3-4 聖教国の暗躍
俺は七支刀風の剣を肩に担ぎ、更に雷の魔力を体に纏う。
グリーンポセは野性の勘で何かを感じ取ったらしく、じりじりと後退していく。
……なんか突然可哀想になってきた。多分この剣の魔力からして撫で斬りにしても一刀両断しそうな気がする。ビームセイバーやめて斬鉄剣のほうが合ってるな。
向かってきてくれるんなら気にせずに戦えたんだけど、なんか耳垂れてるし、尻尾丸まってるし、小刻みに震えてるしな。
俺は名前が決まらなそうな魔法剣と纏った魔力を消して、グリーンポセに近づいた。すると奴も敵意がないことに気付いたのか、ゆっくりと尻尾を左右に振り出した。
「デカいけど可愛いな。案外、魔物でも普通の動物と変わらないんだなぁ。」
「ハルト様、それはグリーンポセが知能の高い魔物だからだと思います。ハルト様の強さと優しさに気付いたのでしょう。」
ルカが隣まで歩いてきて教えてくれた。目は合わせてくれなかった。
どうやら高ランクになればなるほど知能の高い魔物が増えるらしい。相手が明らかに格上でも立ち向かってくるかは種族と個体の性格次第らしい。
「ハルト様は魔物にまで優しいのですね。……です。」
ルカが褒めてくれたみたいだ。しかし顔を赤らめ下を向いてしまった。いつものように最後の方が聞き取れなかったが、馬鹿にされなかった事を祈ろう。まぢアホです。とかだったら立ち直れない。
「お前何でこんなとこにいるんだ?ちゃんと自分の住処に帰らないとダメだぞ!」
グリーンポセは長い鼻をスリスリしてくる。産毛がチクチクするけど可愛い。
少しの間イチャイチャした後、グリーンポセは巨体を揺るがして自分の住処のあるらしき所へ歩いていった。
「そんな……ありえない……。」
顔面蒼白でグッタリしていたはずの魔法使いが、普通に立ち上がって呆気に取られて固まってる。根性ある奴だな。一応声をかけてみる。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ。助けてもらってすみませんでしたねー。」
なんかふてぶてしさを感じるな、こいつ。
「気にするな。急ぎの身なのでこれで失礼させてもらう。」
「ま、待った……。」
俺はこれ以上足止めを食わされても嫌なので、聞こえないふりをしてルカと歩き出した。僧侶さんは剣士と盾役を回復させようとブツブツと詠唱していたが、立ち去るときについでに回復しといたので、ほっといてもそのうち目を覚ますだろう。
そうして、俺達はまたドラゴニュートの住む隠れ里へと急いだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
― 約半日後、聖教国にて ―
長く白い髭を生やし、眼鏡を掛け痩せ細った老人が口火を切る。
「それでは我が同士達、報告をお願いしますよ。」
「氷龍姫と接触は出来たが上手いこと引き留められなかった。情報通り男連れだった。かなりの腕利きだ。グリーンポセの攻撃を受けてもピンピンしてやがった。里の正確な場所は分からないが、あいつらが向かっていった方角なら分かる。」
「そうよそうよ!しかもあいつ私が苦労してテイムしたパオちゃんを勝手に放流したのよ?!ランスロット様に用意してもらったとはいえ、死ぬかと思ったんだから!それなのに愛しのパオちゃんとイチャイチャしやがって!あり得ないっつーの!なんなのよあいつ!絶対許さないんだから!」
「報告は以上ですか?……ならば同士達には罪を…リスキア様の名の下に死の罰を受けて頂く必要がありますねぇ。」
老人には痩せ細った体からは想像つかない迫があり、冒険者パーティーの四人は息を呑んだ。
すると突然五人しかいないはずの部屋から、六人目が喋り出した。
「まぁ落ち着きなよ大司教さん。一度くらい多めに見てあげれば?頑張ってくれたんだしさ。」
「……ランスロット様ですか。」
「わざわざAランク冒険者の光冠の皆さんが報酬無しで頑張ってくれたんだからさ。それに、彼らでもドラゴニュート相手ならかなりの戦力になると思うよ。」
「わかりました。本来なら、聖教国の冒険者ギルドに所属するものが、リスキア様の神託を実行するためにおいての重要な依頼に失敗したのですから、天罰を受けるところです。ましてや、今回の神託には教皇様を巻き込んでいる。しかし今は時期が時期ですからねぇ。今一度チャンスを授けます。ドラゴニュートの蹂躙…いやっ、リスキア様の聖戦において、結果を生めば不問としましょうかねぇ。」
「わ、わかった。」
大司教の威圧に震えながら冒険者達は部屋を出て行く。
「それにしても、あの男…生きていたとはね。僕をあそこまで焦らせたやつはいないよ。ほんとに死ぬかと思ったんだから。あいつの意識が朦朧としてなかったらヤバかったよ。」
「それ程の者が一体何処に隠れていたのか。帝国が怪しい所ですが、奴等がドラゴニュートを庇護するとは思えませんねぇ。」
「まぁ何処に行こうとすぐに分かるよ。ヌーバを付けてあるからね。そろそろ戻ってくるんじゃないかな。あっ、来たみたいだよ。」
するとドアも開けず音もさせず部屋の隅の影から一人の男が現れた。
「グゲゲ。ミツケタぞ。リュウジンたちノスミカヲ。オシエル、ダカラはやクオンナヲくれ。」
「はいはい。用意してあるよ。じゃあ、後のことは大司教さんに任せるから、ドラゴニュート蹂躙してねー。」
「さすがはランスロット様ですねぇ。ではお任せ下さい。リスキア神様の信仰にかけて。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
― 時は戻りハルト視点 ―
「ルカ、疲れてない?」
「はい、大丈夫です。」
ルカが笑顔で答えてくれた。ルカは辛いことがあったばかりなのに気丈に振る舞っていて、無理してないか心配になる。
冒険者達と別れてから1時間程、中々の速度で飛んできた。山をいくつか越えて川沿いを飛んでいると、やがて高さ80メートルはありそうな立派な滝が現れた。
「ハルト様、あの滝壺の傍で降りて下さい。」
ルカの言葉に従い俺はスピードを落とし着地の準備をする。落差のある滝の傍で湿気があるが心地よい。マイナスイオンって効果が存在しないとよく聞くが、プラセボ効果のせいか癒しが半端ない。
「あの…ハルト様よろしいでしょうか?」
いかんいかん。ついリラックスしてまったりしてしまった。
「この滝壺の裏に洞窟があります。そこへ行きましょう。」
「うん。じゃあ行こうか。」
ついついリラックス効果のせいか呆けてたからかルカの手を取って歩き出してしまった。これってセクハラとか言われるかな。今更いきなり手を離したらそれはそれでなんか怪しい感じするし。まぁいいか。
振り返ると繋がれた二人の手をルカが目を見開いて見詰めてる。その顔が可愛くて見とれていると目が合ってしまった。
「…………!」
ルカは再度あたふたし始めて俯いてしまった。ルカは美少女なのに純情乙女らしい。
「あっ!洞窟がある!ここだね!」
滝の裏の洞窟は入口が狭かった。そのせいで繋がれた手が離れてしまった。残念だ。
洞窟は中に入ると意外と広かった。ライトボールで周囲を照らし、今度はルカが先導して歩いていく。
20分程歩いていくと、前方から光が見えだした。
「ハルト様、出口です。龍人の里、スカイガーデンへようこそ。」
光の先へ行くと、そこには窪んだ谷に作られた隠れ里が出て来た。
俺はようやく着いたと喜んで心が緩んでいた。尾行されていたことに気付かないほどに。




