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3-1SS 氷龍姫の覚悟



 この人は誰なのだろう。


 何故私なんかを、こんなボロボロになってまで救ってくれたのだろう。


 





 あの時、私は追い詰められていた。


 どうにか逃げ延びたが、岩山で追い付かれた。


 やはり、三勇の一人ランスロット・オーウェンは強かった。


 確実に当てた筈の魔法も大地を削るだけ。


 広範囲魔法さえも効かない。


 魔力はもう少なくなり、諦めかけたその時。


 勇者はこの人と話していた。

 

 私を相手にもせずに。


 だが、二度と無いチャンスだと思い、勇者目掛けて魔法を放つ。


 なのに、勇者は当たり前のように避けて、この人だけに魔法が当たってしまった。


「そ、そんな…。」


 私は力みすぎて、魔法の操作が上手くいかなかった。


 すると、すぐ後ろから勇者の声がした。


「あーあ。ひどい女だね。関係無い一般人を殺すなんて、勇者としてはやっぱりほっとけないね。」


 追い詰められていたとはいえ、私はなんてことを……これでは勇者の言うとおりの人物だ。


 しかし、私はこの人を助けに行けなかった。死ぬわけにいかなかったから。


 そして、勇者が固有魔法の聖剣を放つ。どうにか、2本は止められたのに最後の一本が胸に刺さった。


 私は今ここで死ぬんだ。そう覚悟した。


 その時。

 

 この人は私を助けに来てくれた。話をしたことも無いのに。傷付けた筈なのに。


 それなのに、彼は、私を守るために死ぬ気だった。


 悔しくて、悲しくて、助けたいのに、


 でももう体は動かなくて。


 何故か、話したことも無いこの人の胸に抱かれながら、泣いていた。


 身を挺して守ってくれるこの人が作ってくれた結果ならどうなっても仕方ないと考えた。


 例えそれが私の死でも。


 だから、お願いだから死なないで。


 そして私は爆音とと共に意識が無くなった。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 目が覚めたら、この人の結界に包まれていた。


 隣では彼が眠っている。


 どうやら岩山から吹き飛ばされ、川へと落ちてプカプカと浮いて流されていた。


 彼に身体の傷は癒してもらっていたので、どうにか外に出ようとしたが、この結界は壊せなかった。


 仕方なく彼が目覚めることをひたすら祈っていた。


 でも……彼は目を覚まさなかった。


 どうしてもお礼を伝えたくて、私の為に死んで欲しくなくて、体力が許す限り、回復魔法を使い続けた。


 しかし、どんなに。どんなにどんなに回復魔法をかけても、私の魔法で彼が目を覚ますことはなかった。


 丸一日以上流され続けた。


 時には濁流に呑まれたり滝から落ちたりした。魔物が襲ってきた時もあった。


 それでも彼の結界は私を守り続けた。


 結局結界が解けたのは、目が覚めた朝から丸一日半が過ぎた夜だった。


 突然前触れも無く結界が解けた為に、ドポンと二人とも川へ落ちてしまった。

 

 慌てて私は彼を川岸へと運ぶ。


 ずぶ濡れになってしまったので、急いで木を拾い集めて焚き火を起こした。


 彼を焚き火の傍へ寝かせ、服を脱がす。急いで風魔法で乾かして服を着させた。


 私も服を乾かして、彼の傍へ行く。


 少しだけお腹が空いたけど、何故だか今はまだ、この人の傍を離れたくなくて、すぐ隣で眠りについた。


 


 翌朝になっても、彼は目を覚まさなかった。


 でも、彼の胸に耳を当てると、ちゃんと鼓動が聞こえた。


 その音を信じて、私は待ち続ける。


 


 時々魔物が私達を狙ってやってきた。


 本当は果物や木の実や野菜なども取りに行きたかったが、この人を残して行けないので、魔物の肉を焼く。


 食べさせようにも飲み込めないので、私が沢山噛んで柔らかくしてから口移しして食べさせ続けた。


 この人の為なら、それが初めての口づけでも後悔は無かった。


 




 そして10日目の朝を迎える。


 目が覚めて、彼の様子を見る。


 今朝も目が覚めていなくて、少し不安になる。本当は帰らなくちゃいけないのに。でも諦めたくなくて、私は毎日続けているお世話を今日も始める。


 夜の間に消えてしまった焚き火に火を付ける。


 数日前に服の袖を切り、タオル代わりに使うことにした布を持ち、川へ向かう。その布を濡らし、この人の顔や身体を拭いていく。


 


 名前も知らないこの人。


 この人の事を毎日お世話をするうちに、


 この人の事を心配するうちに、


 この人の事を魔物から守っているうちに、


 この人の為にご飯を作り食べさせているうちに、


 考える事は、この人のことばかり。


 名前や性格、どんな声で話し、どんな顔で笑うのか。


 目が覚めたら私を拒絶するかな。こんなひどい目にあったのだもの。


 そして不安の質が変わり始めている事を知る。


 私は酷いことをしてしまった彼対して……恋心を抱いてしまっていた。


 


 今日も手を取り、回復魔法をかけていく。


 魔物が来ても倒せる力を残して、それ以外の魔力を全て注ぎ込む。

 

 私の魔力が彼へと伝わり、彼が白く光り輝く。祈りながら彼を見詰める。お願い。起きて。そう願いを魔力に込める。


 やがて私の魔力も残り少なくなり、魔法を止める。


 彼の身体から光が消えていく。


 


 


 今日も彼の目は閉じたまま。




「お父様……。お願い……します。この人を助けて。お願い…。」


 もう。目は覚めないの?


 この人は助からないの?


 全て……私のせい。


 涙で何も見えない。


「うぅ…辛いよ……お母様……。」


 そろそろ、私も顔を洗わないと。ご飯も食べさせてあげないと。


 でも涙がどうしても止まらなくて。


 彼と代わってあげたくて。


 


 もう、胸が張り裂けてしまいそう。








「だ、大丈夫?!どこか痛いの?!」




 後ろを振り返ると、彼が起き上がろうとしていた。




 今度は嬉しくて涙が溢れた。


 色々話をしたいのに。お礼を伝えたいのに。


 先に身体が動く。


 私は彼の胸に抱きついて、泣き続けた。


 


 まるで親に甘える子供のように。



 彼が目を覚ました以上、私は帰らなくてはならない。もうすぐ別れがくる。



 でも、お母様ごめんなさい。このまま。あと少しだけ。


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