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3-8 草原地帯にて





 俺が両手を地に着け魔力を流し込む。すると放射状に魔力が地面を広がっていく。


 もうこれ以上ルカに攻撃はさせない。こんな良い子に暴力で向き合う腐った宗教に入ったことを後悔させてやる。


 直ぐさま俺はルカを抱いて空へと飛び立つ。奴らは馬鹿だから自分達の放った魔法の爆風で土煙が立ち、俺たちが既にそこにいないことすら気付いていない。


 …魔力は充分行き渡った。さぁ抵抗出来るか見物だな。


 魔法を発動すると、ズズンと地鳴りがすると共に大地が揺れ出す。並みの者なら立っていることさえままならないほどの震度だ。


 そこから更に魔力が通った道が割れていく。地割れに呑まれるのを回避した者達も、隆起した地面に転がされて落ちていく。


 一発の魔法だけで数千人が戦場を離脱した。


 そうなっては戦場は阿鼻叫喚だ。パニックでどうして良いかも分からずに退いていく。

 しかし、最後方へと行くほど落ち着いた様子を見せている。奥の方へと行くほどに強い者がいるようだ。


「ルカ、勇者がどこで出るか分からない。魔力を温存したいから、手伝ってくれないか?」


「はい。もちろんですハルト様!」


 ルカに水魔法で俺が望んだものと近いのがあるか聞くと、攻撃魔法ではないヘビーレインという魔法が良いと教えてくれた。


 ルカに頼むと伝えるとルカも直ぐさま詠唱を開始した。


 すると詠唱を始めてすぐに大雨が降り出した。


 これで舞台は整った。


地這う百雷龍(ライトニングヒュドラ)。」


 俺の周囲を数多の雷が落ちていく。すると地面から百首の雷で出来た龍が地から顔を出す。


 その百首の龍が雷鳴の咆哮と共に動きだすと、目にも止まらぬ速さで這い回り、騎士団を殲滅していく。龍の顎の直撃を逃れた者も直ぐさま感電していき焼け焦げる。


 我ながら目の前の光景に驚愕したが、三万の狂った奴等を止めるには闘うしか無いので仕方ないと、すぐに自分の中で処理した。


 雨が降った範囲を超えてもライトニングヒュドラは止まらず動き回る。まるで本当に生き物を召喚してしまったんじゃ無いかと思えるほど暴れ回っている。

 

 そして気付いたときには三万の兵がほぼ壊滅していた。


「ルカ、あと少しだ。行こう。」


「はい、ハルト様。」


 ルカがあまりの光景に呆気に取られてぼーっとしていたが、声をかけるとすぐに返事をしてくれた。大丈夫そうでよかった。


 残党のいる最後尾へと飛んでいく。すると三カ所で生き残りが固まっていた。


 最初の集団は魔法兵のような奴らだ。土魔法で作った防御壁の様な物から此方を覗いている。


 固まってくれてるなら話は早いので、雷でも落としてやるかと考えていると、ルカが制止してきた。


「ハルト様、今度は私が行きます。少し休んでいて下さい。」


「ありがとう。じゃあ折角だからお願いしようかな。」


 了承すると、ルカはこちらを見て微笑んだ。そしてすぐに詠唱を開始し、魔法を放った。


 10メートル程の氷の塊が防御壁目掛けて落ちていき、直撃すると土の防御壁ごと魔法兵達を押し潰した。


 氷龍姫と呼ばれるだけ合って、氷魔法の発動が異常に早い。


「流石だな、ルカ。」


「いいえ。ハルト様の足下にも及びません。」


 謙遜しながらもルカは嬉しそうに微笑む。まるで氷の女神のようだ。


 すると今度は魔物の気配がしたので振り向くと、1メートル程の青みがかった鳥が飛んできていた。


 鑑定すると、ファイアーショットと呼ばれるBランクの魔物だった。


「いくのよ!ピーちゃん!!」


 今度は声のする下方を見ると、こないだ助けた冒険者パーティーがいた。よそ見をした瞬間に鳥から魔力の気配がしたので視線を戻すと、一気に加速して突っ込んできた。

 

 よく見ると、後方に炎を噴射して加速しているようだ。俺の飛行と同じだな。


「てい!」


 半身になって突撃を避け、手刀を首に落とす。すると、鳥が落ちていった。


「ピ、ピーちゃん!?」


 灰色のローブを身に包んだ女が慌てて鳥に向かいダッシュしていく。ギリギリ鳥をキャッチした女が喚いている。


「あんた!よくもパオちゃんに続きピーちゃんまで!絶対許さない!あんた達、時間稼いで!」


 すると、二人の男が現れた。一人は大剣を担ぎ如何にも戦士風な男。もう一人は全身が盾だと言わんばかりの鎧とその鎧に二つの大きな盾がくっついた男だ。


「ハンナはほんとに自由だな。付き合わされるこっちの身になってほしいぜ。」


 戦士風な奴がやれやれとしている。あいつ前に会話したやつだな。


「あの時の冒険者達か。どういうつもりだ。」


「ふん。あの時はただの偵察だ。今度は戦争に来ただけだ。」


「なんだクズだったか。時間が惜しい、早くやるぞ。」


「ちっ。行くぞクルーパー!」


 大剣戦士と盾鎧君が同時に走りだした。


「ルカ、ちょっと降りていいかな?」


「もちろんです。」


 ルカの許可も下りたので、降下して着地する。ルカを下ろし、二人に向かって走り出す。


「空にいればいいものを。舐めてると怪我するぜ!フレイムスラッシュ!」


 横凪に大剣を振るうとブーメラン状の炎がこっちに向かってくる。それを結界で作ったシールドで走りながら防ぐ。


「今度はこっちのターンだ。」


 俺は土魔法で石礫を大量に飛ばす。


「そんな初級魔法が聞くと思ってんのか?」


 大剣戦士がそう口にすると同時に盾鎧君が俺の多量の石礫(手抜き魔法)を弾いていく。

 時間が勿体ないので雷の魔力を纏い一瞬で大剣戦士の背後を取り、左ジャブを脇腹に決める。その勢いのまま盾鎧君に盾ごと右ストレートをくれてやる。


 するとジャブをもらった大剣戦士は白目を剥き前に倒れ、盾鎧君は盾に大穴を空けながら吹っ飛んでいった。死んだかも……。


 さっきまで岩陰に隠れていた僧侶女が慌てて盾鎧君に走り寄っていく。しかし、今の俺は甘くない。僧侶を肩に担ぐと空へと飛び出し、山の奥深くまで俺は全速力で飛んでいく。

 

 もちろんルカに結界は作ってきてからだ。


 すぐに中々戻れないであろう地点までくると上空から放り投げると、アビャビャーとなんとも情けない声で落ちていった。よし、すぐに戻ろう。


 また同じ道を戻ること1分。灰色ローブの魔法使いテイマーが腰に手を当てて自信満々で俺を待っていた。


「無駄な時間を使わなきゃ良かったんじゃない?折角私達を倒せるチャンスだったのに、残念だったわね!」


 こいつは何を言ってるんだ?馬鹿なのかな。


「なんとか言いなさいよ!……ちっ。今に後悔させてやるんだから!出ておいでクロちゃん!あいつをやっつけちまいなさい!!」


 すると前方から猛スピードで空中を走ってくる黒い影が見えた。


「調子に乗ってるからよ!クロちゃんを友達にするのに丸1年かかったんだから!私の可愛い黒くて強くてふわふわなクロちゃんに八つ裂きにされなさい!」


 鑑定を使ってみるとブラックグロウというB+ランクの魔物だった。黒い豹に羽が生えたような見た目だ。


 もう面倒くさいので、試しに新たな(本来ならスキルだろう)魔法を使ってみる。

 魔法名は覇王の威圧(コウアーション)


「覚悟はいいな黒豹……ハァッ!!!!!」


 吸い込んだ息を一気に吐き出し魔法を生む。すると空中を走り飛んでいた黒豹は慌てて急停止した。


「選ぶと良い。馬鹿な主のせいで儚くここで命を散らすか、自分の故郷に帰って平穏に暮らすか。」


 黒豹は尻尾を垂らしてクルルッと無くと、反転してどこかへ飛んでいった。なんとも使い勝手のいい魔法だな。


「ま、待ってクロちゃん!!私のテイマースキルが解除されるなんて……。あんた……よくもクロちゃんまで逃がしてくれたわね!ウィンドアロー!」


 風魔法で作った複数の矢を灰色ローブ女は放ってきた。テイマーが直接攻撃してくるということは、詰んでいるか余程悔しかったからか。


 俺は結界を手に包む。そして迫り来る矢を掌で全て受け止める。


「う、嘘でしょ。なんなの?!あんた最低よ!ほんと最悪!!私達はAランクのライトクラウンよ?!それなのに一人でこんな……勇者でもないのに!空気読んで死になさいよ!!」


 あー、よく喋る奴だな。ヒステリックな女は嫌いだ。なんて考えているとルカがキレた。


 一気に女へ接近し、頭を掴むと地面に叩きつけた。足を頭に乗せてまるでどこかのサディストな女王様のようにグリグリしている。


「黙りなさい。ハルト様を侮辱することは誰一人として許しません。」


 地面にめり込んでピクリとも動かなくなった。生きてんのかな。テイマーだから近戦弱そうだし。まぁ自業自得か。


 よし、冒険者制圧完了。あとは敵本陣だけだな。あそこには見事に裏切られた騎士団長がいるはずだ。


 俺は歩いていくのも時間の無駄なので再度ルカを抱っこして飛んでいく。すると直ぐさま前方から魔法が飛んできた。


「いきなり魔法打ち込んでくるなんて、卑怯な奴だな。」


 俺は結界で受けるのさえも苛つきそうなので、飛んでくる様々な種類の魔法を全て弾いていった。


「やはり、貴様らは魔王の関係者なだけある。でなければこの圧倒的な数の利を覆すことなど不可能であろう。ましてやあの人数を殺して平気な顔をしているのが何よりの証拠だな。」


 なんて安い挑発なんだ。分かっていてもイライラする。この騎士団長性格悪すぎる。


「なんとでも言え。俺が見てきたルカは最高に良い子だし、龍人達も良い奴ばかりだ。少なくとも聖教国なんて腐った国の奴等よりはな。」


「ふん、まぁいい。どのみちお前らはランスロット様に殺される運命なのだ。残りわずかな命でせいぜい足掻くが良い。」


 騎士団長が更に嫌みを重ねた後、魔道具のような玉を取り出した。

 

「これはランスロット様に頂いた貴重な品でな。1度だけ我等の国の大神殿に転移出来るのだよ。出来れば使いたくなかったんだが、背に腹はかえられん。こんなところで死ぬわけにも行かないからな。」

 

 そう言うと騎士団長は含み笑いをしながら更に話を続けた。


「言い忘れていたが、魔王グナシア…お前の父親ならまだ生きているぞ。まぁ、娘が聖教国の民を大量殺戮したと俺が報告をすればすぐに死刑になるがな。ではさらばだ。」


 クズだ。クズ過ぎる。


 俺は足に雷を纏わせて一瞬で騎士団長から宝玉を奪う。そして鑑定をしてみると、魔の宝玉と出た。どうやら使用した者を魔物化してしまう物のようだ。


「騎士団長、これ転移出来ないぞ。というか、これを使うと魔物になるぞ。クソ勇者に騙されたな。」


「ば、馬鹿な!ランスロット様がそんなことをするはずが無い!嘘をつくな、返せ!!!」


 返すわけ無いだろ。こんな物騒なマジックアイテムはインベントリの肥やしにしてしまおう。

 後は騎士団長だな。仲間を置いて転移しようとするようなやつはどんな罰がいいだろうか。


「おい、お前らはまだやるのか?」


 騎士団長の周りにいた魔法兵は既に戦意喪失しているため、杖を捨てて両手を上げた。降参されたらどうしたらいいんだ。


「なぁルカ。こういう時ってどうしたらいいんだろうな。」


「本来なら戦争を仕掛け敗走した兵に情けなど無用です。人族は死刑や奴隷にするみたいですが、今回はハルト様のしたいようにするのが一番かと思います。」


 こんなむさ苦しい奴隷いらないし、売る方法ないし。せいぜい利用するくらいか。


 俺は思いついた方法を試そうと思い、騎士団長を黙らせることにした。

 

 




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