表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/161

3-15 SS 氷龍姫の希望と絶望と…




「お父様、少し休みますか?」


「大丈夫、全然余裕だ。あと少しだからな。モルトもすまないな。」


「何言いやがる!お前が死んだらうまい酒が吞めなくなるからな!」


 私はハルト様と別れた後、3人で里へ向かっている。

 ハルト様の背に乗せてもらい二人で来た道ではなく、少しだけ遠回りだが、草原地帯を避けて龍人の里を目指す。


「ルカ、もう少しこれまでの出来事を詳しく話してくれるかい?」


「はい。お父様と別れた後……」


 私はお父様を置いて聖教国から一人逃げ出した後の話をした。


 ひたすら走り続けたが、勇者ランスロットに見付かり、ハルト様に怪我をさせてしまった。だがハルト様は命がけで助けてくれたこと。


 ハルト様に龍人の里まで急いで連れて行って貰い、お母様の病気……呪いを治して貰ったこと。


 里を狙う聖教国の三万の兵と戦ったこと。


 そしてお父様を救うために、ハルト様が魔族を倒し、勇者ランスロットと戦うことになったこと。


 歩きながら全てを話すと唐突にお父様が笑いながら口を開いた。


「フフッ、ルカはハルト君が好きなんだね?」


「お、お父様突然何を!!!」


「ハルト君の話をしている顔を見ていれば分かるよ。しかし、あの氷龍姫と呼ばれて恐れられるルカシリアに春が来るとはねぇ。お父さん少し寂しいけど、ルカシリアもそんな歳になったんだと思うと嬉しいよ。」


 お父様はしみじみとしながら語っていた。


「なるほどなぁ。嬢ちゃんが恋ねぇ。俺らも歳取るわけだなぁ。」


 モルトさんまでもが私を茶化してくる。


「そそそ、そんなこと!ハルト様は私の…里のみんなの命の恩人です!!!そ、それに!ハルト様には目標があったのです!冒険者になるために旅をしていて、街を目指しているときに私と出会って、その目標の邪魔をしてしまいました。だからこそ!今まではタイミングが合わず出来ませんでしたが、戻ってきて落ちついたら恩返ししなければいけません!」


 私は恥ずかしさのあまり、何を自分で話しているかも分からなくなってしまった。

 ただ一つ分かるのは、ハルト様のことを想うと今まで感じたことの無い優しい気持ちに、ハルト様の傍にいるとポカポカと暖かい気持ちになるのです。


「ルカ、恥ずかしい事じゃないんだよ?母さんと俺だってそんな時があったんだから!プスッ。」


「そうだぞ!嬢ちゃん、恋ってのは突然訪れるもんだ!ブフッ。」


 お父様もモルトさんも酷いです。私を茶化して暇をもてあましてるのが見え見えです!


「もう!!これ以上、二人には何も話すことはありません!!!!」


「ごめんごめん!ふざけすぎたね。でもね、ハルト君も似たような気持ちなんじゃ無いかな?命がけで助けてくれたのはハルト君の優しさだろうけど、母さんや俺を助けてくれたのも全部ルカシリアの為だと思うんだ。もちろん彼の優しさでもあるんだろうけどね。何より目標を捨ててまでルカシリアを助けてくれる人なんて中々いないんじゃないか?」


「……………。」


 私は恥ずかしさのあまり、また黙ってしまった。いつもハルト様に失礼だと思いながらも、ハルト様の言葉や、時たま起こる触れ合いや視線に戸惑ってしまう。


 ハルト様のこととなると、戦いが1番得意な筈の私が全く動けなくなってしまう。私が私で無くなるような感覚に溺れてしまいそうになる。


 ハルト様の優しさと強さに甘え、私はこのままで良いのだろうか?という想いによく苛まれる。

 だけれど、最近ではその甘えているのにさえ心地良く感じてしまっていた。

 これが恋心というものなのだろうか。


「私は龍人です。ハルト様は人族です。」


「愛に種族が関係あるのかな?」


 お父様とはここの所、戦い方の議論しかしていなかった。まさか愛について語られるなんて想像もしてこなかった為に動揺してしまう。


「ハルト様は優しい方です。」


「そうだね。嘘を付くような人間とは思えない。だからこそ、ハルト君は種族なんて気にしていないと思うけどな。」


「……はい。」


 私はハルト様に…恋心を抱いている?今までは余裕も無かったから、考えている暇など無かった。しかし、今は何となくこの胸のもやもやの理由が分かる気がする。


 私はハルト様のことが好き。


 後ろ姿を見守ることも、並んで歩く横顔を気付かれないように盗み見ていることも、私の名前を呼んでくれることなど全てに喜びを覚える。


 これが恋なんだ。そして、初恋がハルト様で本当に良かった。


「さぁ、早いところみんなを安心させたいから、もう一踏ん張り頑張るか!」


 お父様が緩んだ雰囲気を締め直して、再度歩みを進める。


 ハルト様……どうかご無事で。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 龍人の里、スカイガーデンの入口へと続く滝壺へと辿り着いたのは朝日が昇る少し前の事だった。


「もう里にも戻れない事を覚悟していたよ。マナシラやルカシリアにも会えないんだろうと考えていたが、帰ってこれたんだな。俺もハルト君に礼をしないといけないな。」


「ワシもだ。ハルトの奴にはなんかしてやりてぇな。」


「モルトが会ったばかりの奴にそんなこと言うなんて、明日はゴブリンでも降るんじゃないか?」


 お父様とモルトさんは洞窟を歩きながら雑談を繰り返している。やがて出口を示す灯火が見えてきた。


「ようやく着いたか。モルト、本当は直ぐにでも送っていってやりたいんだが、この有様だから休んでからでいいよな?」


「おうよ。あたりめぇだろ!ワシもこの里なら幾らでもいられるから、気にすんなや。」


 私達は洞窟を抜けた。


 そして、スカイガーデンの入口となる美しい門の前に一人の男が立ってるのが見えた。





 それは、ハルト様。





 ではなく、ハルト様と戦っていたはずの勇者ランスロットの姿だった。


「やっほー。僕も今来たところだよっ!奇遇だねー!」


 私は事態が飲み込めず、何が起こったのかも分からないまま攻撃しようとしていた。


「落ちつけ、ルカシリア!!!!」


 お父様が私を止めると、混乱している私の代わりに話を始めた。


「アハハハッ!!!良かったねー、氷龍姫さん!攻撃されたら僕も対処せずにはいられないからね!!!」


「勇者ランスロット。貴様の行為がどういう事か分かっているのか?」


「面白い質問だねー!自覚もなしにこんな楽しいところに来ないよー!!」


「人族の道を外れれば、人族の世界から淘汰されるぞ。残りの勇者もいずれ気付くだろう。それを知っていてこんな馬鹿げた事ばかりしているのかっ!!!」


「望むところだね。僕はこの世界を楽しむ為に戦っているんだよ。この世界で独りきりになるまで僕は止まらない。」


 勇者は、一体何を言っているのだろう。何故ここに勇者がいるのだろう。

 ハルト様……ハルト様はどうしたの?


 体の震えが止まらない。ハルト様に限ってそんなことは無いと分かっているつもりなのに、恐ろしい想像をしてしまった。

 私は私の腕で自分を抱きながら、立っていられずにへたり込んでしまう。


「やはり貴様が咬んでいたか。聖教国の動きがおかしいと思ったら、そんな思想の持ち主が中心にいれば納得がいくな。それで俺が邪魔だったと。」


「半分正解だねー。残りの半分は興味本位だよ。綺麗事が大好きで鼻につく有名な強者がいたら戦いたくなるのは当たり前だよねー。でも、今日は龍人王とはやらないよ、折角だから完全に回復してからまた来るよ。今日は龍人王が復讐に燃えることが出来るように、この里を滅ぼしにきましたー!!!!パチパチパチパチ-!!!!」


 手を叩きながら子供のように勇者は笑う。


 里を滅ぼす?何を言っているの?


「と言うのは建前で、ちょっと不完全燃焼気味だから発散したくてさー。」


「きさまぁ……。」


 お父様は怒りに震えている。お父様は我慢出来るのかしら。それにしても、今はハルト様を待っていなくてはいけないのに、あぁ…勇者は邪魔だ。


「勇者ランスロット。」


「ん?どうしたのー?氷龍姫さん。」


「ハルト様…ハルト様は?あなたは決闘から逃げたのですか?」


「アハハハッ!親子そろって面白い質問するなぁ!!ハルトかぁ。残念だけどハルトなら来ないよー。」


「…………どういうこと?」


「不完全燃焼だからここに来たって言ったでしょー?いやー、弱過ぎちゃってさぁ!!!僕もある意味被害者だよねー。」


 こいつは…。こいつは何を言っている。


「ハ…ト…にを…た。」


「えー?なーにー?声が小さくて何も聞こえないよー?」


「ハルト様に…………何をしたぁぁあぁぁぁーーー!!!!!」


 絶対零度の剣を生み出し、勇者を斬り付ける。


「はぁ。どいつもこいつも弱すぎるんだよねぇ。楽しめる奴がこれだけ現れないと苛々してくるね。氷龍姫でこれじゃあ、龍人王もたかが知れてるのかなぁ。」


 勇者は転移して私の剣を避けると、戦闘中だということを意識すらしてないように話し出す。


「いいよ。余興は好きだから説明してあげるよ。ハルトはねー、この剣で突き刺して殺したんだ-。だからせめて冥土の土産に同じ剣で殺してあげるねっ!」


 ハルト様が……殺された?こんなやつに?噓だ。噓だ噓だ噓だ!!!!!


「ガアアァァァァーーーーーー!!!!」


「獣みたいに直ぐ吠える。これだから亜人は嫌だねー。」


 幾度となく斬り付ける。その全てを勇者ランスロットは躱していく。

 余裕綽々なのに、反撃もせずに。


「もっと真面な攻撃してこないと、安らかに殺してあげないよー?」


 ハルト様。私のせいで。全て私のせいで………。


「ガアアァァアアァァーーーーーー!!!!」


「うるさいなぁ。僕は苛々してるって言ってるだろぉ!!!……つまらなくなるから、そんなに死に急ぐなよ……。」


 勇者の蹴りが私の腹部を捉え吹き飛ばされていく。


 そして、勇者の剣が瞬く光るのが見えた。


「どいつもこいつも期待に応えもしない癖にキャンキャン吠えやがって。やっぱり楽しめそうに無いね。もういいや……殺しにしてあげるよ。まずはお前からだ氷龍姫!!!!」


 勇者は転移すると倒れ込む私の直ぐ目の前に現れた。そしてキラキラと輝く剣を頭上に構える。


「お望み通り、直ぐにハルトの所へ送ってあげるよ。」


 





 ハルト様……本当にごめんなさい。


 折角貴方がくれた命なのに。


 ごめんなさい。





 そして、勇者は剣を振り下ろした。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ