1-2 目が覚めたら進化してた
光の奔流の中を漂っている。上も下も分からない中を流されるままに漂い続ける。
眩しくて目が開けてられない。
目を閉じたまま、どれだけ時間が経ったのだろう……激しかった波も今ではとても穏やかになり、暖かい光に包み込まれてるようで心地良い。
ここはどこだ。
まぁ、どうでもいいか。なんだか気持ちいいし。
ふわふわとした微睡みの中のようだ。
「ハルト……。起きて……。」
頭の中に声が響く。
「うるさいなぁ。折角気持ち良く寝てるのに。」
あれ?誰の声だ?女の人の声だったみたいだけど。
気が付けば光が止んでいた。すると、今度は吸い込まれるように下に落ちていく感覚がある。
このまま落ちて死んだりしないよな。ん?……あれ、そもそも俺って生きてるのか?
落ちるのが止まると今度は全てが真っ暗だ。
「……だいじょ…か…ルト!」
今度は年老いた男の声が聞こえてきた。この声は…フォル爺さんか?
瞼が開きそうなので、ゆっくりと開けてみる。そこには心配そうな顔をしたフォル爺さんがいた。
「ハルト!目が覚めたか!よかったわい、死んだかと思って焦ったぞ。」
「すみません。あんまり覚えて無くて。」
「そうか。とりあえずこれでも飲むとよい。」
そう言うとフォル爺さんは温かいスープを渡してきた。聞くところによると、丸一日以上昏睡状態だったらしい。鑑定スキルで状態異常がないか見ても、覚醒中という見たことのない状態だったので、回復魔法だけかけて様子を見ていたらしい。
「ご迷惑をお掛けしてすみません。いまのところ特に体に異常は感じないので大丈夫かと。むしろ、以前より体が軽いように感じます。」
種を拾った日からずっと握り締めていた為、種が俺の魔力に反応してしまったようだ。
人族が使用すると死ぬと聞いていたが、種が破裂し気を失う時に、丸い光が体内に入っていくのを見た気がするが大丈夫なのだろうか。
「大丈夫なようでほんとに良かったわい。本来は魔力を込めなければ何もないのじゃが、種自体の凄まじい魔力とおぬしの魔力の相性が良かったのかもしれんな。どれ、念の為に状態異常が出てないかもう一度鑑定で見てやろう。」
お茶を啜りながら、フォル爺さんが鑑定スキルで見てくれるという。あれ?前はなんも感じなかったのに、今はめっちゃ見られてる感覚がある。なんだこりゃ。
「ぶほぉ!!ゲホッゲホッ。」
フォル爺さんが突然お茶を吹き出した。年寄りなんだから、ゆっくり飲みなさいよ。
「大丈夫ですか?」
「……。」
フォル爺さんが目を見開き黙り込んでしまった。
「あのー。どうかしました?」
「おぬし……進化しよったぞ。」
し、進化???確かに、種の光が体内に吸収されたみたいだったけど、進化ね…。死ななくて良かったなんて思ってたら、どうやらあの種はこちらの想像の斜め上を行ったようだ。
「進化…ですか。それって、人間なんですかね。」
「鑑定スキルで見れない種など初めてだしのぅ、そもそも人族で種を宿せたなんて話は聞いたことがないしのぅ……。とりあえずおぬしのステータスが凄いことになっとる。」
え?なにそれこわい。
「その身体なら種も使えるじゃろ。というかあんな異常な魔力を持った種にさえ耐えたのだから、この種は余裕じゃな。自分の目で見てみるとよい。レアもんじゃが、生き残った祝いにくれてやるわい。」
そう言うとフォル爺は鑑定スキルの種をくれた。見た目も大きさもソラマメ程度の黒い種だ。レアもんといいながら、簡単にくれるとは、フォル爺はかなり太っ腹だ。
「ありがとうございます。ところでこれは食べるのですか?」
「食べられなくはないが、かなり苦いぞ。掌に置き、種に魔力を流せばよい。おぬしの種は馬鹿でかいからかなり時間がかかったようじゃが、このサイズの種ならそれほどかからん。」
魔力を流す……。どうやったら良いのか分からないはずなのに、目が覚めてから体に纏わり付くオーラのようなものを感じていた。これを掌に集めるということなのか。とりあえず手に集めてみよう。
「こんな感じですか?」
手のに魔力を集めると、すぐに鑑定スキルの種は割れ光を放ち、キラキラした小さな光の粒が体内に取り込まれた。
「おぬし何をしたんじゃ。それに、なんじゃその魔力の使い方は。」
フォル爺はまたしても目を見開き唖然とした様子だ。どういうことなんだと聞くと、フォル爺は呆れた様子で教えてくれた。
「儂は種に魔力を流せと言ったんじゃ。可視化出来るほどの魔力を手に集めろといっとらんし、そんな濃密な魔力見たことないわい。いくら小さい種とはいえ、5分は魔力を注がねばならんものを、一瞬で砕くとはデタラメもいいところじゃ。」
どうやら魔力が可視化出来るほどに凝縮し体の一部に纏うというのは特殊な事らしい。自然と出来てしまったが、これも進化の影響のようだ。
「はぁ。立て続けにえらいもんを見てしまったわい。まぁよい、でわ鑑定スキルを使ってみるんじゃ。他人を鑑定する場合は、観察するようによく見て、頭の中で鑑定と唱えればよい。自分の場合はステータスを知ろうと考えながら、鑑定と唱えるんじゃ。」
よし、ファンタジーが俺を呼んでいる。少し、進化にビビってるが、見てやろうじゃねぇか。…………ふぅ。鑑定!
「ぶほぉ!!」
覚悟はしてたが、やはりあの種は俺の想像の斜め上を行くのが好きなようだ……。