10-7 神
皆が俺を支えてくれる。
リスキアも死ぬかもしれないのに命懸けで助けに来てくれた。勿論ルカ達も命懸けだ。ついさっきまで大変な目に遭っていたはずなのだが、即座に俺やリスキアの為に戦っている。
実際助けられているのだが、それ以上に気持ちの面で救われた。
いつだって彼女達の温かい気持ちが俺の弱い心を支えてくれる。
「絶対……絶対に誰も死なせない!!マジック・クリエイト!!!」
どれだけ魔力を消費しようと必ず助けてやる。
3人を信用して背を預け、俺は胸の傷を塞ぐ魔法を創り上げる。魔力だけでは中々発動しなかったので神力を混ぜていく。
やがて多量の魔力を消費したが白金に輝くオーブのようなものが手に生まれた。それをリスキアの胸に優しく押し当てるとゆっくりとリスキアに浸透していき、胸の傷が修復されていった。
「んっ。ハルト…ありがとう。」
「お互い様だろ。」
リスキアを抱き上げナルキテラから距離を取ってから下ろした。そして全力の結界を張る。
「リスキアも出来たら結界を重ねがけしといてくれ。」
「ハルト、ナルキテラの力は想定以上です。ここは一旦引きましょう!」
「駄目だ。ナルキテラをほっといたらあっと言う間に世界が滅ぼされるぞ。……ここで決着を付ける。誰も死なせない!!」
「ハルト…。」
とはいったもののナルキテラに勝てる要素は未だに見いだせていない。神力も残り1回だけだ。
恐らく半端な力では歯が立たないだろう。ナルキテラの魔力では折ることが出来ない刀を創ったところで俺の体を狙われて終わりだ。
今までとは違った根本的にナルキテラを超えられる力を手に入れなくてはいけない。
でもそんなことが可能なのだろうか。可能だとしても、残りの魔力で賄う事など不可能なのではないだろうか。
それでもやるしか無いんだ。今までだってやばい局面をどうにか乗り越えてきたんだから、今回だってきっとやれる。それに例えこの身が耐えきれなくとも、ルカ達やこの世界で出会った人達の命には代えられない。
「……必ず倒す。」
目を閉じ集中力を高め魔力を体中に巡らせる。
神界であれば神々も戦えるだろうが、地上では制約がつく為にナルキテラには敵わない。だがナルキテラは地上で成り上がった邪神の為、制約が適用されずそのままの力を手にしている。
その事を考えていると今試せることが浮かんできた。
「マジック・クリエイト。」
ナルキテラが地上において邪神となったならば俺は地上で神の力を手に入れてやる。
「…………神化。」
練り上げた魔力を一気に解き放つと激痛が体を巡り思わず叫び声を上げてしまう。
「馬鹿な!?地上で神魔力など有り得ん!!何をした小僧ッ!!!」
「余所見とは余裕ですね。神龍剣・零下一閃!!」
「こざかしいぞ小娘共がぁ!!!!!」
ルカが剣技を放つと、苛立った様子でナルキテラが黒い魔力の塊を爆発させる。
ルカ達は防ぎきれずに吹き飛ばされ、壁に背から激突し墜落していく。
「もしや……神魔力に体が対応出来ておらぬのか?」
俺は激痛だけでなく口からゴボゴボと血を噴き出してしまっている。血や肉だけでなく細胞から書き換えられているような感覚だ。
それを見たナルキテラは少し安堵した表情を浮かべ、すぐには動き出さなかった。
「ふははははっ!どうやったのかは知らぬが神の力は人族風情が扱える代物ではないということだな!!」
神界の魔力に包まれているのにも関わらずまるで地獄の業火に焼かれているかのような痛みに頭がおかしくなりそうだった。そんな苦しむ俺を見てナルキテラは楽しげに笑う。
だがランスロットは教えてくれたぞ。油断するなとな。
「うるぁぁああぁぁぁーッ!!!!!!」
手を地面に付き魔力を解き放ち、俺とナルキテラを覆う小さめな結界を作り上げる。
俺の魔力に一瞬焦りの様子を見せたが、発動させたのが結界だと知り安堵の表情を浮かべた。
「何をするかと思えば……つまらぬ真似をしたものだ。結界で余を覆ったところで何だというのだ。お前が更に窮地に追い込まれただけだぞ。」
「うるせぇ……。誰にも……手出し……させねぇためだ。」
「ふはっ、ふははははは!!死に損ないが調子に乗るな!!!!!」
いつの間にか出来ていた血溜まりに膝を付き、それが自分のものだったとは信じられなかった。
しかし明滅する視界がそれを証明していた。
もうじき体は動かなくなるだろう。それまでに……ナルキテラを討たなくては。
「来やがれ……クソ天使……。」
「今は神だがな。」
ナルキテラは何とか立ち上がった俺に前蹴りを放つ。吹き飛ばされた俺は自らの創り上げた結界に激突し倒れ込んだ。
「効か……ねぇぞ。」
ガクガクと笑う膝を掴み立ち上がる。全身血の赤に染まった俺をナルキテラは憐れむように近づき、側頭部へ回し蹴りを放つ。
繰り返しのように結界にぶち当たり、脳がドロドロに溶かされて混ぜられているような感覚に吐き気を覚えたのだが既に胃の中には何も無く、吐瀉物の代わりに血が溢れ出て来るだけだったい。
視界が……世界が回っている。
もう、手足に力が入らない。
「ようやく限界が来たか。羽虫如きがよく足掻いたものだ。だが楽しませて貰ったぞ。お礼に苦しまずに殺してやろう。」
ナルキテラが何かを言っている。
きっと俺を殺すための前口上だろう。
剣を手に持ちゆっくりと近寄ってくるナルキテラが3人に見え揺れている。
「く……そ。」
もう痛みは感じなくなっていた。
いよいよ末期だな。
俺が死んだら、ルカとシロとアイナは悲しむだろうな。
リスキアの願いも叶えてやれなかったな。
『ハルト様。』
あれ……ルカの声が聞こえた気がする。何だか安心する声だな。
『ご主人たま。』
あれ?シロって念話出来たっけ。でも可愛い声だな。
『ハルトさん。』
アイナか。ごめんな、地球に戻してやれなくて。
『ハルト。』
リスキア、この世界守れなかったよ。ごめん。
最後に皆の声が聞けて穏やかな気持ちになれた。
死にたくないし、諦めたくない。
だが既にナルキテラは漆黒の魔力の剣を振り下ろしている。
あの鋭い刃はやがてこの首を切断することだろう。
……やがて?
違和感を感じナルキテラを凝視すると、目にも止まらぬ攻撃を繰り出している筈のナルキテラが1秒に1センチ程しか動いていなかった。




