ちていく。


 やがて白い空間を抜けると遙か下方に地上が見えてきたので、エアフライトの魔法で空を飛ぶ準備をする。


 が、魔力が全く練れないことに気付く。


 あれ?これやばくね?と思っている内に、地上がぐんぐんと近付いていくと、地面に寝そべっている自分の姿が見えてきた。


「あー、なるほど。神界へは体ごと行ってるわけでは無かったんだな。」


 地面に叩きつけられる想像をしてしまったが、そんなことはなく、普通に自分の体にスッと入り込むと、目が覚めた。


「よし…体の傷も治っている。魔力も充分。…………ルカ、無事で居てくれ。」



 神託の種を魔力で包んだあとに、スカイガーデンへ向けて、俺は全力で走り出した。

 




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