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3-11 不穏な予感




 蝙蝠野郎の次元の檻から出るために、俺は次元魔法をマジッククリエイトで創って脱出する予定だった。


 だが運の良いことに蝙蝠野郎が逃げようとしたひび割れが残っていたので、魔力温存の為に割れ目から出て行く。


「ルカ、大丈夫?」


「はい。大丈夫です。ハルト様も怪我はありませんか?」


「大丈夫だよ。中々のスキル持ちだったな。」


「はい。ハルト様でなければ勝てる者は殆どいないかと。魔族は人族に比べて戦闘能力が遙かに高い上に、珍しいスキルを持っている者も強者では多いので危険なのです。しかし、先程の者は戦闘能力は低めで、しかも己のスキルに溺れていました。戦闘に特化した者も多いので、魔族には注意して下さい。」


 なるほど。魔族は中々骨のある種族のようだ。人族のように個体数が多いわけでは無いのがせめてもの救いらしい。


 出た先は本来在るはずの町並みであった。俺達が出てから少しして割れ目は消えていった。蝙蝠野郎、成仏しろよ。


「じゃあ先を急ごうか。」


「はい、ハルト様。」


 次元の中で行っていたように俺達は路地から路地へと進んでいく。

 屋根づたいに忍者のように飛んで跳ねて進んで行ったりもしながら、徐々に大神殿へと近付いていった。


 やがて俺達は大神殿へと辿り着いた。大神殿と言うだけあって、かなり巨大な建物だ。むしろ意匠がなれば要塞と呼んでもいいだろう。


 サーチと隠蔽と気配察知をフル活用して侵入する。思ったより人の数は少なく、スラスラ進むことが出来た。

 どうにもならない兵士だけはサクッと無力化して進み、それ以外はスルーして走って行く。

 しばらくすると地下へと続く扉へと辿り着いた。


 重い扉を軽く開くと眼前にはすぐ階段があった。サーチではルカの父親はこの先にいることになっている。


 なっているんだが、余りにも呆気ない。大神殿という敵の本拠地にいるにも関わらず、こうも簡単に目的地まで来られるのだろうか。

 そして、あの蝙蝠野郎は勇者の手先だった。何故勇者は出てこないんだ。そして大司教までもがサーチに引っ掛からない。

 前の時に、鑑定をブロックした魔道具のように、今回もサーチに引っ掛からない魔道具でも使っているのだろうか。


 そういえばクズ勇者の魔道具で結界があると聞いていたが、それすらない。


 どのみち油断できない状況には変わりないので、俺は気を引き締めなおす。


「ルカのお父さんはこの先みたいだ。でも油断しないでいてくれ。」


「…はい、ハルト様。」


 気配察知を全開にして、蝋燭に点される石で出来た薄暗い階段を一段一段下りていく。


 するとそこは情報通り地下牢となっていた。通路の左右には牢屋があり、様々な種族が幽閉されていた。


 歩いていくと突然牢屋の一室から声がかけられた。


「ル、ルカシリアの嬢ちゃん!!!!!」


「モルトさん!何故牢屋などに!!!」


 そこには背の低いヒゲもじゃのおっさんがルカの名を呼ぶ姿があった。


「…ワシはグナシアが魔王だなんて噂を聞いた。奴が魔王だなんて有り得ん。だから教皇に直訴しに来たんだ。だが、教皇に会う前に大司教とやらに捕まってこの有様だよ。」


 ルカの話によると、モルトというおっさんはドワーフの天才鍛冶職人らしい。

 モルトは天才故に頑固で有名で、中々頼まれた仕事を引き受けることはない。


 しかし、以前ドワーフの村が魔物の群れに襲われ、壊滅的なダメージを受けた時にグナシアに村を救われたらしい。

 その時にモルトとグナシアは出会い、馬が合い意気投合し、モルトはグナシアの為に剣を打ち、グナシアはモルトの為にうまい酒を探す仲になったという。


 人族至上主義の国に、ましてやその様な国のトップクラスに直訴しにくるなんて、良い奴だがぶっ飛んでるな。まぁ、それだけグナシアは信頼されているということだ。


「嬢ちゃん。グナシアを頼んだぞ。」


「もちろんです。」


 モルトはルカにグナシアを託した。あれ、モルトはここから出ないのか?出れないと思ってるのかな。


「ところで、そこの人族の小僧は嬢ちゃんの男か?」


「ッ!!…………。」


 モルトは唐突に爆弾発言をした。ルカは顔を真っ赤に染めて下を向いて黙り込んでしまった。

 ルカが照れているのは、色恋沙汰に慣れてないだけで、俺なんかを好きなわけがない。しかし、ほんと可愛いな。


「モルトさん、初めまして。俺はハルトと申します。失礼ですが、今は時間がありません。とりあえず先に進みたいのですが、宜しいですか?」


「つまらなそうな奴だが、芯はしっかりしてそうだ。お前も頼んだぞ。」


 モルトは俺にもグナシアを宜しくと言ってきたが、出る気無いの?


 ルカを見るとコクリと頷いたのを確認したので、モルト本人に聞くのも面倒だし時間の無駄なので、牢屋を問答無用で壊すことにした。


「おいおい、ここの牢屋は特別な作りだ。簡単にゃ壊せねぇぞ。ワシのことはいいから先へ行け!」


 牢屋の格子に手をかけ、強引に引き千切ろうとするが何故かあまり力が入らずうまくいかない。ただの鉄くらいなら余裕なくらいの肉体は手に入れた筈なんだが。


 ついつい悔しくて、掌に炎の魔力を集めて牢屋の格子を一気に焼き切り裂いた。


「おいおい、おいおいおい!小僧はほんとに人族なのか?!」


 さすがに手をかけた以上は、出来ませんでしたとは言えないので、つい意地を張ってしまった。

 格子の扉についた錠前に土魔法を流し込んで鍵を作れば良かったのではと、終わってから気付いた。まぁそれも妨害出来る仕組みが取り入れられてるかもしれないし、俺は気にしないぞ。


 扉がガタリと外れ落ち、それを掴んで退かすとモルトが出て来る。


「ハルトと言ったな。助かったぞ。助けて貰ったついでにワシも連れて行ってくれや。」


 警備兵が巡回して回っている大神殿の地下牢で助けといて、はいさいならーとは言えるわけも無いので、俺は快諾した。


 モルトを連れて、通路を更に進んでいく。やがて突き当たりに一際重厚そうな扉が出て来た。


 この先にルカの父親はいる。


 そう思うと緊張してきたが、罠の可能性もあるので落ち着いて結界をルカとモルトに張る。

 モルトは驚いていたが声には出さなかった。俺も結界で体を包み込み、扉に手をかけると鍵は開いていた。


 扉をゆっくりと開いていくとそこにいたのは……





 目隠しをされて、


 翼を折られ、


 両の手首と足首を千切られ、


 首を鎖に繋がれ座り込む、


 グナシアの姿だった。



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