3-12 地下牢
「お父様!!!!!」
「グナシア!!!無事か!?」
ルカとモルトは声を上げ走り出そうとするが、手を横に振り引き止める。
気配察知が働いたのだ。
「来た瞬間に気付くなんて、さすがハルトだねっ!!」
馴れ馴れしい奴だな。しかし、こいつはやはり強い。転移自体も厄介だが、隙が全くない。
しかも、ルカとモルト、手負いのグナシアのいるこの場でクズ勇者を相手取るとなるとかなり厳しい。
「そんな警戒しないでいいよ。今ここで君と戦う気は無いから。こんなとこじゃ邪魔なものが多すぎて、つまらないからね!」
和やかに爽やかに笑ってくれるが、微塵も油断を感じないし、いつでも戦えるといった魔力の流れだ。
「どういうことだ。」
「どういうことだもなにも、今言った通りだよ。僕は戦闘狂ではないんだけどねぇ、ハルトと戦った日から毎日毎日恋する乙女のように君のことばかり考えていたよ!こんな所では本気出せないでしょ?だからここじゃ何もしないよー!」
ヘラヘラしてるが本気だろう。薄くなった目は笑っていない。
「お前がどう思おうが勝手だが、俺はグナシア様をここから助け出さないといけない。だからそんな暇は無いな。」
「アハハハハッ!意外とせっかちなんだなぁ!いいよ、氷龍姫にでも龍人王は連れ出して貰えばー?僕は追わないから安心して良いよ。」
「信じられんな。聖教国はどうする。裏切る気か?」
「何を勘違いしているんだい?僕は神なんてどうでも良いんだよ!この街は居心地が良いから好きだけどね。本当は他の国も聖教国を操作して手に入れるつもりだったけど、今はハルトがいるから全てどうでもいいかなぁ。」
何だか掴み所のないやつだな。奴は否定していたが完全に戦闘狂じゃねぇか。
「それだけの強さがありながら、何故勇者とまで名乗りクズな事ばかりしてるんだ?」
「お喋りが好きなんだね。いいよ、これも余興だ。折角だから付き合ってあげるよ。確かに僕は三勇の一人、勇者ランスロット・オーウェンと呼ばれている。だけど自分で呼んだ事なんて一度も無いんだよ。勝手に周りが呼んでるだけだからねー。たまたま聖教国にいて、攻めてきた魔物や他国の兵を遊んであげたら勝手に祭り上げられたのさ。ただ単に暇だっただけなんだけどね。」
いちいちウザったい奴だが、質問に乗ってくれるなら好都合だな。
「聖教国の前大司教は真面目な男だったんだけど、だからこそつまらなくてさー。その側近が野心の塊みたいな奴だったから、僕が前大司教を暗殺して、影で動いて上げて大司教にさせてやったんだよ。まぁ本人は馬鹿すぎて気付いてないみたいだけどねー。この国を纏めてる教皇も大司教の話を鵜呑みにしてばかりだし。神託なんて下りてないのに、残念な国だよね!」
本当にこの男は腐っている。出来ることなら今すぐに両断してやりたい。
「何故龍人族を狙ったんだ?」
「龍人族は強いらしいから、興味が無かったかと聞かれたら嘘になるかな-。でもね、理由としては龍人王が邪魔だったからかなぁ。そいつの正義感が邪魔なんだよ。」
「邪魔?」
人を救ったりしてることが邪魔だとは何て言い草だ。
「そう。聖教国の大神殿の下にはね、昔封印された魔王が眠っているんだ。次の魔王がいつ生まれるか分からないのに待ってなんていられないでしょー?だから、早く戦ってみたいから手っ取り早く、この下にいる魔王の封印を解こうと思ったんだよ。」
「それとグナシア様は関係ないだろう。」
「あるんだよ。中々厄介な封印でね。だから魔族の力を借りて色々試していたんだけど、それを龍人王が勘付いちゃってね。出る杭は叩き切られても仕方ないでしょー?だから討伐したんだよ。ね?分かるでしょ?」
そんなことのために、グナシアは傷付き、戦争は起き、ルカを苦しめたというのか。
「まぁ本筋はそんなとこだけど、後は馬鹿な大司教がやっただけだから僕は関係ないので無罪だよー。あくまでも僕はハルトの動向を知るために手伝ってただけだからねー。それに今は魔王復活は後回し。今はハルトからだから!!!」
やっぱりただの戦闘狂だな。こいつは本気で許せないな。
「これ以上焦らされたらここで暴れたくなっちゃうから、移動しない?」
「わかった。だが、このまま行くわけには行かない。」
「あー。そうだよねー。…はぁ、まあ戦えるなら良いか。ほんと焦らすの好きだね-!じゃあ、用が済んだらすぐにハルトが大量虐殺した草原に来てよ!ハルトが到着したら僕もすぐ行くからさ!でも、あんまりのんびりしてると痺れを切らして嫌がらせしちゃうかもしれないから気を付けてねー!!」
なにが大量虐殺だ。正当防衛だろ。まぁとりあえずこれでこの場は乗り切れそうだ。
「わかった。すぐに向かう。」
「約束だよー!!」
これから殺し合うというのに軽い調子で勇者は答えると、すぐに消えていった。
俺は念の為スキルを使って奴を確認するが、完全に何処かへ消えていた。
「ルカ、大丈夫みたいだ。」
危険が無いことを二人に伝えると、グナシアのもとへと走り出した。
俺もそれに着いていく。
「お父様、大丈夫ですか?」
声をかけて急いで目隠しを解いていく。
「ルカシリア……何故戻って…きたんだ。」
「お父様を見捨てる何で出来ません!」
今は再会を喜んでる時間はないので、ちょっと割り込ませて貰おう。
「ルカ、すまないけど先に怪我を治してもいい?」
「すみませんハルト様!宜しくお願いします!」
俺はルカの父親の傍へと行き首に付いている鎖を切り離し、魔力を練りはじめる。
「ルカシ…リアの友達だね。早く、ここから……逃げなさい。」
辛そうにグナシアは口を開く。
「ハルトと言います。少し回復魔法を使わせて下さい。部位再生。」
勇者との戦いが待っているので、本当は魔力を温存したいところだが、今だけは別だ。
何たってルカの為にここまで来たんだからな。
魔法を放つと切断されていた両手首と両足首が付け根から光り輝く。
すると見る見るうちに指先まで形成され、完全に治っていった。よし、成功だ。
「この魔法は…。一体君は…。」
俺は説明は後回しにして、それ以外の細かい怪我を治すために再度魔法をかけていく。
数回ヒールをかけると折れていた翼も治り、細かい切り傷も治っていく。
「ハルト君、君はすごい魔法使いなんだね。あんなにボロボロだった筈がスッカリ治ってしまった。助かったよ、ありがとう。魔力が無いからまだ戦える状態ではないけどね。」
申し訳なさそうにグナシアは頭を下げる。
「グナシア様。俺もルカに救われた口です。なのでこれは恩返しですので気にしないで下さい。それより早くここを脱出しましょう。」
「そうだね。里の皆も心配しているだろうから、早く戻ろう。」
年上に頭を下げられ居たたまれずに早めの脱出を提案する。
グナシアもそれにすぐ同意して、ルカとモルトに肩を借りながら歩き始めた。
さぁ、俺の本番はここからだ。




