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3-2 龍人と鋼腕アダム



龍人(ドラゴニュート)


 その始まりは龍と人との間に生まれて出来た種族、または神の悪戯とも呼ばれている。


 同じ種族とはいえ、個体差が激しく、姿が人族に近い者もいれば、気性が荒く見た目もドラゴン寄りの者も居る。


 一つの夫婦の間に作れる子供は限られている為、個体数は少ない。しかも彼等は人前に姿を表す事を好まない。その為、人族は彼等を目にする機会は一生に一度有るか無いかだった。



 ある時彼等の中に、強い力を持った者が生まれた。そして彼はとても心優しく、その力を種族の為に世界の為に使いたいと言い、世界中を旅して回った。


 彼に助けられた者は数知れず、段々と名が広まり始める。


 その名はグナシア。


 やがて、ドラゴニュートを亜人と忌み嫌っていた者達も見方が変わり始めていた。


 他のドラゴニュート達も彼のおかげで、少しずつ外に出て行く者が現れ始めていた。そしてグナシアの子供もそうだった。氷龍姫と人族に呼ばれる女の子だ。


 

 人族に徐々に認められ順風満帆に全てが上手くいっていた。魔王が現れたら共に戦おうと勇者達とも約束した。


 彼の努力が実り始めた。そんな時だった。




 ――グナシアは新たなる魔王だ――


 聖教国の教皇が突然騒ぎ出した。国民は其れを直ちに鵜呑みにし、三勇の一人も聖教国の教えの基に居たため、すぐに彼を討伐すべく立ち上がった。


 グナシアは戦わずに逃げ続けた。やがて三勇の残りの二人もグナシアを魔王だと聞き、追い始めた。


 彼はそんなことで誰も傷付けたくない、きっと何かの間違いだと叫び続けた。


 聖教国は全く聞き入れなかった。それどころか、三勇の一人ランスロット・オーウェンはグナシアの娘を騙して捕虜にしたのだ。

 

 グナシアは娘を助けるべく聖教国に乗り込んだ。これまで築き上げてきたものが容易く崩れていく。どうしてこんな仕打ちをするのか、これが人族というものなのか。



 どうにかグナシアは娘が北の塔の最上階にいるのを見つけた。グナシアが最上階の扉を開けると、縛られた娘が勇者に窓から投げ捨てられた瞬間だった。


 グナシアは片手で勇者を牽制し窓ガラスから塔の外に出る。


 何とか空中で娘を掴み地面へ着地し、娘を束縛している手枷やロープを解く。


 彼は娘に隠れ里へ戻り、仲間に伝えるように頼む。


 娘は嫌がった。グナシアは強いが、勇者を牽制した際に片腕を犠牲にしたのだ。片腕で勇者相手に勝てるはずが無いと娘は言うが、自分が囮になるため、一緒に逃げるわけにはいかなかった。


 娘は仲間達の存亡を託され、渋々走り出す。其れと共にグナシアは固有スキル、龍化を使う。


 勇者相手には悪手だが、目立つには最適だった。


 全ての敵は巨大な氷龍へと変身を遂げたグナシアに目を向けた。



 魔王と呼ばれたグナシアは、それに見合う程に暴れた。娘に少しでも魔の手が伸びないようにするために。


 

 娘は父の咆哮を聞いた。


「どうか生き延びてくれ。」


 人族には分からなくても娘には確かに伝わった。その想いを聞いて、娘は振り返った。


 娘が見たのは、遙か遠くで暴れていた巨大な氷龍が倒れていく姿だった。


 


☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 ルカはゆっくりと俺に説明してくれた。


 自分がドラゴニュートだということ。父親のことを邪魔に想う者に騙されて攫われ父親が殺されたこと。


 そして、岩山の岩陰で隠れて休んでいたが、例の男に見つかって殺されかけたこと。


「あの時、ハルト様がいなかったら私は死んでいました。心から感謝してます。何かお礼がしたいのですが、手持ちが何も無く、何より里に戻って皆に知らせなければならないことがあるので、時間がありません。いずれ…いずれ必ず!」


 まだ話をしてたがかぶせ気味で俺は話し出す。何故なら別れ話になりそうだったので、阻止したかったからだ。このままさようならするにはこの子の事を知りすぎた。出来るかわからんが、助ける努力をしなかったら絶対後悔する気がする。


「あのさ、里に戻って伝えることってなに?」


「聖教国で塔に幽閉された際に、父が魔王だから私達の里を探して一族もろとも滅ぼすと聞いてしまいました。お母様に相談して戦うか逃げるかしなければなりません。お母様も長いこと病気で寝たきりなので、あまり動かしたくはないのですが、致し方ありません。」


 この世界の勇者と宗教腐りきってやがる。こんな良い子を泣かせるなんて万死に値するね。許せるわけが無い。


「じゃあ急いで里へ行こう!お父さんもまだどこかで生きてるかもしれないし、里の皆のために急ごう!俺も全力で手伝うから!」


「敵は聖教国です。国です。数が多すぎます。勇者も敵に回すことになります。死にに行くような戦いに巻き込めません。」


「難しく考えすぎだよ。俺が助けたいから行くだけ。ルカを死なせたくないんだ。とりあえず俺のせいで10日以上遅れてるから急ごう!」


「……わかりました。」


 俺は体の調子が戻ってるか確かめたいのもあり、魔力を体に纏う。まだ本調子ではないが、良い感じだ。


「どうやって行こうか?」


「ドラゴニュートは翼があるので飛べる者が多いのですが、私は飛ぶ事が出来ません。」


 じゃあ歩きか。でも全力で走ったとしても時間がかかりすぎる。


「急いでるとこ申し訳ないんだけど、俺に15分だけ時間くれない?」


「え?ええ、ハルト様からのお願いですから、もちろんです。」


「じゃあ、これ食べて待っててね。」


「え?」


 ラドゥカ達の所を出るときにもらった果物を一つ手渡すと、ルカが目を丸くして固まってしまった。珍しい果物なのかな?あっ!!インベントリか!!……まぁルカならいっか。


 俺はルカから少し離れて魔力を練る。ルカは強いし、ここいらの魔物じゃまず相手にもならないだろうから、安心して作業が出来る。


 まずはイメージだ。ドラゴニュートみたいに翼を生やすか。いやっ、それだと疲れそうな気がする。加速○置的なのもカッコいいけど、結局走るようだし今は急いでるからもっと早そうなもの。そうなると飛行機、いや空飛ぶロボ……。よし、それでいこう。


 マジッククリエイトで飛行魔法を作り始める。イメージは地球で有名なマンガの鋼腕アダムだ。風の魔力を脚から噴射させるイメージ。エアフライトとでも名付けよう。


 すると足の裏当たりから風が吹き出す。地面が抉れて体が浮いた。


「すげぇ。浮いてる。」


 魔力を強めてみると一気に空へ飛び出した。気を抜いて落ちないようにだけ気を付ければ、かなり早くドラゴニュートの住む里へと辿り着けるはずだ。


 この体のおかげか、スキルのおかげか、緻密な魔力操作が出来るので、そう簡単には落ちる気がしない。

 ロマン飛行魔法完成だ。


 ルカの所へ急いで戻り、すぐ出発出来るか確認し空を飛んでいくと説明した。


 すると、ルカはまた驚いて固まっていた。


「ハルト様はいつも驚かせてくれるんですね。まだまだ驚きが隠れていそうで、少し恐いです。」


 恐いと言いながらも笑ってくれた。よかった。


「じゃあ、出発だ!」


 俺は背中にルカを背負い出発した。 

 


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