3-9 達者でな、騎士団長
俺は騎士団長を黙らせるために土魔法の枷で拘束する。
明らかに冒険者達より弱い。弱すぎる。こんなんで騎士団長が勤まるのだろうか。
しかも聖教国騎士団長というかなり位の高いであろう人物に、あんな魔道具で捨て駒扱いするなんて有り得るのだろうか。
なんか焦臭いぞ。クズクソ勇者が絡んで何かやってるのだろうか。
「おい。お前らに今から魔法をかけて質問する。嘘をつけば死ぬからな。お前らを捨てて逃げようとするようなクズが騎士団長をやってる国のために嘘をつきたければつけばいい。」
後のために魔力を温存したいのでもちろんハッタリだが、今なら効果抜群だろう。
「因みに聖教国へ帰還しないと誓うなら一切手だしはしない。無論、騎士団長は別だ。自殺願望のあるやつは手を上げろ。」
上手な犬の飼い方は雨と鞭だ。逃げ道も用意した。しかも自ら手を上げる行為自体勇気がいるはずだが、上げない方を生きる選択にしたので、おそらく全員上げないだろう。
少し待つが誰一人として手を上げる者はいなかった。
「貴様らぁ!!神への冒涜だぞ!天罰が下るぞ!!!」
「うるさいぞ雑魚。」
俺は鼻だけ空いた土のマスクで口を覆う。未だにモゴモゴと叫んでいるが、大分マシだな。
嘘をつくと死ぬ魔法を全員にかけていく。ただの濃密な魔力を流しただけだが。
「では、質問を開始する。一つ目は勇者が何を考え誰と共謀して何故龍人族を狙ったか知ってる者はいるか?」
質問をすると、少し間があった後に一人が手を上げた。
「詳しい話は知らない。余程トップに近い者しか聞かされてないはずだ。所詮我々は騎士団の部隊の1つでしかない。神託が降りたので聖戦をすると言われて来ただけだ。ただ噂では教皇様は勇者ランスロット様と大司教様の言いなりになり決めたのではないかとも聞いている。」
火のない所に煙は立たないと言うからな。恐らく大司教とやらも何かあるな。まぁそいつらの件は後回しだな。まずはルカの父親からだ。
「では次の質問だ。氷龍姫の父親は生きてると騎士団長が言っていたが本当か?」
「ああ、本当だ。少なくとも我々が聖教国を出るまでは龍人王は生きていたはずだ。監禁されてはいるが。」
「そうか。では監禁されてはいる場所は分かるか?」
「まず間違いなく、大神殿の地下牢だな。あれ程の人物を普通の牢屋に入れるとは思えん。地下牢にはランスロット様の持っていた魔道具により結界が張られている。例えAランクの魔物が来ても突破出来ないだろう。」
なるほど。これは有力な情報だな。ありがたいぜ。
「質問は以上で終わりだ。敵対さえしなければ、俺はお前らに一切手を出さない。」
「分かった。因みに騎士団長はどうするんだ?」
うーん、そういえばこいつどうしようかな。こんな奴殺す価値も無いし。
「森かな。」
「森?」
「ああ。森の深くに捨ててくる。手ぶらにして。」
「そ、そうか。ならば問題ない。後で追い回されても厄介だからな。」
確かに逆恨みも有り得るし、脱走兵は厳しい処罰がされるだろう。
「ルカ、少し待ってて。よし、騎士団長いくぞ。」
「モゴゴゴーーー!」
何言ってるかわからんな。最高だ。
俺はさっき冒険者を投げたように森深くに行き、騎士団長を投げ捨てる。持っていた鎧や武器はインベントリに強制収納してある。
「達者でな…。」
俺はルカのところへまた1分で戻った。
「ハルト様、お帰りなさい。」
「ただいま。ルカ、疲れてないかい?休憩する?」
「私は殆ど何もしていませんから。ハルト様がお疲れでしたら休んで下さい。」
ルカはまぢ天使だなぁ。龍人じゃなくて龍天使だ。龍女神か?
「ルカが大丈夫ならこのまま聖教国へ急ごう。」
「ありがとうございます、ハルト様。」
やっぱり気を遣っていたんだな。申し訳ないので、頑張って働いて返さないとな。
「あっ、もう行って良いから。その代わり約束は守ってくれ。」
「わ、わかった。感謝する。」
二人の世界に飛び立っていた為に、騎士団長の側近共のことを忘れてた。
すると、ゼゼ率いる飛行部隊がやってきた。
「な、なんだこれは!何があったのだ?!」
パニック状態だが、草原地帯の戦いは終わったので、引き続き里の周辺の事を頼むと、説明を求めていたが渋々帰って行った。
そうして俺はルカを背負い聖教国へ向けて出発した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リスキア聖教国の東に位置する草原を立ち1時間程経過した時、それは見えてきた。
「すげぇな。あれが聖教国か。」
「はい。川の向こうは聖教国の領土です。」
そこには白い建物が綺麗に等間隔に並んだ街並みが見えてきた。そしてその一番奥に巨大な建造物がある。隅々まで意匠が凝らしてあるようだが、神殿という規模では無い。
「あのデカいのが大神殿だよな?」
「はい。ハープルム王国の王都にある王城のようなものですね。あそこに聖教国のトップである教皇もいます。」
教皇かぁ。大司教やクズ勇者みたいに、またクズなのかなぁ。ラドゥカみたいな盗賊やってる奴の方が良い奴だなんて、異世界は変わってるな。
「じゃあ、あそこにルカのお父さんがいるんだな。よし、これ以上飛んでいくと目立つから、ここからは降りて歩いていこう。」
俺は誰も居ないのを確認して、地面に降り立つ。
「とりあえずこの辺で一旦休憩して、遅めのお昼ごはんにしようか。もう少し暗くなってから神殿には入ろう。」
俺はインベントリから岩山で焼いて仕舞ったままにしといた肉と、大奮発のフォル爺弁当を取り出し、ルカへ手渡す。
「ありがとうございます。」
「好きなだけ食べてね。」
「あれ?焼きたてみたい…ですね。ハルト様は何でも出来るのですね。」
ルカは驚くのにも慣れてきたようで、美味しそうに焼いた肉と特製弁当を食べ始めた。よし、俺も腹拵えしてボス戦に備えるとするか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「中々氷龍姫捕縛の連絡が来ませんねぇ。苦戦してるんですかねぇ。」
大神殿にある隠された部屋で大司教が勇者ランスロットに問いかける。二人はいつもここで密会をしている。
「あぁ言ってなかったっけ?三万の兵ならほぼ全滅したって、ヌーバが言ってたよ-。まぁあいつが出張ってきたから当然だよね。」
「全滅?!有り得ませんねぇ。あいつとはランスロット様が1度手合わせしたという男ですかねぇ?」
大司教は信じられないと言った様子だったが、相手が勇者なので事実だとすぐに理解した。
「そうだよ!あいつかなり強かったからね。数だけの雑魚をいくら集めても勝ち目はないよ。僕も苦戦はするかも。」
「あれでもこの国の精鋭を集めたのですがねぇ。」
「もうすでに近くまで来てるんじゃないかなー。まぁその時は楽しませてもらうけどね。早く来ないかなぁ。」
勇者は終始ニコニコとしながら話していたが、闘いを想像していつの間にか笑みはニヤリとした何かを企むような表情に変わっていた。
「ランスロット様がリスキア聖教国に居てくれて心強いですねぇ。では、私も念のために準備しときますかねぇ。」
大司教と勇者は大神殿の密会を終えてそれぞれ戦いの準備のために部屋を出た。