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3-13 決戦



 全員に隠蔽の魔法を使って、大神殿の中を歩いて行く。


 そろそろ黒幕の一人である大司教が出て来る頃合かなとも思ったが、特に何も起こらず、誰にも邪魔されずに大神殿の裏庭に出た。


「大神殿からの脱出をこうも容易く進めるなんて、ハルト君は器用だな!そのうち魔法でも教わろうかな!」


 一体なにがグナシアにハマったのか知らないが、グナシアは嬉しそうに俺に話し掛けまくってくる。シリアスさに欠けている人物だな。


「お父様、ハルト様は勇者ランスロット・オーウェンから命をかけて守って下さいました。そして今度はお父様を救うためにここへ訪れ、また勇者との戦いをする約束をしたのです。」


 歩きながらルカはグナシアと別れてからの説明をした。


「君は俺だけで無く、ルカシリアやマナシラ、そして龍人族全ての恩人だな。一族を代表して心からお礼を言わせて貰う。ありがとう。」


「頭を上げてください。先ほども言いましたが、俺もルカに救われました。そしてルカの笑顔を守りたかっただけです。なのでグナシア様が無事で本当に良かったです。」


 照れくさいのでこれ以上は止めて欲しい。話を変えよう。


「ルカ、ここで一旦お別れだ。モルトさんとルカが居ればグナシア様を連れて里までは戻れるよね?」


「勇者と……戦いに行くのですね。」


「行かなければあいつは止まらないだろうからね。」


「ハルト様……私も連れて行って下さい。」


「それは出来ない。ごめん。」


 ルカを守ると約束した。ルカなら早々負けることはないだろうが、勇者では話は別だ。だから連れて行くわけにはいかない。


 するとグナシアが口を開く。


「ハルト君……勝機はあるのかい?」


「あります。あんなクズ勇者に負けるつもりはこれっぽっちもありません。」


「聞いたかい?ルカシリア。本当なら俺も行きたいところだが、今の俺たちではハルト君の邪魔になるだけだ。わかるね?」


「……はい。」


 ルカは泣きながらも、渋々了承した。


「ルカは泣いてばっかりだなぁ。大丈夫だよルカ。前のようには決してならない。約束するよ。だから、里で待っていてくれ。」


 俺はルカの頭をポンポンとしながら言うと、ルカは笑ってくれた。


「はい。ハルト様を信じて待ってます。」


 覚悟は完全に決まった。流石に一度大敗をしてる勇者となるとちょっとビビるけどここでやらなきゃ男が廃る。


 絶対に勝つ。


 ルカ達に草原を通らないように伝え、最後の隠蔽をかける。モルトに食料を渡し、大神殿を出たところで二手に分かれた。


 俺は一人、草原へ向かう。

 



☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 



 草原に辿り着くがまだまだ空は暗い。


 辺り一面真っ暗だ。


 奴はまだ来ていない。焚き火を起こして勇者を待つ。


 静かだ。


 まるでこれから起きる戦いに、


 全てが逃げ去ってしまったように。


 俺は決戦に向けて集中力を高める。


 パチパチと鳴る焚き火の音だけを聞きながら。






「来たか。」


「さすがはハルトだねっ!おまたせ!」


 勇者ランスロットは大神殿で見たときとは違う装いで現れた。見るからに勇者といった姿だ。


 銀色に美しい模様が描かれており、神々しさの剣。蒼いマントには聖教国のシンボルが描かれている。とてもクズ勇者には見えない。


「別に待ってなどいない。」


「連れないなぁ。早速だけど……準備はいいかな?」


 剣を抜くランスロットに対し、俺は立ち上がり準備万端だと言わんばかりに魔力を練る。


「つくづく連れないなぁ。まぁそーゆーのもハルトの面白いところだけどねっ!じゃあ殺し合うとしますか!!!!」


 ランスロットは自身が最後まで話しきるまで待てずに転移し、剣を横凪に振るう。転移したその先は俺の背後だ。


「毎回同じ所に現れてたら、不意打ちにならねーぞ!!」


 俺は奴が動きだすと同時に雷属性の魔力を纏い、気配察知にかかる前に反転し、奴の剣をかいくぐる。

 ついでに前蹴りのおまけ付きだ。


「ぐぅっ!!!」


 ランスロットは吹き飛びながらも直ぐさま痺れの状態異常を回復させて、体制を立て直す。


「金色の鎧……あの時の技だね?鎧のようだけど実際は防御の為では無く、攻撃とカウンターに特化した雷属性の固有スキルってところかなぁ?あっ!つまらなくなるから答えなくていいからねー!それにしてもすごい魔力だね……………。アハッ…アハハハハハハハハッッ!!たまらないよ!!!!君をグチャグチャになるまで切り裂いて殺したい!!!疼いて疼いてどうにかなりそうだ!!!!」


 今度は転移をせずに真っ直ぐこちらへ走り出した。そして奴の剣が純白の輝きを放つ。


「今度は、避けられるかなぁ?」


 ランスロットはニタリと笑い、剣を上段に構えると袈裟斬りのように振り下ろす。


「神の光で全て断ち切れ…アル・ランバスト!!!!」


 

 ヒヤリと冷たい何かが頸筋を撫でていくのを感じた。恐らくそれは……。

 

 死。


 肩口から斜めに分断される姿が瞬時に頭に浮かぶ。


 この攻撃は受けてはいけない。


 瞬時に受けた感覚を頼りにし、咄嗟に斜めに傾けたシールドを前方に飛ばすように押し出して受け流そうとする。

 だが、今までどんな攻撃でも(ヒビ)一つ入らなかったシールドが、ランスロットの剣に当たった瞬間に粉々に砕けてしまった。


「くっ!!!!」


 無理矢理身体を捻って、剣筋から外れるようにしてギリギリで躱す。


「アハハハハッ!!ほんとにハルトはすごいなぁ!今のを避けられるとはねー!!!!必殺技なのになぁ!たまんないなぁー!!!!」


 ランスロットは言葉とは裏腹に全然悔しそうな表情をしていない。

 

「うおっ……。」


 剣を振っただけとは思えない轟音に思わず背後を見ると、地面が…大地が斜めに深く切り裂かれ、その深さが推測できないほどに抉れていた。


「まるで地割れだな。」


「褒めてくれるのかな?ありがと!ハルトも早く本気で来なよ!!!!」


 いちいちウザったい。戦闘中くらい真面目にやれ。


「次はこっちのターンだぞ。アイスウェーブ!」


 俺は高さ4メートル、幅10メートル程の氷の津波をランスロットの真正面に放つ。


 恐らくランスロットは転移してくるだろう。そう思い気配察知に意識を向け、いつでもカウンター出来るように構える。


 ところが氷の津波は突如弾けた。


「そんな小細工……ハルト。僕を馬鹿にしてるのかい?」


 ランスロットは静かに口を開いたが、目は怒りに震えている。どうやら、最初からフルスロットルで行かなかったことに怒り心頭に発すと言ったところか。情緒不安定過ぎるだろ。


「僕は少し()を過大評価していたみたいだ。」


 ランスロットは右手を少し先の地面へと向ける。すると突如、円形に古代文字の様なものが描かれた魔方陣が浮かび上がりクルクルと回り出した。


「今の()とはつまらなすぎて戦う気が起きないよ。ちょっと罰が必要みたいだね。紹介するよ、大司教だ。」


 魔方陣が一際大きな光を生んだ後、そこには白髪の老人が立っていた。


「こ、ここは?ランスロット様!」


 老人は狼狽えながらも、ランスロットを見つけると歩み寄る。


「ランスロット様!一体どういうことか説明してもらいましょうか!」


 ランスロットを見るなり老人は激昂した。何やら理由がありそうな雰囲気だ。


「説明か。気分悪いから手短にね。お前は器じゃ無いから要らないって感じかなぁ。」


「そ、そんな……大司教ですぞ。……勇者如きが大司教を謀ったと。」

 

「そうだよー。全部僕の玩具だからねー。」


 すると大司教は捨て身でランスロットに向かって走り出した。


「許されぬ!大司教に歯向かいおってぇーーー!!!!!」


「そもそもあんたの力で大司教になれたわけじゃないでしょ。そんなだから使い捨てなんだよー。」


 ランスロットは気怠そうに大司教の頭を掴み、地面へと叩き付けると、大司教はピクリとも動かなくなってしまった。


「いくら何でも弱すぎるでしょ。はぁ、尽く使えない奴だなぁ。」


 溜め息をつきながらランスロットは大司教に回復魔法をかける。そして、死なない程度に回復したところで、以前聖教国騎士団長が転移しよう取り出した魔道具と同じ玉を取り出した。


「これはね、魔族から買い付けたものなんだよ。ハルトも鑑定持ちだから知ってるよね。…数が少ないから騎士団長君に渡したのに失敗してくれたときはムカついたよー。魔物に使うと強力な亜種が生まれるんだけどね。人間に使うとどうなるのかな?ハルトみたいに人外になるかな!」


 大司教に無理矢理握らせて、ランスロットは間接的に魔力を流す。


「ぐがぁーーーー!!!!」


 すると大司教は白目を剥きながら断末魔の叫び声をあげる。仰け反り、のたうち回り、叫び続けて、やがて大司教は静かになった。


 ところが、ドクン・ドクンと脈打つように大司教は再度動き出した。



 


 直後、大司教は人を捨て、異形の魔物へと変身を遂げる。



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