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1-1 目が覚めたら森だった




―――ゴブリンといえば、弱い魔物の代名詞だ

 しかし、目の前のそれは少したりとも弱さを感じさせるものがない。

 背丈は低いものの、あきらかに凶器になり得る鋭く尖った爪。筋肉質な腕で振る棍棒は10センチ程の樹を容易くへし折った。

醜悪な顔が獲物を刈る楽しみを我慢できずに、笑みが漏れている。


 きっと逃げることも叶わない。せめて武器の一つでもあれば、立ち向かうことも出来るかもしれないのに。



   ころされる。



 歯を食いしばり、震える手を握りしめた時、何もなかったはずの手に僅かな光と共に何かを握る感触があった。


「え?ハロワの種?!」


 一瞬唖然としたが考える暇もなく、目の前まで迫ってきていたゴブリンに視線を戻す。しかし、ゴブリンは突然足を止めた。


「グギャッ…グガヒュ……」


 何かを喚きながらしばらくこちらを牽制すると、やがて木々の向こうへゴブリンは走り去っていった。


「助かったぁ…それにしても訳が分からない。」


 手に持つ種を見つめるが、非現実的過ぎる出来事に思考回路がショート寸前だ。

 落ち着くように自分に言い聞かせる。ここが深い森の中であり、ゴブリンが突然襲ってきたということしか知っている事も無いので、逆にすぐに冷静になれた。


「ここはどこなんだ………とりあえず人里を探さないと。」


 目が覚めたら森にいて、移動を始めた途端にゴブリンに見付かったのだ。また、いつ魔物に襲われるか分からない。


 急いで移動を始めると、少し歩いたところで森が開け川が流れているのを見つけた。


「水だ!」


 ゴブリンとの遭遇や緊張しながらの森の移動のせいで、喉が渇ききっていた。石ころだらけの川辺に躓きながら、いそいそと川へと向かい駆けだした。


 顔を流そうと水面に近づいた時に、自分の顔が写る。


「ふぅ。どうしたものか。」


 見慣れた顔がうなだれている。しかし、自分以外の全てが見たこともない存在だ。顔や手を洗ってさっぱりしたのに、少し考えていただけで陰鬱な気分になってしまった。立ち止まると余計なことを考えてしまうので、足早に川を立ち去る。


 暫く森を進んでいくと、突如ひらけた所に古ぼけた小さな小屋を見つけた。しかし、ゴブリンがいるような森ではなにが住んでいるのか分かったもんじゃないので、近寄ろうかどうか悩んでいた。


「人の住処だといいんだけど。人でも悪者パターンもあり得るし。」


 なんか、気付けばずっと悩んでばかりいる気がする。そろそろ少しは大胆にでてみたほうがいいのだろうか。いや、しかし。


 このままだと思考の坩堝にはまりそうだったので、ここは一つ男らしく行動に出てみることにした。うじうじしてても始まらない。


「すみません!誰かいますかー?」


 暫く待つが何の返答もない。勝手に侵入しようかとも考えたが、生活感を感じたためやめておく。折角の第1村人との出会いが盗人認定じゃ悲しすぎる。



「ほぅ。人族とは珍しいのぅ。」


 突然背後から声を掛けられ、慌てて振り返るとそこには体中から枝や葉が生えた老人がいた。ヤバい、また魔物か?と考えたが、話しかけてきた知性を信じて会話してみることにした。


「こ、こんにちは。怪しいもんじゃないんです。」


 と、いきなり怪しいかんじになってしまった。コミュ障がこんなとこでまで仕事をこなしている。落ちつけ俺。


「突然訪ねてすみません。」


「いいんじゃよ。それよりも、こんな人里離れた森に人族が来るとはのぅ。……とりあえず入ってはどうじゃ?」


 おそらく人ではないが害意を感じなかった為、老人の後に続き小屋に入る。中は思ったより広く綺麗に片付いている。出されたお茶がとても良い香りで少し緊張が和らいだ。


「とりあえず自己紹介じゃな。儂は樹人族のフォルトラウダスじゃ。フォル爺でいいぞ。」


 おふっ。いきなり聞いたことのない種族名だ。もっとポピュラーなものなら知っているが、前の世界ではあまり聞かない種族だ。


「失礼ですが、樹人族とはなんですか?」


「簡単に言うと精霊のようなものじゃ。人とついておるが亜人の類ではない。もちろん魔物でもない。因みに樹人族は儂しかおらんがの。」


 やはりここでは魔物や精霊、亜人などが普通にいるようだ。フォル爺さんも悪い人ではなさそうなので、出来るだけ情報を聞いておきたい。その前に自己紹介だ。


「俺はハルトです。信じてもらえないかもしれないですけど……」


 俺はフォル爺さんにこれまでのことを話した。違う世界にいたことや種のこと、目が覚めたら森にいたことなど全てを話した。前置きをしたとはいえ、キチガイ扱いされるかもと思っていたが、フォル爺さんはあっさりと信じてくれた。


「異なる世界から召喚された者の話は聞いたことがある。だが、呼びされたわけでもなく突然転移してきたものは聞いたことがないのぅ。ところで、その種とやらを見せて貰ってもよいか?」


 ちょうど出そうかと思ったところだったので、すぐに取り出すと、種のヒビがさらに増し光量も増しているようだった。


「むぅ。……これはこれは。むぅ。」


 フォル爺さんは種を手に持つと黙り込んでしまった。かとおもったらぶつぶつと何か呟いている。邪魔しても悪いので、お茶を飲みながら静かに待つことにした。


「すまんすまん。ついつい見とれてしまったわい。とりあえず儂に分かることを説明しようかの。」


 種を返してくれるとフォル爺さんは色んなことを教えてくれた。かなり長い時間喋っていたので、要約するとこうだった。


 ・この世界には創造の種と呼ばれる種が存在し、その種を体に宿すと様々な効果が生まれるが、人族が使用すると体が耐えられず死ぬか、運良くて魔物化する。

 ・極稀に魔物が口にすることがあるが、上位種に進化したり、固有種になることもある。だが殆どのケースで死ぬだけで終わるらしい。

 ・俺が拾った種はその種の中でも一際大きく、有り得ない程の魔力を感じること。

 ・最近では滅多に見ることがない。


 種に関してはこんなところだった。それ以外には…。


 ・ここは太古の森と呼ばれ、どの国にも属さない土地で魔物が蔓延る場所、ここで人族に遭遇したのは初めてらしい。何故なら高位の冒険者でさえここまではなかなか辿り着けないようで、国をあげて攻め入る理由もなく、むしろ損害の方が大きくなる可能性の方が高いからだと思われるとのこと。なによりこの小さな小屋を見付けるにはこの森は広すぎるらしい。

 ・俺が遭遇したのはゴブリンではなく、ゴブリンとは比べものにならないほどに強力な魔物で、小屋に辿り着けたのはかなりの幸運だった。

 ・この世界にはレベルやスキル、魔法、魔物などが存在し、力のない者には生きにくい世界。

 ・ここのところ、魔物が活発に動き、人間同士の戦争も落ち着いているらしい。


 などなど。まだまだ細かい事を沢山教えてくれた。まぁ簡単に地球的に言うと……


 剣と魔法のあるファンタジーだ。もう一度言おう。

 

 ファンタジーだ。


 地球にいたころの小説やゲームなどで得た知識にかなり似ている部分もあり、案外すんなり受け入れられた。


 しかし、問題は山積みのようだ。まぁ、分からない事だらけだし、仕方ない。やれることからやって、少しずつ解決していこう。


「それにしてもおぬしは弱いのう。この森にいる存在からしたら弱すぎて不憫になるくらいじゃ。」


 説明を終えたフォル爺さんが突然ディスってきた。まぁあんな魔物を倒せるとは微塵も思えないからその通りなんだろうな。でもなんで分かるんだ?


「どういうことですか?」


「スキルはまぁ大したことないが持ってはいるようじゃが、レベル1ってのはなんじゃ?まぁレベル1で普通の村人とステータスが変わらんのはまだ良いとこじゃが。」


「え?ステータスとか、なんで分かるんですか?」


「そりゃ、鑑定のスキルを持っとるからの。伊達に長く生きとらんわい。」


 鑑定のスキル…はい出ましたファンタジー。そして、個人情報の保護はないようだ。

 しかし、異世界転移したのに、普通の村人と変わらないステータスって。異世界転移の現実はシビアなようだ。


「スキルはあるということですが、どんなのがあるんですか?」


 個人情報の漏洩の内容を聞いてみると、言わなくて良いのにほんとに大したことないんじゃがと言いながら教えてくれた。


「料理のスキルがレベル1。あとは馬術のスキルが2。じゃな。」


 あれ?馬術?馬なんて乗ったことも触ったこともないぞ。もしかして……テレビの通販で運動不足解消のために買ったトレーニング器具が、乗馬のような効果があるとか言ってたあれか?あれしかないけど、あれでいいのか?まぁ料理は下手だが自炊してたからな。


「そもそもスキルってなんなんですか?」


「スキルは言ってみれば、適正のある能力のブーストといったところかの。スキルレベルは経験により上がる。おぬしの料理のスキルで言えば、同等の腕の料理人が調理した際に、スキル持ちの方が圧倒的に美味しい料理を作ることが出来るのじゃ。しかし、スキルの適正がないと相当鍛錬せぬ限り取得することは厳しい。逆に適正がいいものは意図せずに取れたりするくらい容易く取れる。まぁ相性がいいものは普通はせいぜい二つほどじゃがの。」


 ということは、俺は料理の腕を生かして飯屋を営むか、乗馬スキルで馬車タクシーで生きていく感じになるのか。わくわくしねぇな。


「ステータスは、どういったことが見えてるんですか?」


 今度はステータスについて聞いてみる。するとフォル爺さんは書きながら教えてくれた。


 人族の場合には、

 ・名前、種族

 ・TP(体力ポイント)→生命力のようなもの。

 ・MP(魔力ポイント)→高いほど魔力を多く使える。魔力量とも呼ぶ。

 ・攻撃力→高いほど相手に与えるダメージが増す。

 ・防御力→高いほど相手からの攻撃のダメージを減らす。

 ・魔力→高いほど魔法の威力が増す。

 ・敏性→高いほど素早く動ける。

 ・器用→高いほど剣捌きがスムーズになったり、物作りが上手かったり等、様々なことを細かく出来る。

 ・取得スキル、固有スキル


 などが、数値化されたり、スキルはレベルまで分かったりする。魔物の場合はまた少し違うらしい。その他にも武器や防具、薬草、魔道具なども鑑定のスキルでは見ることが出来ると言っていた。ちなみに俺の種はよくわからないようだ。

 

 鑑定スキルかなりすごくね?便利すぎる。


 「おぬしは何もしらんようじゃから、説明不足かもしれんが時間がいくらあっても足らん。細かいことはこの世界を見て回って知っていけば良いじゃろ。」


 「ありがとうございました!あと、最後に…俺はそんなに弱いですか?」


 「弱い。この森基準で言えば、間違いなく魔物にあったら即死ぬのう。」


 この世界の冒険者や騎士団、傭兵などの闘いに身を置いている者は別として、普通の村人や商人などはレベルもステータスも平均的に10前後と基準的に分かりやすくなっているようだ。

 例えば平均的村人を鑑定すると、


 村人A 種族:人族 レベル:10 

 攻:10 防:10 

 などみんな10が平均的な数値で、人により多少の上下がある程度。スキルもそのレベルの人間だと、戦闘に必要なものは無く、生活の上で必要なものが一つあるかないかのようだ。


 ちなみに俺のステータスを聞いたところ…


 ハルト・キリュウ  

 種族:人族 

 称号:異世界人

 レベル:1

 

 TP:13

 MP:18

 攻:12

 防:9

 魔:12

 敏:9

 器:9


 スキル:料理1、乗馬2


 らしい。弱いのか?平均より低いのもあるけど、MPは平均より大部高いと思うんだが。


「そんなにもこの森は強い魔物がいるんですか?」


「少なくともおぬしが万が一にも倒せる魔物はおらん。おぬしの遭遇した魔物じゃが、あれはゴブリンではない。グランプスという魔物じゃ。この森では強くも弱くもないが、人族の騎士たちでも三人はいないと厳しいじゃろうな。高ランクの冒険者なら単独で倒せるじゃろうが。」


 やはりシビアな世界だ。単独で言えば魔物の方が圧倒的に有利なんだな。しかし、冒険者ときたか。ロマンだな。折角異世界に来たんだから冒険者になってみたかった。異世界転移早々に料理人や馬車タクシーが適正だと聞かされてなけりゃ、まだ夢が見れたのに。


「グランプスが引いたのは、おそらくその種から漏れている魔力をおぬしの魔力と勘違いしたんじゃな。」


 まさか梅干し型種に救われるとは…。人生分からないものだ。


「ありがとうございました。色々聞けてとても助かりました。」


「かまわんよ。儂も久々に楽しめたわい。ところでおぬしはこれからどうするんじゃ?」


 これ…どうしたらいいんだろう。森に入れば死ぬというし。どうすると聞かれてもどうしようもないよな。


 そんなことを考えて頭を悩ませているといきなり種が光り出した。


「まずいぞ!種を離すんじゃ!!」


 フォル爺が叫ぶと同時に、手の中にあった種は爆発するように光りを放ちだした。


 そして、まばゆい一つの(オーブ)が掌から宙に浮かび、俺の胸元に突き刺さってきたのが見えた。



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