10-2 負け組
雷鳴が轟く。
時空の狭間のような天井にて。
高いのかも低いのかも分からないその場所で、ハルトの魔力が暴れ回っている。
「な、何よこの魔力は!!!」
「ハルト様……。」
「いつもと違う-!これは嫌いな魔力だ-!!!」
アイナは強大な魔力に驚愕し、シロはいつものハルトの暖かな魔力との違いに嫌悪感を抱き、ルカは以前のハルトが自分の為に創造してくれた魔法が自分を襲ってくる事に悲しみを覚えた。
「許しません。防戦一方では駄目です。ハルト様の魔法が止み次第打って出ましょう。」
「アイアイサー!!」
「止み次第って!!!こんな馬鹿げた魔力が込められた魔法防げるの!?」
「防いでみせます。いえ、必ず防ぎます!!!2人は攻撃の用意をしていて下さい!!!!」
「おっけぇ!!わかったわ!!!!」
「ハルト様、もう少しだけお待ち下さい。…氷結界ミルシブリア!!!」
やがて雷鳴は落雷を呼び起こし、まるで雨のように雷が降り注いだ。
限界まで圧縮して小さく作った氷の結界を発動し、3人が何とか入れる程度の結界が完成した。
すると3人の頭上から光が降り注いだ。極太の雷は小さな結界を呑み込み、まるで光だけの世界にいるようだった。
「ぐぅ!凄い衝撃!!ルカ、大丈夫!?」
「ルカちゃん!!頑張って-!!!」
魔力を注ぎ続け、結界が破壊される前に修復するという作業をルカは続けた。
百の雷が天から降り注いだ後、一瞬の静寂が訪れる。そして直ぐさま百の巨大な咆哮が生まれた。
「えぇ!今ので終わりじゃ無いの!?」
「はい。ハルト様のこの魔法はここからが本番です。必ず耐えきってみせます。」
「シロはいつでも行けるよー!!!」
シロはルカが耐えきれると信じ切っていた為、溢れ出すほどの神力を手足に纏っていた。
「よ、よぉし!!ルカ、私も攻撃だけに集中するから頼むね!!!……ハァァァ!!!」
アイナもルカに命を預け、柄を握り締めて魔力を鞘に封じ込める。
天から降り注いだ雷は百の龍と化し、縦横無尽に暴れ出した。巨大な雷龍は結界へ何度も何度も齧り付き、その度に氷は削られ、その度にルカは修復し続けた。
ルカは考える。他の強烈な一撃で結界が破壊される事だけは無いようにと。そうすれば最後まで耐えきってみせると。
ルカがひたすら耐えていると、ぶつかり合った雷龍が共食いしたかのように相殺されて少しずつ消えていく。
ルカはこのままなら耐えきれる、そう確信した時……聞きたくない声を聞いたのだった。
「灼熱の業火よ、その者共を焼き尽くせ……ギガフレイア。」
「くっ……ランスロット!!」
まるで太陽。
そんな表現でも過剰とは言えない極大の炎魔法がランスロットの構える両手から生み出された。
雷龍だけならどうにかなるが、2つを同時には耐えきれない。
「2人ともごめんなさい。これ以上は……」
「いいのー!ルカちゃん、せーので結界といてー?今度はシロの番だよ-!!アイナお先~!!むむむぅ……せーの!!!」
迫り来る炎の塊と雷龍。シロはそんな中でルカに結界を解けと言った。
普通に考えれば余りに無謀な事だが、先程までのシロ同様にルカもシロを信頼しきっていた。
「はい。シロちゃん。」
「ちゅ~りゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁーッ!!!!!!!」
シロは神力の混ざった魔力を全開に解き放ち、手弾を放てるだけ放った。
シロの本気の手弾にぶつかった雷龍は弾け飛び見る見るうちに消えていく。
そしてシロは刹那の間で雷龍だけを消し去った。
「あとはアイナよろしくねー!!!」
「…………。」
下を向き、返事もせずにアイナは集中していた。だが、それこそが返事だとシロは知っていた。
既に避けることも叶わない程に炎の塊は迫っている。そしてその魔力を欲してるかのようにアイナの鞘がガタガタと震えだした。
絶望的に見えた状況だったが、シロもアイナも攻撃の準備を終えていたのだった。
「レリズラルグスラッシュッ!!!!!!!」
まるで魔力の暴走のように見えたそれは、目にも止まらぬスピードで剣を抜いたもの。
極限まで鞘に溜められた魔力が剣に纏わり付きそのまま剣閃となり飛び出していく。そしてランスロットの極大魔法ギガフレイアを真っ二つに切り裂いた。
そしてそのままランスロットまでをも切り裂くと思われた時、クロトワが立ちはだかった。
「……黒血結晶。」
クロトワが黒槍を突き出すとどす黒い液体が生まれ歪に広がると、まるで黒い結晶石のように固まった。
アイナの剣閃が結晶に当たり火花が散る。もう一押しかと思われた時、またしても横やりが入った。
「雷光咆。」
ハルトが放った光属性の混ざった雷がごり押しでレリズラルグスラッシュの軌道を結晶からずらすと、剣閃は結晶からズレて飛んでいってしまった。
「くぅ~!!やるな偽ハルトさんめ~!!」
「アイナもやるなー!!」
「……2人ともありがとう。」
ルカが2人の手を取りお礼を口にすると、強く握り返した2人がルカを見詰め返した。
「なにいってんの!!こっからが本番なんだから!!過去の勝ち組にリベンジと行こうじゃないの!負け組ファイトーッ!!!」
「すーぱーファイトー!!」
「そうですね。3人でリベンジしましょう!!」
気持ちを入れ替えた3人は並び立ちハルト達を見据える。過去の自分では敵わなかった高い壁だったが、ルカは2人と一緒なら必ず乗り越えられる、そんな気持ちになっていた。




